植田総裁発言で早期利上げ観測が浮上か
植田総裁発言で長期国債利回りが大幅上昇
12月7日の債券市場では、10年国債利回りが一時前日比+0.105%上昇と、昨年12月20日以来の大幅上昇を見せた。これを受けて、為替市場でも1ドル146円台前半まで一気に円高が進んだ。
市場が大きく動いたきっかけの一つは、参議院財政金融委員会での植田総裁の発言だ。立憲民主党の勝部議員から、今後の取り組みについての所見を問われ、植田総裁は「チャレンジングな状況が続いている。年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になるとも思っている」と発言したことだ。その後に「情報管理もしっかりと行う」と続けた。この一連の発言が、年末あるいは年初にも日本銀行がマイナス金利政策解除に動くのではないか、との観測を金融市場に広めることになった。
結論から言えば、この植田総裁の発言が早期のマイナス金利政策解除を示唆したもの、と読むのは無理があるのではないかと思う。マイナス金利政策解除の時期は早くて来年後半であり、海外経済や米国の利下げ次第では、再来年にまでずれ込む可能性も十分にあると見ておきたい(コラム「日銀短観(12月調査)で景況感は小幅改善か:2024年日本経済は「内憂外患」。賃上げは期待に届かず日銀政策修正は後ずれへ」、2023年12月7日)。
植田総裁は今後の職務の意気込みを示した
勝部議員の質問は、植田総裁の一般的な職務に関する今後の取り組み姿勢について問うたものであり、金融政策の姿勢を問うたものではなかった。そうした質問に対して、日本銀行の事務方が、植田総裁の想定問答に市場に政策変更の可能性を織り込ませる重要な一文を入れ込んだと考えるのは無理があるだろう。市場にメッセージを送るのであれば、金融政策に関する質疑のパートで行うはずだ。
植田総裁の発言は、総裁として、今までと同様にこれから来年にかけても様々なチャレンジングなことが起こると予想されることから、気を抜かずにしっかりと頑張る、といった意気込みを説明したものと読むのが自然だろう。
YCC柔軟化の事前報道が国会で取り上げられた
金融市場で植田総裁の発言が注目された理由の一つは、その直前に、勝部議員から金融政策決定に関する情報管理についての質問がされていたためだろう。日本銀行が今年7月と10月にイールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化措置を決めた際に、その直前に観測記事が報じられたことを受けた質問である。内田副総裁は観測記事については直接言及しなかったが、植田総裁が「情報管理もしっかりと行う」と述べたことから、その直前の「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況」という発言を、政策変更と結びつける見方が生じたものと考えられる。
ところで、事前報道の出所は、日本銀行ではなく政府側ではないかと、個人的には推察している。仮にそうであれば、決定会合の1日目、あるいはそれが終わった後に、翌日のYCC柔軟化決定を、日本銀行が政府側に伝えていたことになるのではないか。
90年代以降、日本銀行による引き締め方向の政策修正は、政府からの批判を浴びてきた。そうした歴史を踏まえ、日本銀行にとって、YCCの柔軟化は緩和強化の方向ではなく、長期金利の上昇余地を広げる引き締め方向の政策と位置づけており、それを政府側に直前に伝えることが良好な関係を維持するために必要、と考えていた可能性もあると推察される。仮にそうであれば、日本銀行は政府に対してかなり気を使っていることになる。もちろん実際のところはよく分からない。
金融市場は毎回の会合に臨戦態勢で臨む
植田総裁は、「年末から来年にかけて」と言ったのであって、「年末から来年初めにかけて」といった訳ではないが、金融市場は12月あるいは来年1月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策解除などの政策変更が行われる可能性を警戒し始めた。実際にはその可能性は高くないと思われるが、可能性がゼロでない以上、油断せずに注視しておくことは必要だ。金融市場は今後、毎回の会合に、臨戦態勢で臨むことになるだろう。
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