フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 中国政府が不動産開発大手支援へ50社リスト作成:なお深刻化するシャドーバンキングの問題

中国政府が不動産開発大手支援へ50社リスト作成:なお深刻化するシャドーバンキングの問題

2023/11/30

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

銀行融資50社リストの作成

中国の不動産不況が深まり、大手不動産開発会社の経営危機が続く中、中国政府は大手不動産開発会社の資金調達支援に乗り出した。政府は銀行融資に適した不動産開発業者50社のリストを起草している、とされる。この50社には、国際金融団体がデフォルト(債務不履行)認定した最大手の不動産開発業者、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)も含まれるという。

中国住宅建築部が管轄する『中国房地産報』によると、このリストは金融監督管理部門が作成を主導している。また対象となる50社には民間企業と国有企業の両方が含まれるが、販売額の多さによって絞り込まれるとの見方を伝えている。その通りであれば、影響力の大きい大手不動産開発会社の破綻を回避するための枠組みといえるだろう。

銀行融資は、中国人民銀行(中央銀行)の指導を経た後に、来年にも実施される見通しだ。リスト入りした企業には、銀行融資だけでなく債券・株式発行による資金調達を認める方針で、多岐にわたる資金調達支援が検討されている。

リスクは不動産開発会社から銀行に移るか

銀行融資では、当局が銀行に対して、リスト入りした不動産開発会社への無担保の短期融資を初めて許可する可能性があるという。通常の融資では、土地や資産を担保に差しだすことを求められるが、この新しい融資制度は無担保で日々の業務目的に利用できるため、債務返済に充てる資金を工面できるようになる可能性があるという。

しかし、このように資金の借り手にとって良い条件の融資は、銀行にとってはリスクの高い融資である。当局はリスクが高い点を考慮して、銀行の融資が不良債権化しても経営の責任を問わないことを協議しているとされる。しかし、経営不振に陥った不動産開発会社への融資を拡大すれば、銀行がリスクを肩代わりすることになる。政府からの要請でそうしたリスクを負わされることに、反発する銀行も出てくるのではないか。

政府は不動産開発会社への支援を一段と強化したが、財政資金を使って救済することはせずに、不動産開発会社が抱えるリスクを銀行に転嫁する施策とも見える。政府の不動産不況対策は、段階的に強化されてきているとはいえ、引き続き慎重な姿勢は崩れていない。そうした姿勢によって、不動産市場、不動産業界、金融システムの悪化に歯止めをかけることができずに手遅れとなってしまうリスクが高まっているようにも見える。

深刻化するシャドーバンキングの問題

不動産に多くの投資をしている信託商品のデフォルトが続いている。中植企業集団は、傘下の信託大手が組成した高利回りの信託商品で支払いが履行されず、8月に経営不安が表面化した。同社は投資家に送付した11月22日付の書簡の中で、流動性が枯渇し、資産売却で回収可能な額も少ない見通しだと明らかにした。

同書簡によると、中植の負債総額は4,200億-4,600億元(8兆8,000億-9兆6,000億円)に上ることが会計監査で判明している。これに対して、資産は2,000億元しかないという。つまり、同社は深刻な債務超過に陥っているのである。

中植が深刻な債務超過を明らかにした数日後に、中植の資産運用事業を巡る刑事捜査の開始が発表された。中植の経営難は、富裕層の個人に影響が及ぶことは避けられないだろう。同社のようなシャドーバンキングは緩い規制しか受けず、高い利回りで個人の資金を集めて融資を提供し、また不動産、株式、債券、商品などに投資する。中植とその傘下企業はここ数年、競合相手の信託がリスク縮小に動く中でも、問題のある不動産開発業者に対して融資を拡大し、中国恒大集団などの企業から資産を買いあさっていたようだ。

このように、不動産不況は信託商品や理財商品などシャドーバンキングの問題へと広がりを見せている。現在の政府の政策対応のスピードでは、不動産不況、シャドーバンキングの混乱、それらに伴う経済の悪化に歯止めをかけるのは難しいのではないか。

(参考資料)
「融資適格不動産企業リスト、販売額で選定か 来年にも実施へ」、2023年11月22日、DZH中国株ニュース
「中国シャドーバンキング大手、5.4兆円不足-「深刻な支払い不能状態」」、2023年11月23日、ブルームバーグ
「中国が不動産会社に前例のない支援策検討、無担保融資許可も-関係者」、2023年11月23日、ブルームバーグ

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn