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NRI自動車業界レポート2022

―消費者編―

2023/03/14

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100年に1度と言われる変革期に直面する自動車業界。自動車メーカーは事業領域を広げ、自動車の価値もモノからソフトウェアへと変化しています。これらの変化に対応するため、自動車メーカーでは販売方法やサービスの見直し、またIT基盤や組織の変革に取り組んでいます。このたび、NRIでは、主要4か国(日本、アメリカ、ドイツ、中国)における自動車保有者のニーズ及び業界の動向を徹底調査し、プレーヤーであるメーカーおよび販売店が抱える課題や打ち手、業界の将来像について「NRI自動車業界レポート2022」にまとめました。
本記事では、調査設計と分析を担当したコンサルタントが、本レポートのエッセンスをピックアップして解説します。レポートのテーマは全部で7つあり、2回に分けてその内容をお届けします。
第1回目は「消費者編」と題し「テーマ①インターネット販売」「テーマ②プライシング」「テーマ③サブスクリプション」および「テーマ④メンテナンス」について解説します。

「NRI自動車業界レポート2022 消費者編」ダウンロードはこちら

執筆者プロフィール

木下 湧矢:
2020年にNRIに入社。入社以来、製造業のデータ連携基盤の構想と効果検証、およびITマネジメント領域の支援業務に従事。現在は主にデジタル・IT戦略の構想支援に取り組む。

笹川 葵生:
2021年NRIに入社。主に自動車領域で、サービス/システムの企画構想支援、システム開発のPMO、IT人財育成支援などのコンサルティング業務に従事。

はじめに

こんにちは。野村総合研究所システムコンサルティング事業本部の木下、笹川です。主に自動車領域におけるサービス/システム企画構想支援、開発支援の活動を行っています。

昨今、インターネットでEV(電気自動車)を購入できるようになるなど、消費者が販売店を訪れて対面で価格交渉を行う従来の自動車販売とは異なる販売手法が登場しています。さらに、車のサブスクリプションやEV向けの出張メンテナンスサービスも登場しており、消費者に対するサービスは多様化してきています。これら新しい販売手法やサービスに対して、消費者は一体どの程度の関心を持っているのでしょうか。今回、インターネット販売、プライシング、サブスクリプション、メンテナンスの4テーマについて、これらの新しいアプローチに対する消費者の受け入れ意向を調査しました。

調査概要

本調査は日本・アメリカ・ドイツ・中国の4ヶ国を対象としました。これは、各国で自動車業界のサービス・販売慣習に差があり、消費者意向に国別の特徴が現れると考えたためです。

調査の対象は、実ユーザーの生の声を集めるために自動車保有者に限定し、各国における自動車保有者の年代別構成比と等しくなるよう割り当てています。以下、テーマ別にアンケート結果に見られる特徴をご紹介します。
詳細なレポートにつきましては、下部のリンクよりダウンロードしてご覧いただけます。

テーマ①インターネット販売

店舗での商談には、インターネット商談にないメリットがある

インターネットを使った音声・ビデオ通話での商談(以下、「インターネット商談」)の利用意向は、中国で最も高く、回答した人の81.7%が「利用したい」ないしは「どちらかというと利用したい」と答えました。しかし、他の国での利用意向は、アメリカ47.4%、ドイツ23.3%となっており、日本は17.4%にとどまりました(図1左)。

さらに、インターネット商談があれば「店舗での対面のやりとりが不要」と回答した人は、どの国でも4割を下回りました。インターネット商談を「利用したい」割合が高い中国でも、64.1%が「店舗での対面のやりとりも必要」と答えており(図1右)、インターネット商談は対面商談に完全に置き換わるものではなく、両方が補完しあう手段として求められています。

