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マイナス金利政策解除で3層構造の日銀当座預金制度はどうなるか

2023/12/22

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付利金利制度はなぜ生まれたか

日本銀行のマイナス金利政策解除の観測が強まる中、マイナス金利政策と同時に導入した3層構造の日銀当座預金制度の先行きへの関心も強まっている。

2016年以降、日本銀行は日銀当座預金の政策金利残高に適用される付利金利を、政策金利と位置づけている。これは日本銀行の債務、借り入れに適用される金利だ。

しかし長らく、日本銀行は民間銀行に対する日本銀行の債権、貸し出しに適用される金利を政策金利としていた。それがかつての公定歩合であり、その後の無担保コールレート(翌日物)誘導目標であった。

2008年に日本銀行は、日銀当座預金の中で所要(法定)準備以外の超過準備に適用される付利金利を、政策目的で初めて導入した。それは、日本銀行が量的な政策を進める中で、政策金利であるコールレート翌日物をコントロールするためだ。

そもそも金利と量は表裏一体であり、コールレート翌日物誘導目標を引き上げるためには、日銀当座預金の超過準備を減らす必要がある。しかし、量的緩和策で一度膨らませた日銀当座預金の超過準備を減らすのには時間がかかる。買い入れた国債を市場で売却すれば急速に減らすことはできるが、それを行えば、長期金利の急上昇など、金融市場を大きく混乱させかねない。

インフレリスクが高まる中、直ぐに日銀当座預金の超過準備、つまり量を削減して無担保コールレート(翌日物)を引き上げることができなければ、インフレの加速を許し、政策が後手に回ってしまう。

そこで考え出されたのが、政策手段として利用する付利金利制度だったのである。

いずれは2層型の日銀当座預金制度に

今後、日本銀行がマイナス金利政策を解除して政策金利(付利金利)を引き上げていく中で問題となるのが、日銀当座預金の3層構造だ。3層構造の中で大部分を占めるのが0%の金利が適用されているマクロ加算残高だ。そのもとで、日本銀行が0%を大きく上回る水準まで政策金利を引き上げても、大量のマクロ加算残高が妨げとなって、無担保コールレート(翌日物)を十分に引き上げることができない可能性がある。その場合、政策金利(付利金利)と銀行の調達コストである無担保コールレート(翌日物)との間に乖離が生じ、有効な金融引き締め策にならなくなってしまう。それは、日本銀行の政策への信認を大きく損ねてしまうだろう。

そのため、日本銀行が政策金利を引き上げていく中では、現在の3層構造を解消し、従来の所要準備と超過準備の2層構造に戻すことが予想される。しかし、小幅な政策金利の引き上げであれば、無担保コールレート(翌日物)との間に大きな乖離は生じない。日本銀行の政策金利引き上げは、少なくとも当初は0.0%、0.1%程度までにとどまるだろう。そこで、激変緩和を避けるために、マイナス金利政策解除時には現在の3層構造は維持し、その後に、2層構造に戻していくことが予想される。

政策金利は無担保コールレートに戻っていく

国会答弁で植田総裁は、政策金利としては、付利金利であっても無担保コールレート(翌日物)であっても大きな違いはないとしている。ただし、政策修正後も当面は高水準の日銀当座預金が残り、無担保コールレート(翌日物)を特定水準に厳格に誘導することには困難さが残る。無担保コールレート(翌日物)の誘導目標を再び政策金利としても、実際のコールレートをその水準に誘導できなければ、政策の信認が損なわれてしまう。そこで、しばらくの間は付利金利を政策金利として位置付け、日銀当座預金の残高削減が相応に進んだ後に、無担保コールレート(翌日物)の誘導目標を再び政策金利とするのではないかと予想される。

金融市場では日本銀行によるマイナス金利政策解除の期待が高まっているが、3層構造の日銀当座預金制度や政策金利の位置づけについては、日本銀行はかなりの時間を掛けながら、慎重に見直しを進めていくことになるだろう。

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