フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 プライシング改革 -製品・サービスの価値を見極めて利益に資する値付けを実現する-

プライシング改革

-製品・サービスの価値を見極めて利益に資する値付けを実現する-

2023/11/24

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

概要

昨今の物価高騰の流れの中で製品・サービスの値段は確実に上がっている。これまで日本企業のお家芸だったコストダウンに限界が訪れる中、これからはいかにして製品・サービスの価値に見合った適正な価格を設定し、利益を確保するかが企業の経営を左右する時代になったと言える。では、どうすれば価値に根差した適正な値付けを実現できるのか。具体例とともに見ていきたい。

脱・値下げスパイラル

日本は古来より、質素倹約を美徳としてきた。お金に対して慎ましいこと、身の丈に合った生活をすることが愛でられてきたのだ。そのような文化的な側面も一部影響し、いまだに多くの日本企業では「いいものを安く」という発想が根強い。安くすることがいいことだ、消費者のためだ、と考えて自ら進んで安値を設定している。

しかし、図表1に示した通り、安さで勝負すると、企業は儲からない。企業が儲からないと給料が上がらない。すると個人の購買力も上がらないため、企業は安さで勝負せざるを得ない。つまり、誰かが安さで勝負を仕掛け、まわりもそれに追随すると、結果、みんなが儲からず、その先に幸せな世界は見えてこない。逆に、新しい価値を創造するバリュークリエーションサイクルに転換できれば、日本の社会全体が豊かになる。すなわち、製品・サービスの価値を向上させ、それによって価格を上げる。企業は利益が増えた分を従業員に給与として還元する。それが個人の購買力の引き上げにつながり、企業は個人の旺盛な需要によってさらに儲かるという好循環につながるのだ。日本全体で脱・値下げスパイラルにシフトし、新しい価値の創造へと向かっていきたいところである。

図表1 値下げスパイラルとバリュークリエーションサイクル

価値創造とプライシング

では、どうすれば価値を創造し、価格アップを実現できるか。図表2をご覧いただきたい。こちらは横軸にニーズ、縦軸にウォンツをとり、それぞれ高いか低いかで象限を4つに分けたものだ。ここでいうニーズは必要性、ウォンツは欲求として定義している。順番に見ていきたい。

図表2 ウォンツ×ニーズマトリクス

まずは図表2の左下。ここはニーズもウォンツも低い。消費者に求められていないため、事業としては成立しづらいゾーンである。

次に右下。ここはニーズが高く、ウォンツが低い。例として、宅配便やカーシェアがある。宅配便は送りたい荷物があるから利用するサービスであり、衝動的に使うものではない。届くまでの時間が同じであれば安い方がよいと考える人が多数派であろう。カーシェアも移動先の体験には心躍るものがあるが、多くの人にとってはそこまでの移動手段にすぎない。自宅から近くて安いものを選ぶ人が多い。つまり、この象限に入る製品・サービスは価格の安さや入手のしやすさが決め手となる。非常に価格競争に陥りやすいゾーンだと言える。

次に左上。ここはニーズが低く、ウォンツが高い。例として、エルメスやデロンギがある。エルメスのバーキンを持っていなくても家にある別の鞄で外出できるはずだ。デロンギのコーヒーメーカーがなくてもドリップコーヒーは淹れられる。でも、欲しいのである。バーキンの持つ圧倒的なステータス、デロンギから漂う生活のゆとり。こういったものがウォンツとして消費を喚起し、高い値段でも製品・サービスが受容される理由になっている。

最後に右上。ここはニーズもウォンツも高い。例として、アップルやナイキがある。iPhoneは言わずと知れたスマホの代名詞。新型発売時の行列はおなじみの光景で、人気に裏打ちされて値崩れも少ない。ナイキの駅伝シューズは高価だが、履くと区間新記録を更新する選手が続出。値段は3万円近くするが、お正月の風物詩である箱根駅伝をはじめ、マラソン大会でも多くのランナーが着用している。

アップルやナイキに共通している点は強いブランドがあることだ。製品・サービスが優れているだけでなく、強いブランドがあるからファンが生まれ、人気が出る。人気が出るから高い値段でも売れる。そんな好循環が生まれているのだ。先ほど、ウォンツが低いと、価格の安さや入手のしやすさが決め手となり、価格競争に陥りやすいことを述べた。逆にウォンツが高いと、価値や便益、中身が決め手となり、価格競争になりにくい。これが価格アップのためにはニーズではなく、ウォンツを追求すべき理由である。

