政府がガソリン税のトリガー条項凍結解除を検討:時限減税から事実上の恒久減税への方針転換か
ガソリン税のトリガー条項とは何か
岸田首相は11月24日に、ガソリン税のトリガー条項の凍結解除について、「与党と国民民主党の3党の政策責任者で議論、検討を進めたい」と前向きの発言をした。これは、従来の方針を転換するかのような発言である。先般の総合経済対策で示した時限減税、給付金のように、首相の一声で従来の政府の方針とは異なる政策が一気に動き出す例が続いている。政策の狙いや一貫性について、再度国民から疑問を投げかけられる可能性もあるのではないか。
ガソリン税とは、「揮発油税」と「地方揮発油税」のことである。現在の税率分は、揮発油税が1リットル当たり48.6円、地方揮発油税が同5.2円で、合わせて53.8円である。ただし、本則の税率分28.7円に上乗せの特別税率分25.1円が上乗せされている。
トリガー条項が発動されると、この特別税率分の25.1円が課税されなくなり、その分ガソリン価格の小売価格も大きく下がる。レギュラーガソリン価格の全国平均で、1リットル160円を3か月連続で超えた場合にこのトリガー条項が発動される規定だ。
ただし現在は、ガソリン価格が1リットル160円を超えても、トリガー条項は発動されない。トリガー条項が導入された翌年の2011年に発生した東日本大震災の復興財源を確保するためである。2021年から続くガソリン価格高騰の中、価格抑制策の一つとしてトリガー条項の凍結解除の議論が続けられてきた。
岸田首相は方針転換か
しかし3党は2022年春にも協議をした結果、凍結解除を当面見送ることを決めた、という経緯がある。この際に岸田首相は、ガソリン税のトリガー条項凍結を解除しても、灯油や重油はその対象外となり価格が下がらない、その結果、流通を混乱させるとして慎重な考えを示していた。
また自民党内では、ガソリン税のトリガー条項凍結解除は税収をさらに減少させ、財政環境を一段と悪化させることから、慎重意見は多かった。
岸田首相は突然に方針転換したようにも見えるが、その狙いは何だろうか。満を持しての大盤振る舞いとなった時限的な所得減税、給付金という経済対策が、国民の間であまり評価されていないことから、焦って追加策を打ち出そうとしているのだろうか。また、国民民主党を与党に取り込む狙いがあるのだろうか。
事実上の恒久減税となってしまわないか
総合経済対策で示した時限的な所得減税、給付金について岸田首相は、適切なタイミングを狙った時限措置の妥当性を強調していた。
まずは早期に実施される給付金で国民の物価高への痛みを和らげる。さらに、春闘後となる来年6月に時限的な所得減税を実施することで、可処分所得を増加させ、賃金上昇で実質賃金がプラスに転じるまでの一時的な時間稼ぎを行う狙いがあるとの主旨が説明された。そして時限措置とすることには、財政悪化への一定程度の配慮があった。
ところが、ガソリン税のトリガー条項凍結を解除すれば、それは一時的な減税措置では終らず、事実上の恒久減税となってしまう可能性がある。レギュラーガソリンの価格が1リットル130円を3か月連続で下回ればトリガー条項は再び発動される規定となっているが、足もとでも全国平均で200円近いレギュラーガソリンの価格が、130円を下回ることは近い将来にはとても展望できない。海外での原油高、円安が今後も続けば、減税措置は恒久化してしまう。
時限的な減税の妥当性を強調していた岸田首相は、その直後に事実上の恒久減税になりうる施策を検討していることを明らかにしたのである。これは、政策の一貫性の観点から問題ではないか。この点は、しっかりと国民に説明されるべきだろう。
財政への悪影響に財務大臣も言及
時限的な減税でなければ、財政への悪影響も大きくなる。鈴木財務相は、トリガー条項凍結会解除となれば、「国、地方合計で1兆5千億円もの巨額の財源が必要となる」と指摘し、慎重姿勢をにじませた。
ガソリン税のトリガー条項凍結を決めた震災直後と比べても、現在の財政環境は格段に悪化している。そうした中で、年間1兆5千億円もの税収を減らしてしまうことは、健全な財政運営に関する政府の信頼感を損ねるものとなるだろう。また、自民党内で財政の健全性を重視する向きからの支持を岸田首相が失ってしまうきっかけともなり得るのではないか。
求められる国民への丁寧な説明
森屋官房副長官は24日に、トリガー条項の凍結解除を巡る3党協議は、来年4月まで実施されるガソリン補助金制度、つまり燃料油激変緩和措置(価格支援策)の出口戦略の位置づけとして議論が行われているとの見解を示している。トリガー条項の凍結解除に向けた岸田首相、政府の本気度は昨年と比べても高く、この施策が実現する可能性は相応にあるのではないか。
トリガー条項の凍結解除を巡って岸田首相には、既存の物価高対策との整合性、政策の一貫性、政策の狙い、財政環境への影響など、極めて多くの説明を国民に対して丁寧に行うことが求められる。
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