フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 目的から考えるレガシーシステムのクラウド移行戦略

目的から考えるレガシーシステムのクラウド移行戦略

2023/05/10

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

レガシーシステムはクラウド移行が進んでいない

業界問わず、企業のパブリッククラウド利用が広がっており、その勢いは今後数年継続しそうだ。2022年9月にIDC Japanが発表した「国内パブリッククラウドサービス市場予測」※1によると、パブリッククラウドの市場規模は、2026年には2022年の約2倍となる4兆2795億円まで到達する見込みだ。


国内パブリッククラウドサービス市場 売上額予測(出典:IDC Japan)

市場規模が急速に拡大している一方、日本情報システム・ユーザー協会(以下、JUAS)の「企業IT動向調査報告書2022」※2によると、システム種別ごとにパブリッククラウドの活用状況には温度差がある。ビジネス要件や技術動向の変化が激しく、システム再構築の機会も多いWeb・フロント系ではクラウド利用が進んでいる一方、基幹システムではクラウド利用が進んでいない。


システム種別ごとのパブリッククラウド利用状況(出典:JUAS)

つまり基幹システムのように再構築のニーズが少なく、長期間アーキテクチャが変わっていない「レガシーシステム」は、依然としてオンプレミス環境に取り残されている可能性が高い。そこで今回はレガシーシステムのクラウド移行戦略について考える。

クラウド移行の目的には「守り」と「攻め」がある

レガシーシステムをクラウド移行する目的は何だろうか。いくつかの企業を支援していると、クラウド移行の目的は大きく「攻め」と「守り」に分かれていることがわかる。

● 守り:運用負荷・コストの削減、セキュリティ・障害・災害リスクへの対策
インフラの運用負荷・コストを下げることや、ハードウェア障害によるシステムダウン対策など、現状の負の側面を改善することに主眼を置く。これが「守りの目的」だ。

● 攻め:新しいビジネス要求への対応、アジリティの向上
新しいビジネスを始める等の理由で今のハードウェア・アーキテクチャでは対応できないため、柔軟性・拡張性に優れたクラウドに移行する。これは現状より前進するための「攻めの目的」となる。

企業によってクラウド移行の主目的は異なっており、目的に応じてクラウド移行方式や移行先も変わってくる。現状と目的を整理し、適切な移行方式・移行先を選択することを「クラウド移行戦略」と呼ぶ。

目的に応じたクラウド移行戦略を検討する

移行方式・移行先のパターン(以下、移行パス)として、Amazon Web Services(以下、AWS)は下記のフレームワークを提唱※3している。


クラウド移行パス「7R」(出典:Amazon Web Servicesブログ)

7つのパターンそれぞれが「R」で始まる名称であるため、「7R」と呼ばれる。以前は6Rだったが、パブリッククラウドの進歩により2020年にリロケートが増え、7Rとなった。移行パス自体も日々変わっており、最新状況を踏まえて判断する必要がある。


移行パスの概要と改善領域(出典:NRI作成)

上の表は、NRIが整理した移行パスと改善領域の関係だ。移行パスごとに改善される領域が異なることがわかる。例えばリホストの場合、ハードウェアが置き換わるため、インフラの老朽化対策にはなるが、アーキテクチャや業務プロセスは現行踏襲となる。これは主に「守りの目的」に対応した移行方式だ。一方、リパーチェスの場合は、業務プロセスを見直してSaaSやパッケージに業務を適合させる。これによりインフラ・アーキテクチャ・業務プロセスが全面的に刷新される。これは「攻めの目的」が得られる移行方式だ。また、改善領域が大きい移行パスになるほど、一般にその移行難易度・費用は高くなる。

クラウド移行戦略では、これらの特性と自社の現状・目的を踏まえて移行パスを決定する。そこには多くの要素が絡み合うが、次のフローチャートをベースにすると検討しやすい。


目的に応じた移行パスの選び方(出典:NRI作成)

一般に「攻めの目的」に対応しようとすると、アーキテクチャや業務プロセスから見直す必要があることが多い。しかし、これには期間と費用を要する。日々の運用負荷が高いレガシーシステムに対して一足飛びにリパーチェスやリファクタリングに乗り出した結果、完遂しきれず頓挫してしまう例も見受けられる。そのような場合は、まずリホストやリプラットフォームで運用負荷・コスト削減という「守りの目的」を早期に回収し、生まれた余剰のマンパワー・予算を用いて後日「攻めの目的」に向けてリファクタリングすることが現実的な進め方となる。

特にリロケート、リホスト、リプラットフォームのような守りの目的に適した移行パスには、各パブリッククラウドから移行サービスが提供されている。例えばAWSでは次のようなサービスがある。これらをうまく活用することでレガシーシステムのクラウド移行を早めることができる。


AWSの移行サービス群(出典:AWSドキュメントを基にNRI作成)※4~6

クラウド移行の好事例

NRIはこれまで多様な業種のお客様のクラウド移行を支援してきた。例えば、株式会社資生堂は、オンプレミスで運用していたWebサイト「ワタシプラス」を2017年にAWSへ移行した※7。移行パスとしてリホスト・リプラットフォームを採用し、Amazon EC2やAmazon RDSをベースとした構成とした。これにより「守りの目的」である①運用コスト削減と②急激なアクセス増加負荷に耐えられるインフラを実現している。さらにここで取得した共通基盤やクラウドのノウハウを基に、近年ではAWSのサーバレスサービス群を活用した店頭接客を支援する「パーソナルビューティープラン」をスピーディーかつ低コストで構築している※8。これはクラウドネイティブなアーキテクチャにより攻めの目的を実現できた好例だ。


資生堂のクラウド移行戦略

レガシーシステムをそのままクラウドネイティブな構成にリファクタリングすることも間違いではないが、現状の運用リソースや移行の予算、企業の目的によっては、中長期のクラウド移行戦略を考えることを推奨したい。

参考文献

執筆者情報

産業ソリューション事業本部 大石 将士:
2011年に野村総合研究所に入社。大手食品業のシステム運用を担当。その後、製造業や旅行業のお客様に対するパブリッククラウドを用いたシステム設計・開発を経て、現在は主にクラウド移行案件に従事。専門はシステムアーキテクチャデザイン、クラウド移行。

DX時代のシステム導入最前線一覧ページへ

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn