進むドル高円安の修正:歴史的円安は最終局面か
1ドル149円台まで円の買戻しが進む
先週の為替市場では、週初に1ドル152円直前と年初来の最高値までドル高円安が進んだが、週末にかけては1ドル149円台まで円が買い戻された。転機となったのは、14日(火)に発表された米国の10月分CPIが、事前予想を下回り、物価上昇率の着実な低下が改めて確認されたことだった。
これによって、米連邦準備制度理事会(FRB)が12月の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを見送る、との観測が強まり、ドル円レートに大きな影響を与える10年国債利回りは4.4%台まで低下してそれがドル安円高の流れを作ったのである。
金融市場では、このCPI統計が上振れて、追加利上げ観測が広がることで長期金利の上昇、株価下落が生じることが事前に警戒されていた。また日本では、このCPI統計が上振れ追加利上げ観測が強まることをきっかけに、ドル円レートが昨年の円安のピークを越えて1ドル152円台と30年ぶりの円安水準となることが警戒されていた。日本政府は米国市場で円買いドル売り介入を準備していた可能性があるだろう。
政府は1ドル150円を第1防衛ライン、1ドル152円を第2防衛ラインと考えていると推察されるが、第1防衛ラインを下回る149円台までドル安円高が進んだことで、為替介入の可能性は当面後退した。
米国の利上げ最終局面でドルもピークに
FRBの中にはなおインフレへの警戒を緩めていない高官がいることから、年内の追加利上げの可能性は小さくなっても、来年初めの追加利上げの可能性はなお残る。その場合、米国の長期国債利回りが上昇し、1ドル152円を超えて円安が進む余地はあるだろう。
しかしながら、FRBの利上げが最終局面という見方が揺らがない中、米国の長期国債利回りの上昇余地は限られ、その結果、ドル高円安の余地も限られるだろう。最悪のケースでは1ドル155円までの円安を見ておきたいが、実際には150-155円のレンジ内でピークをつける可能性が高いと思われる。
FF金利は現在5.25%~5.5%と22年ぶりの高水準である。期待インフレ率が2%であるとすれば、実質FF金利は3%台半ばの水準となる。米国経済が従来よりもかなり強くなり、潜在成長率が2%程度から3%台半ばまで高まったということでない限り、実質FF金利の水準はかなり景気抑制的だ。そのため、FF金利が5%台を長く続けることは正当化できないだろう。
10年国債利回りが向こう10年間の短期金利の見通しの平均値で決まると考えると、FF金利が5%台を長く続けることはなく、早晩引き下げられるとすれば、5%台の10年国債利回りはやはり持続的でない。10年国債利回りは一時5%台に乗せたが、この先、米国経済の減速の兆候がより明確に出てきて、金融緩和期待、つまりFF金利の引き下げ観測が強まる中では、10年国債利回りは来年に3%台まで低下していくものと見ておきたい。
その場合には、かなりのドル安円高となるのではないか。このように米国側の状況を見ると、歴史的な円安は最終局面にあると見える。
日銀の政策姿勢の修正で円安リスクは大きく軽減
他方、日本の状況については、日本銀行が為替の安定への関心を強め、イールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化を進めていることは、円安のリスクを軽減させている。日本銀行がYCCの硬直的な運営にこだわる一方、円安を容認する姿勢であった昨年までとは、この点が大きく異なる。今や円安阻止に向けた政府と日本銀行との連携は、昨年と比べて格段に強化されている。
10月末のYCCの再柔軟化で、日本銀行は1%を超える利回りを容認したが、実際の10年国債利回りは足元で0.7%台まで低下している。この先、再び円安が進む局面では、日本銀行は10年国債利回りの最大1%超までの上昇を容認することで、円安を強くけん制することができるのである。
こうした点を踏まえると、日本側でも、円安が進みにくい環境が整ってきたように思われる。そして来年の日本銀行の本格的な正常化期待も、円安進行を食い止める要因である。
来年末には1ドル130円台まで円安の修正が進むか
以上の点から、昨年来の歴史的な円安は最終局面にあると見ておきたい。ドル円レートの中長期の均衡水準は1ドル110円~115円程度と考えられ、向う数年かけてその水準まで行き過ぎた円安が修正される可能性があるだろう。
米国経済の減速が明確になり、より大幅なFRBの利下げ期待が生じることと、日本銀行のマイナス金利政策の解除が重なれば、来年末には1ドル130円台まで円安の修正が進むのではないか。
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