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イエメン・フーシ派による紅海での船舶攻撃で、世界の物流が混乱

2023/12/25

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紅海、スエズ運河経由は海上コンテナ輸送全体のおよそ10%

11月以降、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が、紅海を航行する船舶への攻撃を繰り返している。彼らは、イスラエルと関連があると判断した船舶に、無人機やミサイルによる攻撃を行うとしている。これが、世界の物流を混乱させ、また物価上昇リスクを高めている。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、イランの準軍事組織が、フーシ派にリアルタイムで情報提供を行い、それを用いてフーシ派はドローン(無人機)やミサイルで船舶を標的にしていると報じている。

紅海はアジアと欧州を結ぶ重要な水路で、船舶交通の要所であるエジプトのスエズ運河を経由する輸送は、海上コンテナ輸送全体のおよそ10%を占めるという。海上コンテナは世界の物資輸送の3割を占め、輸送金額は年間1兆ドルに上る。

また紅海は、石油・天然ガス輸出の大動脈の一つと言える。米エネルギー情報局(EIA)によると、航海を経由するエネルギー輸送は、2023年1-6月期の海上石油貿易全体の12%、液化天然ガス(LNG)の世界貿易の8%をそれぞれ占めていた。

スエズ運河の輸送量は、ウクライナ紛争後に増加している。経済制裁を受けたロシアの原油輸出先が、欧米から、スエズ運河を経由してアジアに向かうようになったためだ。インドのロシア産原油輸入量は、ウクライナ戦争が始まる前の2021年には日量9.7万バレルだったが、今年の1月-11月には日量163万バレルまで増加している。

また欧州も、ロシアが昨年停止したパイプラインでのガス供給の代替先として、カタールからの紅海経由でのLNG輸入への依存度を高めている。

S&Pグローバルによると、スエズ運河経由の石油輸送量全体は、今年1~11月に日量平均472万バレルとなり、前年同期比で46%増加している。

世界の海上輸送能力が20%減少との分析も

22日のロイター通信などによると、フーシ派による紅海での相次ぐ船舶攻撃のため航路を変更したコンテナ船は、少なくとも158隻にのぼるという。これらコンテナ船の貨物の金額は、コンテナ1個あたり5万ドルとすると、合計で1,050億ドルに達する。

紅海はスエズ運河を通って地中海につながっているが、紅海航路を利用できず迂回する場合には、コンテナ船はアフリカ南端の喜望峰を回ることになる。スイスの物流大手「キューネ・アンド・ナーゲル」によると、スエズ運河を経由してアジアとヨーロッパの間の輸送にかかる日数は通常30日から40日程度であるが、アフリカの喜望峰を経由するルートを通る場合には、スエズ運河経由と比べて片道で10日から15日、往復では3週間から4週間余計にかかる可能性があるという。さらに「キューネ・アンド・ナーゲル」は、航行時間が長くなることで、世界の海上輸送能力が20%減少することが予想される、としている。

各種物流コストが上昇

こうした物流の混乱は、物流コストの上昇をもたらしている。韓国の中央日報によると、21日時点で中国の上海から英国へ向かう40フィートのコンテナ運賃は、前週の2,400ドルから1万ドルまで一気に4倍にも上がったという。

さらに海上貿易路に支障が生じた結果、陸路への切り替えが起こり、中東地域のトラック運送料金が倍以上になるなど、物流運賃が上昇している。また、航空輸送へのシフトから、航空輸送のコストも上昇している。中国-北欧航空配送料金は前週から13%上昇したとの指摘もある。

最悪の事態はホルムズ海峡の閉鎖

2021年にスエズ運河で起きたコンテナ船の座礁事故でも生じたことだが、紅海での船舶攻撃は、世界の物流を混乱させ、また物流コストの上昇を通じて、世界経済に打撃となっている。

ただし、現時点では、世界経済と物価に大きな影響を与える原油価格の急騰にはつながっていない。原油価格の急騰をもたらすのは、紅海、スエズ運河での物流の混乱よりも、イランによるホルムズ海峡閉鎖などである。

ホルムズ海峡では日量約2,000万バレルの原油・石油製品が行き交うが、これが止まれば、OPECプラスの原油生産全体の日量4,300万バレル(9月時点、IEA)の半分程度の海上輸送がストップしてしまう計算となり、原油価格への影響は甚大だ(コラム「中東情勢悪化で原油価格が急騰する条件」、2023年10月13日)。

紛争の拡大が、そうした最悪の事態につながることがないかどうかは、引き続き金融市場の大きな懸念として残る。

(参考資料)
"Gaza Is Making Oil and Gas Markets Twitchier(ガザ紛争、石油・ガス市場を揺るがしかねず)", December 20, 2023
"Iranian Spy Ship Helps Houthis Direct Attacks on Red Sea Vessels(紅海の船舶攻撃、イランがフーシ派に情報提供)", December 23, 2023
「1050億ドルの貨物が迂回…「紅海発物流大乱」で陸海空運賃が上昇」、2023年12月23日、中央日報
「紅海襲撃、輸送能力2割減 スイス物流会社、コンテナ船動向分析で指摘 迂回で滞留時間大幅増」、2023年12月23日、日本経済新聞
「フーシ派の船舶攻撃 150隻以上に影響 物流混乱 物価上昇に懸念」、2023年12月23日、NHK

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