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繰り返される政治とカネの問題:先行きの政局を睨み金融市場はどう反応するか:日銀の政策修正にも影響か

2023/12/04

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裏金問題で自民党議員数十人が事情聴取か

岸田内閣への支持率が大きく低下する中、国民の政治不信を一層増幅しかねない問題が発覚した。自民党最大派閥の安倍派(清和政策研究会)に、パーティ券収入を政治資金報告書に記載しない政治資金規正法違反(不記載・虚偽記載)の疑いが浮上したのである。

朝日新聞によると、二階派(志師会)にも同様の疑いが生じている。両派閥ともに、政治資金パーティの収入について、所属議員が販売ノルマを超えて集めた資金が派閥の収支報告書に記載されていなかったという。

さらに安倍派の場合には、個人の収支報告書、そして支出にも記載されていなかったとされる。それらの資金は広く裏金化されていたことが疑われている。読売新聞は、安倍派に所属する10人以上の議員が、パーティ券収入の一部を裏金化していた疑いがある、としている。

安倍派については、2018年から2022年に開かれた政治資金パーティで、総額6億6,000万円の収入が政治資金報告書に記載されているが、議員にキックバックされ記載されていない額が、1億円を超えると見られている。二階派についても同様のようだ。

東京地検特捜部は、立件を視野に捜査を進めている。読売新聞は、特捜部が今月13日の臨時国会閉会後にも派閥幹部を含めた自民党議員数十人を含めた多数の関係者から事情聴取に乗り出すとしている。政治を揺るがしかねない、かなり大きな事件へと発展する可能性があるとみるべきだろう。

ちなみに、政治資金規正法違反(不記載・虚偽記載)に問われれば、5年以下の禁固または100万円以下の罰金が課される。

岸田内閣の命運に与える影響は複雑

同事件がこの先どの程度の広がりを見せるのかは、まだ分からない。自民党の他の派閥や野党にも同様の疑いが広がるかもしれない。ただし現時点でみれば、自民党最大派閥の安倍派が最も大きな打撃を受けている。

各種世論調査では、今夏以降、岸田内閣の支持率が大幅に下がる一方、自民党の支持率は大幅には落ち込まずに、比較的安定して推移してきた。しかし今回の裏金疑惑によって、自民党全体の支持率が大きく低下する可能性があるだろう。このことは、派閥や派閥幹部への批判だけでなく、自民党総裁でもある岸田首相の責任が問われ、一段の批判を浴びることになるだろう。

ただしそのことが、岸田内閣の命運に与える影響は実は複雑だ。衆院解散に踏み切らない限り、次の国政選挙は2025年夏の参院選まではない。選挙での敗北の責任を取って、岸田内閣が退陣を迫られるリスクは当面はない。

そうしたなか、岸田内閣にとって最大のリスクは、支持率の低下を受けて「岸田内閣では次の国政選挙は戦えない」との見方が党内で強まり、2024年秋の自民党総裁選で再選されないこと、あるいは総裁選不出馬に追い込まれることだろう。

世論調査で内閣支持率は低い一方、自民党支持率は比較的高いもとでは、首相を替えて選挙に臨む、との力学が党内で働きやすい。実際、足もとまではそうであった。

しかし、今回の裏金疑惑によって自民党全体の支持率が低下すれば、党内から岸田内閣への退陣要求はむしろ弱まり、衆院選挙の時期はさらに先送りされ、岸田内閣の延命につながるのではないか。ただし、裏金疑惑が、岸田首相が率いる岸田派にまで及ぶ場合には、話は変わってくる。

岸田内閣延命で金融市場はリスクオフの反応か

現在、岸田内閣の支持率はかなり低水準にあり、政策には手詰まり感も強まっている。一般に、支持率が大きく低下し、末期に近づいたと見なされる内閣は、退陣観測が浮上すると金融市場はそれを好感することが多い。首相が交代することで、経済政策も前に進むとの期待から、金融市場はリスクオン(リスクテイク)の傾向を強めるのである。これは、株高と円安につながりやすい。

現在の岸田内閣が既にこのステージに達しているとすれば、裏金問題によって選挙の時期がさらに先送りされ、また岸田内閣が延命されるとの観測が強まれば、金融市場は逆にリスクオフの反応となり、円高、株安に振れやすいのではないか。

他方で、安倍派の力が落ちれば、岸田首相は自らの考える政策をより実現しやすくなることも考えられる。

裏金問題で安倍派の影響力が低下すれば日銀の政策正常化を後押しか

ただし安倍派の発言力が低下することによって最も大きな影響を受けると考えられるのは、日本銀行の金融政策なのではないか。

一般に安倍派は、アベノミクスの遺産であるとして、日本銀行の異例の金融緩和の継続を望んでおり、それが金利上昇リスクを抑えるもとで財政拡張による景気浮揚を志向する傾向がある。そのため、植田総裁に対しても、大幅緩和の継続、イールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組み維持、2%の物価目標の堅持などを強く求めてきた。日本銀行にとっては、そうした政治的圧力が、金融政策の正常化に一定程度制約となっているのが現状だろう。

仮に裏金疑惑が安倍派の発言力を低下させるのであれば、日本銀行は政策の自由度を高め、マイナス金利政策解除やYCC撤廃などの金融政策の正常化に動きやすくなる。金融市場がそう考えれば、債券安、円高、株安となる。

市場は債券安、円高、株安に反応か

今回の問題で金融政策への影響が大きく表れやすいという点と、一般に政治情勢の不安定化が金融市場のリスクオフ、つまり円高、株安要因になりやすいという点も考え合わせると、市場の反応はそうした方向性になりやすいのではないか。

ただし現時点では事態はなお流動的であり、市場の反応の程度も当面は限定であるかもしれない。それでも、年末が近づくこの時期になって、金融市場に大きな影響を与え得る国内政治イベントがにわかに浮上してきたことは確かである。今月13日の臨時国会閉会後の特捜部の動きに、金融市場も大きな注意を払うことになるだろう。

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