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Web3の実現の鍵となるパブリック・ブロックチェーンの高速化(後編)

2023/10/26

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前回はWeb3の概要とブロックチェーンとの関係、ブロックチェーンのうちWeb3での利用が見込まれるパブリック・ブロックチェーンの概要とその代表格であるイーサリアムのスケーラビリティ課題について述べました。本稿ではその続きとして、大きな技術者コミュニティを有するイーサリアムにおけるスケーラビリティ課題解決のためのアプローチ、および一部の機能についての調査・検証結果を紹介します。

前ページ:Web3の実現の鍵となるパブリック・ブロックチェーンの高速化(前編)

イーサリアムにおけるスケーラビリティ課題へのアプローチ

イーサリアムのスケーラビリティ課題を解決するためには、大きく2つのアプローチが考えられています。
1つはイーサリアムそのものを改良するアプローチです。イーサリアムはブロックチェーン・ノードの分散性とセキュリティを重視した仕組みになっています。このアプローチはイーサリアムのこの特徴を保ちつつ、「シャーディング」と呼ばれる技術を用いて分散処理を行うことで高速化するものです。現在のイーサリアムでは、イーサリアムに参加しているコンピュータ全体で、ブロックの作成や検証を行っています。シャーディングではコンピュータをいくつかのグループに分け、各グループがブロックの検証を分担して処理することで高速化を図る技術です。ただし、処理するなかでブロック同士に依存関係があった場合のグループ間のコミュニケーションをどうするかなど、多くの考慮が必要なこともあり、本稿執筆時点では、具体的にいつシャーディングが実装されるのかは明らかになっていません。

もう1つのアプローチは、イーサリアムとは別のブロックチェーンを使用して、そちらのブロックチェーンでトランザクションの処理を行い、結果をイーサリアム側に格納することで高速化する「レイヤー2」と呼ばれるアプローチです。レイヤー2という呼び名は、高速化用のブロックチェーンをイーサリアムの一段上(本体のブロックチェーンをレイヤー1と呼ぶ)のレイヤーに置くイメージから来ています。こちらは現在様々な技術実装が登場しており、実際に利用することも可能です。
ここでは、実用化が進んでいるレイヤー2について詳しく述べたいと思います。

レイヤー2技術の状況

レイヤー2では、複数のトランザクションを1つにまとめてレイヤー1に書き込むロールアップ(Rollup)と呼ばれる技術を使い、パフォーマンス向上を図ります。ロールアップにはOptimistic Rollup、ZK Rollupの2つがあります。

Optimistic Rollupではレイヤー2側でトランザクションを処理し、結果の検証を行わず、楽観的に(Optimisticに)レイヤー1に結果を書き込みます。このままだと、レイヤー2を構成するコンピュータが不正なトランザクションを発生させた場合に、不正な処理結果がレイヤー1に書き込まれたままになるリスクがあります。Optimistic Rollupではこのリスクを軽減させるために、別のコンピュータが処理結果を検証し異議申し立てを行うことができるようになっています。これによって、信頼性が担保される仕組みとなっています。異議申し立てはある一定の期間行うことが可能で、この期間を過ぎるとレイヤー1上での書き込み内容が確定されます。

ZK Rollupはゼロ知識証明(Zero Knowledge Proof)と呼ばれる技術を用いて、レイヤー2でのトランザクション処理結果が正しいことを保証してレイヤー1のブロックチェーンに結果を書き込む方法です。
ゼロ知識証明とは、証明者(秘密を知っている人)がその秘密の内容自体を明らかにすることなく(ゼロ知識で)、検証者と呼ばれる別の人に対して自身が当該秘密を知っていることを証明する技術です。レイヤー2ではこの技術をトランザクション処理が正しく行われたことを示す証明書に使用しています。レイヤー1側ではこの証明書を確認するだけで「正しく処理された」ことを確認できるため、Optimistic Rollupのようにトランザクションの再計算や異議申し立て期間を待つ必要がなくなります。その結果、トランザクションの検証・確定にかかる時間を短縮できるメリットがあります。
一方で、ZK Rollupは暗号資産のやり取りなどの単純な計算であればよいものの、複雑な演算を行うことが難しい、計算のための負荷が大きいなどの課題を抱えています。そのため、ZK Rollupを実装したサービスはいくつか登場しているものの、本格的な普及にはもう少し時間がかかるとみられます。現状では、相対的に技術的な課題の少ないOptimistic Rollupがレイヤー2のシェアの7割程度を占めています。

レイヤー2利用にあたっての開発コストとビジネス上のリスクに関する留意事項

レイヤー2のうちOptimistic Rollup技術の検証を通じて得た、レイヤー2の普及にむけて重要になるポイントをいくつかご紹介します。1つは、Optimistic Rollup技術を利用した場合の開発・維持管理コストが増大する可能性がある、もう1つはビジネス上のリスクがあるという点です。
1つ目の開発・維持管理コストについてですが、ブロックチェーンを使用したWeb3アプリケーション開発においてはブロックチェーンへ接続するためのノードの構築や維持管理のコストがかかり、開発コストに影響するという課題があります。そのため、ブロックチェーン・ノードのセットアップと運用を代行してくれる「ノードプロバイダー」と呼ばれるサービスが普及しています。ノードプロバイダーを利用することで構築や維持管理のコストを抑えながらブロックチェーンを活用したアプリケーションを構築することができます。
調査・検証の結果、ノードプロバイダーによるレイヤー2のサポートが増えており、レイヤー1のブロックチェーンインフラ構築をノードプロバイダーに任せたとしてもレイヤー2による高速化のメリットを享受できることを確認しました。また、多くのレイヤー2のサポートサービスは、元のアプリケーションに大きな変更を加えることなく利用可能であることも分かりました。さらに、開発ツールについても概ね従来のツールが利用可能であり、開発者にとってノードプロバイダー利用の学習コストも高くないことが確認できました。
以上の点からレイヤー2利用によって大きくWeb3アプリケーションの開発コストが上昇する可能性は低いと思われます。
2つ目のビジネスリスクについては、利用にあたって注意すべき点があることが分かりました。それは現在のOptimistic Rollupを使ったレイヤー2サービスは非中央集権性が十分でないため、レイヤー2サービスの運営者を信頼しなければならない状況が生じる点です。サービスによっては信頼性が十分とは言えないものもあり、利用者はハッキングやバグ等による想定外の損害を被らないように注意が必要です。このリスクを低下させるために、利用前に専門家へ相談し、レイヤー2の仕様、運営体制やガバナンスを調査・検証することが望ましいと考えられます。

今後のNRIの取り組み

ブロックチェーン技術はWeb3を実現するための鍵となる技術の1つです。従来のインターネットの課題を解決するには未成熟ではあるものの、様々な技術開発が現在も世界中で行われています。Web3はそれが実現された場合、従来とは異なる新しいサービスやビジネスが生まれる可能性を秘めています。今後もNRIではWeb3やブロックチェーンの研究開発により最新の動向や知見を獲得し、お客様のビジネスや価値向上へ貢献できるよう活動してまいります。

執筆者プロフィール

太田 好則:
金融システムの ネットワーク・システム基盤設計・構築・運用維持管理に従事後、プライベートクラウドの設計・構築・運用維持管理 および パブリッククラウドを活用した データ分析基盤のサービス化を担当。現在はリーダーとして クラウド統制ソリューションの企画・開発・運用に加えて、ブロックチェーンの R&D や 支援業務を担当。

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