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米国オフィス市場のスランプは2024年に一層強まるか

2023/12/26

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在宅勤務の定着がオフィス需要の停滞に

米国の商業用不動産市場の不振が、足もとでより深刻になっている。グリーン・ストリート(Green Street)社が毎月発表している米国の商業用不動産指数(Commercial Property Price Index:CPPI)は、2023年10月、11月と2か月連続で前月比3%台の大幅下落となった。11月の指数は、2022年3月につけたピークから21.6%下落している(図表)。

商業用不動産の中でも最も苦境に直面しているのが、オフィス市場だ。新型コロナウイルス問題後の在宅勤務の広がりに、金利上昇という悪材料が重なったためだ。在宅勤務の定着が空室率を上昇させる中、2024年には景気の減速も、オフィス市場の新たな逆風となることが予想される。

新型コロナウイルス問題は概ね終息しても、オフィス需要はコロナ前の水準に戻る兆しは見られない。完全在宅勤務の従業員数は一時期よりも減少したものの、一部在宅という勤務の形態は米国では定着した感がある。スクープ・テクノロジーズ社によると、在宅勤務を採り入れている米企業の割合は、2023年10-12月期に62%と、2023年1-3月期の51%からむしろ増加した。携帯電話データ分析会社プレイサー・エイアイ(Placer.ai)も、米国の平均出社率は60~65%で安定しているとしている。

図表 米国の商業用不動産価格の推移

オフィスの空室率はさらに上昇へ

コスター・グループのデータによると、米国のオフィス空室率は現在13.6%と過去最高水準にある。2024年末には15.7%、2026年末までには17%を超えると同社は予想している。

空室率のさらなる上昇は、賃貸借契約の満了によって引き起こされるだろう。同社によれば、コロナ前に締結されたオフィス賃貸借契約の半分近くが今はまだ満了していないという。満了後は、テナントが契約を更新しないケースやスペースを削減して更新するケースが多く出ることが予想され、それが空室率をさらに上昇させ、賃貸料を押し下げる。

一方、オフィスのオーナーは、こうした空室率の上昇による賃貸料収入の減少とともに、利払い負担の増加にも直面している。金利が歴史的に低い水準で行った借り入れが返済期限を迎えると、借り換え分の利払い負担が大きく増加するのである。利払い負担増に耐え切れず、オフィスを安値で売却すれば、それがオフィス価格をさらに押し下げてしまう。

オフィスの投げ売りはすでに起こっており、サンフランシスコでは、スピアストリート60やカリフォルニアストリート350などの主要なオフィスビルが、コロナ前の数分の一の価格で売却された。

不動産不況は、銀行にも打撃

不動産不況は、銀行にも打撃を与えつつある。データ会社トレップによると、商業用不動産ローン担保証券の裏付けローンや銀行融資の延滞率は、現在6%を超えている。コロナ前は1%を下回っていた。

同社は、2024年後半までに、オフィスのローン滞納率が8%を超えると予想している。これは、銀行の不良債権の増加、与信コストの増加をもたらし、現在見られている銀行の貸出抑制傾向を加速させる可能性がある。それは、景気の減速を後押しするだろう。

中国と同様に米国でも、不動産市場の調整、景気の減速、金融システムの不安定化の3者が相乗的に進んでいくリスクが、2024年には高まるのではないか。

(参考資料)
”The Office Market Had It Hard in 2023. Next Year Looks Worse(米オフィス市場の苦境、2024年は一層深刻に)", Wall Street Journal, December 21, 2023

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