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日銀短観(12月調査)で景況感は小幅改善か:2024年日本経済は「内憂外患」。賃上げは期待に届かず日銀政策修正は後ずれへ

2023/12/07

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企業と家計の景況感にずれ

日本銀行は12月13日に、「短観(12月調査)」を発表する。2024年に日本銀行がマイナス金利政策を解除するなど、本格的な政策修正を実施するとの見通しが浮上する中、その時期を占う観点からも年内最後の短観への注目度も高まるだろう。

QUICKが12月5日に発表した12月QUICK短観によると、企業の景況感を示す業況判断DIは製造業で前月比2ポイント改善のプラス10、非製造業でも2ポイント改善のプラス31となった。ともに2か月ぶりの改善だ。

これに基づくと、短観(12月調査)で大企業製造業、大企業非製造業のDIは、前回(9月調査)比+1~+2の小幅改善となることが予想される。その場合、2023年の企業の景況感は、改善傾向が続いたことを裏付けることになる。

他方、日本銀行の生活意識調査で家計の景況感DIは9月調査で大きく低下し、暮らし向きDIは2年近く低下が続いている。企業と家計の景況感に大きな開きが生じている背景には、円安、物価高があるだろう。円安の結果、輸出企業の収益が上振れる一方、円安によって助長された物価高に賃金上昇が追い付かず、実質賃金の低下が続き、労働分配率が低下しているのである。

来年の春闘で賃金が大きく上昇することでこうした分配の偏りが是正され、実質賃金の改善が個人消費を後押しし、また賃金上昇と内需の改善を伴う持続的な物価上昇、いわゆる日本銀行が指摘する「第2の力」による持続的な2%の物価上昇が実現するかどうかが、注目されるところだ。

しかし実際には、それが実現する可能性は低いだろう。

企業と家計の物価見通しにもずれ

9月の実質賃金上昇率(名目賃金上昇率-物価上昇率)は前年同月比-2.4%と18か月連続のマイナスとなった。物価上昇率に賃金上昇率が追い付かず、国民生活は圧迫され続けている。2024年の春闘で大幅な賃上げが実現し、実質賃金が一気にプラスに転じることは考えにくい。

個人消費や物価に与える影響という観点からは、定期昇給分を含まない基本給の引き上げ率、つまりベースアップが重要だ。今年の春闘ではベースアップは2%強となった。中小零細企業を含めると1%台半ばから2%程度ではないか。来年の春闘ではベースアップは2%台半ば程度と今年の水準を幾分上回ると予想する。

短観(9月調査)で企業(全規模全産業)の物価上昇率見通しの平均値は+2.1%だった。中期的な物価見通しが+2.0%程度であるもとで、それを大幅に上回る水準のベースアップを実施することに企業は慎重だろう。

来年の春闘でベースアップが2%台半ばとなれば、企業は労働者に配慮した積極的な賃上げと自画自賛するだろう。しかし、個人はそうは受け止めず、期待したほど賃金が上がらなかったと考る。そして、実質賃金の上昇の時期が遠のいたとして、個人消費を抑制する可能性があるだろう。実際のところ、実質賃金が上昇に転じるのは、2025年の後半と予想される。

個人にとっての中長期の物価上昇率見通しは、企業よりもかなり高い可能性がある。それが、賃上げを巡る企業と個人の評価の差となって表れるのである。そして、賃上げに対する個人の失望が、2024年の日本経済の大きなリスクの一つとなるだろう。

2024年の日本経済は「内患外憂」

2024年には輸出環境の悪化も予想される。日本の最大の輸出先である中国の経済の低迷は続いている。政府による経済対策がなお限定的な規模に留まる中、不動産不況の継続やそれに関わる不動産開発会社の社債のデフォルト、不動産関連に投資する理財商品、信託商品のデフォルトなどから、金融が混乱すれば、経済の失速につながりかねない。

他方、日本の第2の輸出先である米国経済については、7-9月期の実質GDPが前期比年率+4.9%と上振れた。しかし、アトランタ連銀のGDPNowによると、現時点での10-12月期の実質GDP成長率見通しは前期比年率+1.2%と、大きく下振れる見通しだ。10月の雇用統計や住宅関連指標には弱さも見られており、昨年来の大幅な利上げや長期金利の上昇の影響から、来年の成長率は大きく下振れる可能性も考えられる。中国に続いて米国経済の減速も明らかとなれば、日本の輸出環境がにわかに厳しさを増す。

このように、2024年も物価高、実質賃金の低下が個人消費の逆風となり、また春闘の結果を受けた賃金上昇への失望が、個人消費の下振れにつながる可能性がある。さらに海外景気の減速による輸出環境の悪化も、国内景気の逆風となり得るなど、2024年の日本経済は「内患外憂」に晒されることになろう。

日銀は2%の物価目標達成を宣言できない

金融市場では2024年の春闘で高い賃金上昇率が実現し、それを受けて日本銀行が2%の物価目標達成を宣言し、4月の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を決める、との見方が多くされている。しかし実際には、その可能性は高くないだろう。

日本銀行が2%の物価目標達成を宣言するトリガーとなる賃金上昇率の水準が、どの程度であるかは明らかでない。一部にはベースアップで+3%が基準になるとの見方もあるが、+3%のハードルはかなり高い。

また日本銀行は、2%の物価目標達成を宣言することに慎重だろう。それは長期金利の急騰や急速な円高を招き、金融機関の経営や実体経済に甚大な打撃を与える可能性があるからだ。

しかし他方で、日本銀行は、現在の金融緩和の枠組みには副作用が大きいことから、2%の物価目標達成いかんにかかわらず、それを修正したいと強く考えているのではないかと推察される。そこで、2024年の春闘での賃上げ率は期待されるほどの水準に達せず、2%の物価目標達成との宣言を出すことはできない中でも、結局は、マイナス金利政策解除に踏み切るのではないかと予想される。

日銀のマイナス金利政策解除は後ずれ

その際には、イールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化と同様に、副作用を軽減することで金融緩和の持続性を高めることが目的、と対外的に説明するだろう。事前に市場との対話に十分な時間をとる必要があることもあり、マイナス金利政策解除の時期は2024年4月ではなく、2024年10月など、年後半以降にずれ込むと見ておきたい。

さらに、日本銀行の政策修正を大きく制約する可能性があるのは、米国経済の減速と米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げである。この先、米国経済の減速が明確になれば、FRBは2024年前半にも利下げに踏み切ることが予想される。FRBが利下げを実施する中、あるいはそうした観測が金融市場で強い中では、日本銀行はマイナス金利政策解除など本格的な政策修正を行うことは難しい。それは、急速な円高を生じさせ、経済や株式市場に大きな打撃となってしまうからだ。

米国経済の減速が比較的マイルドに終わり、FRBの利下げが2024年半ば頃までで一巡すれば、日本銀行は2024年10月など年後半にマイナス金利政策解除に踏み切ることができるだろう。しかし、米国経済の減速がより深刻となり、2024年いっぱいFRBの利下げが続くよう状況となれば、日本銀行のマイナス金利政策解除は2025年にまで後ずれするだろう。

現在の金融市場の見方よりも、日本銀行の政策修正は後ずれの方向にリスクがあるものと見ておきたい。

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