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政府の基金改革は喫緊の課題:2つの税金無駄使いの抜本的見直しを

2023/11/29

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政府の基金の見直しの方針を年内にまとめる

国民の税金の無駄使いの温床ともなる政府の基金が、近年急膨張している。基金の数は、今年3月末で180以上に上る。また2019年度に2兆円台だった基金の残高は2020年度末で8兆3千億円、2022年度末は16兆6千億円と倍増した。

2023年度には12兆7千億円に減る見込みだが、現在国会で審議中の補正予算案では、半導体産業の支援のための2兆円など、4兆3千億円が新たに基金に充てられることから、残高はさらに膨らむ可能性がある。

岸田首相は基金の具体的な見直しの方針を年内にまとめる考えを示した。岸田首相は「単年度主義からの脱却」を謳って基金の膨張を自ら促してしまった面がある。この点から、抜本改革に取り組む重い責任があるだろう。しかし、見直しを支持しながらも、今回の補正予算案に盛り込まれる4兆3千億円の基金への投入は見直さない。

いったん基金が設立されると、運営は所管する省庁や独立行政法人の裁量に任されることになる。そのため、国会による監視の目が届かず、国民の税金が安直な使い方をされるリスクが高まる。
そこで国のルールでは、基金の終了年度を、原則10年を超えない範囲で定めねばならないことになっている。しかし実際には、13府省庁による186事業のうち、約3分の1にあたる65事業は、終了年度が未定のままとなっている。

例外措置である基金の利用が常態化し国民の税金の無駄使いの温床に

これまで、補正予算などで多額の基金を計上しながら多くが執行されず、残高が積み上がっている。また、基金を単に維持するための人件費など経費ばかりがかさむケースも多い。利用されない予算は早期に国庫に返納されるべきであるが、返納額は極めて少ないのが実態だ。

また、大型基金を扱う外郭団体などが、補助金の審査といった中核業務を民間企業に委託する事例が増えていることは大いに問題だ。外郭団体に基金運営のノウハウが十分にないにも関わらず、予算計上が優先された結果ではないか。

2021年10月に岸田政権が発足して以降、基金の積極活用が強化された。それは、2021年度補正予算、2022年度当初予算、そして現在審議中の2023年度補正予算などで顕著である。

2022年度予算編成の基本方針には「単年度主義の弊害是正のため必要に応じ新たに基金を創設する等の措置を講じていく」と記され、その姿勢は2022、2023年の骨太方針でも堅持されている。

経済対策の規模を膨らませる政治的意図も

岸田首相が主張する「予算の単年度主義」の弊害を改める狙いは理解できる部分もあるが、その名のもとに無駄使いが拡大してしまった面がある。本来は例外であるべきはずの、複数年度予算にわたる基金の活用が、常態化してしまったのである。

そして経済対策で基金の積極活用が常態化してしまった背景には、予算の具体的な利用が明らかでない段階で、経済対策の規模を膨らませ、国民にアピールする政治的意図もあったと考えられる。

補正予算編成は、本来は当初予算編成時に想定されていなかった事態への対応であるべきだ。しかし、実際には、経済状況いかんに関わらず、秋には補正予算編成を伴う大規模経済対策を実施することが常態化、年中行事化してしまっている。

本来例外措置であるべき基金の利用と補正予算編成の2つともが常態化

本来例外措置であるべき基金の利用と補正予算編成の2つともが常態化し、その結果、国民の税金の無駄使いが助長されてしまった。岸田首相は基金の膨張を許した責任を取り、抜本的な基金の改革を早急に進めて欲しい。

現時点で政府内での基金見直し案には、予算決定時に数値目標を策定・公表すること、予算措置は3年程度をめどとし、目標の達成状況をみて、次の措置を検討すること、具体的な終了時期を設定すること、毎年度の点検を厳格に行うこと、民間企業への外注を避けること、などが含まれている。こうした見直しが実施されれば、基金の問題はかなり改善するだろう。

基金の抜本見直しと国庫への返納を早急に進めて欲しい。またこれを機会に、常態化してしまった補正予算編成を伴う経済対策の実施についても、国民の税金の有効活用という観点から、大いに見直して欲しいところだ。

(参考資料)
「社説:政府の基金見直し 安易に増やした責任重い」、2023年11月27日、毎日新聞
「基金の膨張 本当に必要か徹底的な検証を」、2023年11月26日、読売新聞速報ニュース
「【社説】基金見直し指示 活用進めた首相は反省を」、2023年11月26日、西日本新聞朝刊
「(社説)基金の乱用 無駄の温床にメスを」、2023年11月25日、朝日新聞
「基金予算、3年めど 「水ぶくれ」抑制狙う 政府見直し案」、2023年11月23日、朝日新聞
「基金、数値目標「なし」3割 政府、ルールづくり着手 行政レビュー「3年で達成確認」提言」、2023年11月12日、日本経済新聞

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