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中東地域での中国の影響力は低下しているか?

2023/11/16

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イスラエル・パレスチナ紛争への関与に中国は慎重か

米国時間11月15日に開かれた米中首脳会談では、イスラエル・パレスチナ紛争も議題となった。ただし、この問題への中国の関与の度合いは、今のところ当初考えられていたよりも小さいのではないか。

今年に入ってから中国は、サウジアラビアとイランの国交正常化の合意を仲介するなど、中東地域での存在感を一気に高めた。これは、グローバルサウスの国々を取り込む戦略の一環でもあっただろう。また中国は、イスラエルにとって第2位の貿易相手国であるなど、両国は強い経済関係を持っている。

イスラエルとイスラム諸国の双方にパイプがある中国は、事態の改善に向けて一定の力を発揮できる立場にあるようにも思える。しかし、今のところ中国は中東問題で目立った動きをしていない。当面は事態を見守っているということかもしれないが、それに加えて、中国にとって中東地域の経済的重要性が低下していることも、慎重姿勢の背景にあるのかもしれない。

中国の中東地域へのエネルギー依存度は急速に低下

中国は今まで、中東地域からのエネルギー輸入の増加と同地域への直接投資の拡大の2本柱で、中東地域への経済的な影響力を高めてきたが、その流れに変化が生じている。

中国の中東地域からのエネルギー輸入に大きな変化をもたらしたのが、ウクライナ戦争だ。これをきっかけに、中国はロシアからの原油輸入を大幅に拡大し、ロシアが中国への最大供給国になっている。データ会社CEICによると、中国の2023年7-9月期のロシア産原油の輸入量は、前年同期比で42%増加した。これに対し、イラクからの輸入量は6%増にとどまり、また以前は最大の供給国だったサウジアラビアからの輸入量は11%減少した。

中国にとっては、中東から海上輸送で原油を輸入するよりも、ロシアからパイプラインを使って陸上輸送で輸入する方が、都合が良い。中東地域での地政学リスクが高まる際や、中国が西側諸国と軍事的に衝突する際には、シーレーン(海上交通路)はその影響を受けやすいからだ。

中国は中東地域への投資を拡大する余裕がなくなっている

他方で、中国から中東地域への投資も鈍っている。2021年に「一帯一路構想」のもとでの投資先で、中東・北アフリカ地域は最大であり、総額590億ドルの投資と「一帯一路構想」に基づく契約のうち約29%を占めていた。しかし、新型コロナウイルス問題や、「債務外交」批判の影響から、同地域への投資は足元で鈍化している。

アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のデータによると、2023年上半期に締結された「一帯一路構想」の大型契約は計約400億ドルで、2019年以降で最大となる見通しだが、それでもコロナ前の年間1,000億ドル超の水準には達しない。

さらに、足もとでの中国経済の減速、不動産不況、地方政府の財政不安などから、中国は中東地域を含む「一帯一路構想」加盟国への投資を拡大させる余裕がなくなっているだろう。

このように、中国は中東地域からのエネルギー輸入の増加と同地域への直接投資の拡大の2つの側面から、中東地域との経済関係が後退している。そうした背景のもとで、中国はイスラエル・パレスチナ紛争についての積極的な関与を控えている面もあるのではないか。

中国のそうした慎重姿勢は、イスラエル支援の姿勢が国際社会で批判を浴びている米国やその他主要国にとっては、多少の助けとなっているだろう。

(参考資料)
"中国の影響力にも限界、中東で陰り(China's Middle East Clout Has Limits)",Wall Street Journal, November 14, 2023

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