米政府がEV製造サプライチェーンの中国依存低下を狙って新指針
EV製造の中国製電池部品、重要鉱物への依存脱却に向けた米政府の新方針
バイデン米政権は12月1日に、今年発効した1台当たり最大7,500ドル(約110万円)の電気自動車(EV)購入者への税控除措置について、中国の関連企業などが生産した電池部品、重要鉱物を使用する車種を、2024年から段階的に対象から除外する指針を発表した。2024年からバッテリー部品、2025年からニッケルやリチウムなどの重要鉱物が適用対象となる。
中国やロシアに本社を置いたり、その政府が取締役会の議決権の25%を占める企業などが生産した部品や材料が使われている車が税優遇の対象外となる見通しだ。
この措置を通じて、EV製造企業に対して中国の電池部品、重要鉱物からの脱却を促し、サプライチェーンの再編を促すことを目指す。しかしEV材料で中国は世界生産の8割を占めており、サプライチェーンの見直しで中国依存度を下げることは簡単ではない。米国メーカーのEVも含めて、税優遇措置の適用対象が縮小することで、米国でのEV市場の拡大を制約してしまうという弊害も懸念されるところだ。
中国政府による巨額のEV補助金
米政府は、中国のEVを米国市場から事実上締め出す措置を今まで講じてきた。トランプ前大統領は、中国の自動車に25%の輸入関税を課した。さらにバイデン大統領はこの政策を支持したうえで、EV購入時の最大7,500ドルの税控除を中国車が受けられないようにする、などの追加策を講じた。
しかし、この2つの障壁のもとでも、中国製EVが米国市場に浸透していくことを回避するのは難しい、と米政府は警戒している。中国政府による巨額のEV補助金があるためだ。
中国は、世界のEVのおよそ3分の2を製造している。EVで中国最大手のBYD(比亜迪)の昨年の生産台数は190万台と、米テスラの140万台を上回った。
中国製EVによって既に市場を奪われているのが欧州連合(EU)だ。EUは中国からの輸入自動車に対して標準の10%の輸入関税をかけている。そのもとで中国製EVの市場シェアは足元で1%から8%にまで上昇し、2025年には25%に達する可能性があるとされる。EUは、今年10月に、中国政府の補助金により中国製自動車がEU製より20%程度安く販売されているとして、関税を引き上げるかどうかの調査を開始した。
中国のEVは2つの障壁の下でも米国市場に浸透していくか
BYDの人気スポーツタイプ多目的車(SUV)「Atto 3」は3万9500ユーロ(約646万円)、およそ4万3,000ドルで、欧州で販売されている。他方、コックス・オートモーティブによると、米国での今年7月の平均EV販売価格は5万3,469ドルだった。米国での中国製EVに対する25%の輸入関税を考慮すると、両者はほぼ同じ価格となる。
最大7,500ドルの税控除優遇措置を考慮すれば、米国市場ではなお中国製EVは価格面で不利と言えるだろうが、この先中国製EVの価格がさらに低下すれば、中国製EVの米国市場での価格競争力は高まり、一気に市場シェアを拡大することも懸念されている。
米国にとっても「もろ刃の剣」となるリスクも
それを見越して、輸入関税をさらに引き上げることも米政府の選択肢となる。しかしその場合、中国はEV生産に必要な電池部品、重要鉱物の米国への輸出を制限するなどの報復措置を行う可能性がある。これは、中国のサプライチェーンに強く依存する米国のEV製造に大きな打撃となる。
こうしたリスクも踏まえ、中国製EVの米国市場への参入を抑えるだけでなく、経済安全保障の観点から、EV製造の中国サプライチェーン依存を低下することを目指すのが、今回の米政府の新たな措置だ。
しかし既に述べたように、この措置は米国でのEV市場の発展を阻害してしまう恐れもあり、米国にとっても「もろ刃の剣」となるリスクが相応にある政策だ。
(参考資料)
"Why Americans Can't Buy Cheap Chinese Electric Vehicles(安い中国EV、米国人はなぜ買えない?)", Wall Street Journal, November, 28, 2023
「米がEV優遇で新指針、中国依存回避 サプライチェーン再編迫る」、2023年12月2日、産経新聞速報ニュース
「米国のEV税優遇、中国産材料使用で対象外に 24年以降」、2023年12月2日、日本経済新聞電子版
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