図1 インターネット商談の利用意向と商談時の店舗での対面接客の必要性

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

対面商談を求める理由は4か国ともに「実車の確認」がトップ。VR試乗への期待は中国を筆頭に、半数以上がVR試乗体験の有効性を認識

商談において店舗での対面のやり取りが必要だと思う理由については、いずれの国でも「購入する車を実際に見たい・試乗したい」を挙げた回答者が最も多く、日本で72.0%、ドイツで73.3%、アメリカで70.0%、中国で53.5%に達しました(図2左)。

実車確認の代替としてVR(バーチャル・リアリティー)を活用した試乗疑似体験の有用性については、中国を筆頭にいずれの国でも「役に立ち購入の決め手にもなる」および「役に立つが、決める前に実車にも試乗したい」という回答者の割合が、半数を超える結果となりました(図2右)。

図2 対面のやり取りが必要な理由と VR試乗の有用性

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

以上の結果から、VR技術が進化・普及するにつれ、店舗での実車確認は一部VR試乗に置き換わる可能性があります。店舗での対面のやり取りや実車確認へのニーズは根強いものの、社会一般で、インターネットでの情報収集、コミュニケーションが拡大するに伴い、車の商談の場でもデジタル体験の豊かさを重視する傾向が強まるでしょう。結果として、商談はアナログとデジタルのハイブリッドになると考えられます。

テーマ②プライシング

4か国ともに8割以上の回答者が価格交渉に不満、交渉の時短・見積根拠の明確化が求められる

価格交渉に関する不満について尋ねたところ、いずれの国でも「交渉に時間がかかる、疲れる」と回答した人の割合が最も多く(日:35.7%、米:37.8%、独:28.9%、中:32.6%)、さらに日本・アメリカ・ドイツでは、「販売店によって価格の違いがある」、「見積根拠が不明瞭、説明が不十分」が続きました。中国では、「見積根拠が不明瞭、説明が不十分(25.4%)」と「販売店によって価格の違いがある(24.1%)」が同程度で、他の国よりも価格設定の透明性に対する不満が高いことがわかりました(図3左)。

価格設定に納得していない消費者も多い

近年、特にEVの車種を対象として、販売店で値引きをしない売り方(一律価格販売)が登場しています。しかし、いずれの国でも、回答者の8割超が、「店舗での価格交渉が可能なブランド」に、より魅力を感じているとしました(日:85.1%、米:87.8%、独:85.8%、中:87.3%)。

同じ車を買う場合でも価格が変わる理由として納得できるのは、いずれの国でも、「原材料や部品の不足・値上がり」と回答した人の割合が最も多く(日:48.5%、米:40.5%、独:29.4%、中:36.8%)、次に「決算前などのセール特別価格」が続きました(図3右)。

図3 価格交渉を不満に感じる理由と価格の変化として納得できる理由

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

以上の結果から、消費者は一律価格に否定的ですが、価格交渉には負担を感じており、その背景として価格が異なる販売店を複数周り、その中で見積根拠の不透明性への不満を募らせていることが読み取れます。また、価格が変わる理由として納得できるのは、「原材料や部品の不足・値上がり」と回答した人の割合が最も多かったことから、価格は販売店の担当者との対面の交渉よりも、原材料価格や需要動向などの条件により決定される方が消費者に受け入れられると考えられます。

テーマ③サブスクリプション

日・米・独では車のサブスクリプションの利用者はいまだ少数で、例外は中国

自動車保有者の車のサブスクリプション利用経験者の割合は、日本3.2%、アメリカ19.6%、ドイツ10.8%と少数でした。しかし、例外として中国では43.0%という高い割合となりました(図4)。

サブスクリプションを利用したことがなく関心もない理由としては、「気に入った車を長く使い続けたい」という回答がどの国においても最も多く、日本29.6%、アメリカ34.7%、ドイツ34.1%、中国41.7%となりました(図5)。

