少子化対策の財源確保で後期高齢者の窓口負担増加も検討
後期高齢者の医療費自己負担の再引き上げも選択肢に
政府は来年度から始まる年間3兆円台半ばの少子化対策の財源として、公的医療保険に上乗せして徴収する「支援金制度」、社会保障制度の見直しなどによる歳出改革、予算の未執行分の活用で、それぞれ1兆円前後を確保する考えだ(コラム「医療保険料の上乗せ徴収を少子化対策の財源とすることは妥当か?:現役世代の負担は年間約1万4千円と推計」、2023年11月10日)。
このうち歳出改革については、その工程表を年末までに策定して、2028年度まで毎年度の予算編成において実施する方針、と岸田首相は説明している。
現在、歳出改革が議論されているところだが、その中に、75歳以上の後期高齢者の窓口負担の引き上げも選択肢に入っているようだ。ただし、75歳以上の後期高齢者の窓口負担は2022年10月に引き上げられたばかりである。議論はなお紛糾しそうだ。
単身で年金収入などが200万円以上など一定所得以上の人については、自己負担割合を1割から2割に引き上げられた。従来、75歳以上の人は医療費の窓口負担は原則1割とされていたが、この見直しで約20%が2割負担の対象になったのである。後期高齢者の負担をさらに引き上げると、高齢者が医療機関の受診を控え、体調を悪化させることも懸念されている。
歳出改革の中心は、高齢者を中心とする自己負担増
後期高齢者の医療費の窓口負担の引き上げ以外でも、現在、歳出改革の候補に挙がっている施策はいくつかある。同じ医療保険制度の分野では、「高額療養費制度」の見直しだ。同制度は、ひと月の医療費の自己負担が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合に、その超過分が保険から支払われる仕組みである。2017年度には、低所得者を除く70歳以上の人の自己負担限度額を引き上げる見直しが行われた。それから6年が経過していることもあり、自己負担限度額のさらなる引き上げを歳出改革の候補とすることが検討されている。
介護保険では、介護サービス利用時の自己負担の引き上げも検討対象に挙がっている。2018年度には、単身世帯で年金収入と合わせて年収340万円以上の65歳以上は自己負担が3割に引き上げられた。一定程度収入のある高齢者はさらなる負担増も検討対象となっている。
このように、歳出改革の中心は、高齢者を中心とする自己負担増となりそうだ。しかも、従来から実施されている施策の延長であり、新たな改革メニューは浮かび上がってこない。
高額資産を保有する高齢者に応能負担を進める必要
医療費など社会保障費の負担が現役世代に偏っていることは確かに問題である。現役世代が納める医療保険料は、足元で高齢者が支払う分の3.6倍となり、20年前の2.8倍から一段と差が広がっている。2020年度の35~39歳の医療保険料は1人あたり年間30.8万円だ(会社と折半)。これは2000年度に比べて5割増えている。75~79歳の後期高齢者が支払う医療保険料は年8.5万円であり、20年間の伸び幅は1割強に留まっている。他方で、75歳以上の後期高齢者の医療費は、全体の40%弱を占めており、現役世代の4倍以上に達している。一定の負担増が必要との指摘は多い。
高齢者に相応の負担を求めるとしても、資産を多く保有する高齢者により多く負担を求めることが必要だろう。いわゆる応能負担の原則に従うものだ。そのためには、個々の資産の把握を進める必要がある。
財源議論の後回しは問題
3兆円台半ばの少子化対策の規模と内容を先に決め、その後に財源確保を議論するやり方も問題だ。少子化対策の強化には反対する向きは少ないが、その財源確保は容易でない。本来は、少子化対策の規模、内容と財源確保の方法を同時に議論し決定すべきだった。少子化対策の拡大は政府にとって政治的得点になるが、財源確保の過程では議論は紛糾し、政府への打撃ともなる。政治的得点となる部分だけ先に決めるやり方は問題だろう。財源確保の段階で議論は紛糾し、いわばつけが回ってくる構図だ。これは、防衛費増額とその財源の議論と同様だ。防衛費増額は2023年度から開始されたが、その財源の一部である防衛増税の実施は、2024年度も実施されない可能性が高い。
財源確保で国民の理解が得られないのであれば、児童手当拡充などの少子化対策の具体策と規模を、再度見直すことも検討して欲しい。
(参考資料)
「焦点:少子化対策、歳出減へ「工程表」 政府、言えぬ負担増 4万円減税と「ちぐはぐ」」、2023年12月4日、毎日新聞
「後期高齢者の医療費、窓口負担2割に引き上げ案 政府」、2023年12月2日、日本経済新聞電子版
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