価値の見極めとプライシング

ここからプライシングに話を移すと、値決めにおいて最も重要となるのが製品・サービスの価値の見極めである。価値ベースでの値付けをマーケットイン、コストベースでの値付けをマークアップと呼ぶが、消費者の立場ではどれだけコストがかかったかは争点にならない。むしろ私たちが普段から行っているように、価値が価格に見合っているかを目利きして購入を判断する。

近代マーケティングの父と称されるフィリップ・コトラーも「顧客は支払った価格に対して得られるベネフィットの点から最大の価値を与えてくれる製品を求めている」と説いている。このことからも値付けはマークアップではなく、マーケットインで行うことが望ましい。ただし、マーケットインといっても、価値を推し量ることができなければ経験、勘、度胸での値付けになってしまう。価値の見極めがプライシングの成否を分けるのである。

では、どうすれば価値を見極められるのか。そのためにはそもそも価値がどう定義されるかを知らなければならない。図表3に示した通り、価値は「根源的価値」、「機能的価値」、「情緒的価値」、「自己表現価値」の4つに分けられ、顧客価値のピラミッドとも呼ばれている。

図表3 製品・サービスの価値の構成要素

自動車業界を例にすると、フェラーリやポルシェなどのプレミアムブランドは、「自己表現価値」「情緒的価値」、大衆車を多く手掛けるマスブランドは、「機能的価値」が決め手になる。

説明を続けたい。まず、フェラーリは既存顧客リストをもとに「需要マイナス1台」を生産することで有名である。意図的に供給を絞ることで、希少性をアップさせているのだ。巧みな需給コントロールで手が届かないプレミアム感をつくり出し、それが自己表現価値、情緒的価値を醸成している。限定車は予約で完売し、新車よりも中古車の価格の方が高い逆転現象まで起きているのには驚きを隠せない。

プレミアムブランドは、製品単位で価値や価格を語るべきではなく、ブランドをどう位置づけたいかという思想が重要である。他のブランドとのあいだのポジショニングをはっきりさせ、値決めの主導権を顧客や競合に奪われないことがポイントだ。また、情緒的価値、自己表現価値を充足させるために必要以上に安くしてブランドイメージを壊さないようにすることも大切である。

次に、マスブランドの例として、ハイブリッドカーの代名詞でもあるトヨタのプリウスとホンダのフィットを比較したい。(現在はプリウスのグレードの一部がサブスクリプション限定での提供になっているため、)2022年時点の価格を比較すると、両者には約60万円の価格差がある。この差はクルマの大きさ、性能、仕様といった「機能的価値」の差で説明できる。

具体的に、大きさの面ではプリウスはCセグメント、フィットはBセグメントに属しており、プリウスの方が大きい。(セグメントとはクルマを全長によってグループ分けしたものであり、全長3.7m以下のAセグメントから全長5m以上のFセグメントまで6段階に設定されている。)広々と座ることができ、荷物もたくさん収納できる。性能面ではプリウスの方が低燃費だが、出力はフィットが上回る。仕様面ではプリウスがアルミホイールなのに対してフィットはスチールホイールといった具合である。これらの差が両者の「機能的価値」の差として価格に反映されている。機能的価値は目に見えたり、体感できたりするため、ユーザーが知覚しやすく、定量化もしやすいという特徴がある。この機能的価値の差を拠り所に価格の案をつくり、そこに企業としての意思を入れながら最適な価格ポジションを探求する、という方法がマスブランドの値付けの定石である。

もちろんプライシングは製品やサービス、市場環境によって考慮すべき点や適した手法は異なる。
今回のコラムでは細部まですべて紹介しきれないため、ご関心のある方は詳細版の資料をダウンロードいただき、ご参照いただければ幸いです。

執筆者情報

  • 下 寛和

    グローバル製造業コンサルティング部

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

お問い合わせ

経営のご相談やコンサルティングに関するお問い合わせはお気軽にこちらへ

株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部
E-mail:consulting_inquiry@nri.co.jp