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中国によるデフレの輸出を警戒する米国

2023/11/17

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米中首脳会談下で米中経済は対照的な状況に

15日にサンフランシスコ近郊で開かれた米中首脳会談では、両国間の友好ムードが演出された。偶発的な軍事衝突を防ぐ関係安定に向け、前進もみられた。しかしそうした友好ムードも、その後バイデン米大統領が習近平国家主席を「独裁者」と呼んだことで水を差されてしまった感もある。さらに、台湾問題を巡る両国の立場の違いは全く縮まらなかった。

米国経済は今年7-9月期に年率+4.9%の高成長を記録する一方、足もとでは物価上昇率の低下が改めて確認されるなど、経済の現状と先行きに比較的楽観的な見方が多い状況だ。それとは対照的に中国では、不動産部門の苦境が一段と明らかになっている。中国国家統計局が16日に発表した10月の住宅販売動向で、主要70都市の8割に当たる56都市で新築物件価格が下落した。値下がりは前月から2都市増え今年最多を更新している。

国内経済が低迷する中、中国としては、米国やその他先進国による先端半導体、半導体製造装置の対中輸出規制を見直すことを求めているが、米中首脳会談では、この分野で進展はなかったとみられる。

中国は国内で余剰となった製品を安価で海外への輸出に振り向ける

中国経済の苦境は、米国にとっても懸念材料となってきた。それは米国経済、世界経済にとってもリスクであるからだ。10月の中国の消費者物価は前年同月比---0.2%となった。不動産価格の下落と物価の下落が重なる「ダブルデフレ」の様相となっている。物価下落の背景にあるのが、需給の悪化である。不動産不況が住宅や消費といった需要を減退させている面がある。他方で供給力が過剰となっていることが、物価下落の背景にあるだろう。

海外からは、政府が社会保障制度改革を通じた将来不安の軽減や給付などによる個人消費刺激策を中国政府に呼びかける声が増えているが、中国政府はそうした国内消費の刺激策には慎重である。それよりも米国への対抗を強く意識して、国内での半導体生産拡大など供給力を一段の高める政策に注力しているのである。こうした中国政府の経済政策も、国内での供給過剰とデフレ傾向を後押ししている面があるだろう。

米国やその他の国々にとっての懸念は、中国が、国内で余剰となった製品を安価で海外への輸出に振り向けることだ。これは、国内のデフレを海外に輸出することを意味する。人民元は対ドルで15年以上ぶりの安値圏にあるため、海外市場で中国製品の安値攻勢をかけることがやりやすい環境ともなっているのである。それによって海外企業にとっては、中国製品に市場を奪われることになる。

EV、太陽光発電パネル、鉄鋼などで貿易摩擦が強まる

電気自動車(EV)や太陽光発電パネルなどの中国メーカーは、国内で需要減に直面し、海外市場の開拓を積極的に進めている。他方でそれは、既に海外との間で貿易摩擦を生じさせている。

欧州連合(EU)の規制当局が9月に中国の補助金を巡る調査を開始した背景には、同国が欧州に低価格のEVを大量に送り込んでいるという懸念がある。

供給過剰の問題は鉄鋼でも深刻であり、中国企業による海外への安値攻勢が貿易摩擦を生じさせている。米国は、中国など3か国の鉄鋼メーカーがスズメッキ鋼製品を不当に安い価格で販売しているとして、関税を課すと発表している。

またインドは、化学品や家具部品などさまざまな中国製品について、ダンピング(不当廉売)がなかったかを調べている。ベトナムは9月に、中国からの風力発電塔の輸入が国内メーカーに与えた影響について調査を開始したという。

輸出規制ではブーメラン効果も意識する必要

今年に入ってからより明確になった中国経済の不振を、米国などは当初は静観していたとみられるが、それが中国からデフレの輸出拡大につながるリスクをより意識するようになっている。米国は、安全保障上のリスクを取り除く観点から、半導体など先端分野での中国に対する輸出規制をさらに強化する方向にある。

しかし今後は、輸出規制によって助長される中国経済の一段の苦境が、ブーメラン効果として自国の経済にもマイナスに作用するリスクをより意識して、中国との経済、貿易面での交渉を慎重に進めていくことが求められるだろう。

(参考資料)
"China Is Making Too Much Stuff—and Other Countries Are Worried(中国の過剰生産、輸出攻勢に身構える世界)", Wall Street Journal, November 15, 2023

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