減資による外形標準課税逃れにどう対応するか
外形標準課税逃れのための大企業の減資が大幅に増加
2024年度税制改正に向けた自民党と公明党の税制調査会では、政府が決めた定額所得減税の具体的な枠組み、防衛費増税の導入時期などが大きな焦点となる(コラム「2024年度税制改正議論が始まる:所得減税と防衛増税が交錯」、2023年11月21日)。それらに加えて、都道府県の法人事業税のうち、資本金1億円超の企業に課す「外形標準課税」を大企業が減資で逃れるのを防ぐための措置についても、税制調査会で議論されている。
外形標準課税制度は2004年度に導入されたもので、国の法人税とは異なり、赤字企業にも一定の税金がかかる仕組みだ。地方自治体から受けるサービスに応じた税負担を大企業に求めるものだ。変動の大きい所得ではなく資本金の規模などに応じて徴収することで、都道府県が安定した税収を得ることを狙っている。
この外形標準課税の対象となるのは、「資本金1億円超」の大企業に限られ、中小企業の税負担に配慮されている。ところが、総務省の資料によると、対象となる企業数は平成18年度の2万9,618社から、令和2年度には1万9,989社まで3分の1減少した。全法人に占める割合は、1.18%から0.76%まで低下している。
またこの間、外形標準課税の対象法人では、資本金1億円超10億円未満の企業数が-37.1%と大幅に減少する一方、非対象法人では、資本金1億円の企業数が+45.0%と急増している。
このことは、比較的資本金の額が小さい大企業が、外形標準課税を節約するために、資本金を課税対象外となるちょうど1億円まで減資して、課税逃れをするケースが増えたことを意味すると考えられる。
資本金と資本剰余金の合計額を新たな基準にする
減資の手法としては、同じ株主資本の中で、1)資本金を資本剰余金(資本準備金、その他資本剰余金)に移すもの、2)資本金を利益剰余金の損失に充てるもの、3)株主への払い戻し、の3つが主に考えられる。その中で、資本金を資本剰余金に移すケースが多い。
そこで、総務省の有識者会議では、外形標準課税逃れのための減資への対応として、従来の資本金1億円超という現在の課税基準を、資本金と資本剰余金の合計額の一定水準に新たな課税基準を設けることが提案されている。大企業が1億円以下に資本金を減資した分を、会計上の操作で資本剰余金に移動させて、中小企業になる手法を防ぐねらいがある。
しかし、これに強く反対しているのが、日本商工会議所などの経済団体である。それは、基準の変更によって中小企業も新たに課税対象になりかねないとの懸念があるためだ。日本商工会議所の小林会頭は「(税逃れの企業と)道連れにしないでほしい」と訴えている。
税の公平性、信頼性の観点から継続的な見直しが必要
この点は、与党税制改正でも考慮される可能性が高い。自民党の宮沢税制調査会長は、新たな基準を適用するのは節税目的の企業に限る考えを明らかにしている。当面の改正は、資本金と資本剰余金の合計額を新たな基準としつつ、中小企業が新たな課税対象にならないように配慮する、つまり大企業の税逃れのみを封じる仕組みが検討される可能性が高い。
他方、課税対象の外形基準としては、資本金にこだわる理由もないだろう。2006年の会社法施行で資本金の下限が撤廃されており、企業規模の目安としての資本金の意義は既に薄れている。大企業の指標としては、それ以外に売上高、従業員数、付加価値額なども考えられる。
減資を通じた大企業の税逃れの広がりは、税の公平性の観点から問題であり、税制の信頼性を損ねるものでもある。この点から、外形標準課税の見直しは必要なものだ。ただしその際に、中小企業が巻き添えにならないように設計を配慮することも、税の公平性の観点からは重要だろう。
ただし、新たな基準を作れば、それを回避する新たな税逃れが生じてしまう。そうしたいたちごっこに陥ることはある程度覚悟する必要はあるだろう。そのうえで、企業側の対応を見据え、制度を常に見直していくことも必要となるのではないか。
(参考資料)
「(社説)大企業の減資 「課税の穴」是正を急げ」、2023年11月19日、朝日新聞
「自民税調会長「1億円に減資で節税」防止 外形標準課税、適用拡大へ」、2023年11月8日、日本経済新聞
「与党税調、所得減税で綱引き 知財優遇や減資対策も調整」、2023年11月18日、産経新聞
「「疑似中小企業」が税逃れ、減資企業3割増 税収減続く」、2023年11月6日、日本経済新聞電子版
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