図4 サブスク利用経験の有無

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

図5 サブスクに関心がない/利用しない理由

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

消費者のニーズや生活シーンを踏まえて、ターゲット層を設定

サブスクリプションの利用者の属性や、サブスクリプションを利用する理由、利用しない理由を分析していくと、事業展開の余地を見出すことができます。

サブスクを使わない/関心がない理由について各国年代別に見ると、日米の20代では「近くにサービス取扱店がないから」が最多となりました(図6)。

また、サブスクリプションの利用者の属性情報を見ると、米独では同居人数が多い人ほど、サブスクの利用意向が高い傾向にあることが分かりました(図7)。

加えて、サブスクリプション利用経験者に対し利用目的を尋ねると、サブスクリプションの利用経験が最も多い中国では「いろいろな車を利用したい」という回答が最多となりました(図8)。

図6 サブスクに関心がない/利用しない理由

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

図7 世帯の同居人数ごとのサブスク利用経験の有無

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

図8 サブスクを利用した/関心のある理由

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

以上の結果から、今はまだサブスクリプションの利用者は少ないですが、具体的なターゲット顧客や生活シーンを想定した以下のような事業展開が考えられます。

  • 1.

    利便性重視の若者向け

    若者の居住が多い地域に取扱い店舗を増やし、広告などを通じてサービスの認知度を上げることが事業成功のカギとなる可能性があります。

  • 2.

    ライフイベントにより同居人数が増加した世帯向け

    同居人数が多い人ほどサブスクリプションの利用意向が高い傾向にあるため、ライフイベントに合わせた2台目の選択肢としてサブスクリプションが候補になる可能性があります。

  • 3.

    車の乗り換えを楽しみたい人向け

    サブスクリプションの利用経験が最も多く、サブスク先進国ともいえる中国に倣い、サブスクリプションを利用する理由として「いろいろな車を利用したい」と回答するような乗り換えを楽しむ顧客層を特定し、多様な品ぞろえを武器に訴求していくことが打ち手として考えられます。

テーマ④メンテナンス

消費者はメンテナンスの持ち込み・待ち時間に不満

メンテナンスに対して何らかの不満を持っている人は、日本73.8%、アメリカ90.8%、ドイツ77.4%、中国95.3%となり、どの国でも7割を超えています(図9)。最も多かった不満の理由は「販売店、サービスセンターへの持ち込みが面倒」であり、日本34.3%、アメリカ27.5%、ドイツ21.9%、中国25.6%でした(図9)。アメリカ、ドイツ、中国においては「販売店、サービスセンターでの待ち時間が面倒」、「メンテナンス期間中は車が使えない(代車もない)」の選択肢もTOP3に選ばれています(図9)。

図9 メンテナンスに対する不満

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

サービス改善に対する追加支払い意向は低い

メンテナンスについて最重視するポイントは、日本、アメリカ、ドイツでは「費用の安さ」となりました。例外的に、中国では「修理時間・期間の短さ」という結果となっています(図10)。

また、メンテナンスの不満に対する打ち手である出張メンテナンスサービスに対して、「有料でも利用してみたい」と回答した人は、中国で最も高く40.2%でした。他の国では日本3.5%、アメリカ22.1%、ドイツ9.0%となっており、特に日本、ドイツの追加支払い意向は低い結果となりました(図11)。中国での追加支払い意向が高い理由としては、車両メンテナンスで重要視するポイントが、中国のみ「費用」ではなく「修理時間・期間の短さ」となっていたことが関係していると考えられます。

図10 車両メンテナンスで重要視するポイント

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

図11 販売店への車の持ち込みが不要になるサービスの利用意向

出所)NRI「自動車に関する調査」(2022年)
単一回答/()の数はサンプル数を示しています

以上の結果から、メンテナンスについては追加コストを抑えた新サービスの提案が必要と考えられます。例えば、ジャッキアップが不要かつボードの交換による修理が可能なEVについては、低コストで出張メンテナンスが可能になるため、追加コストを抑えた新サービスの提案が可能となります。一方、ガソリン車については、地道なオペレーション改善により消費者の不満を低減していく必要があると考えられます。

おわりに

今回、自動車業界における新しい販売手法やサービスに対する消費者の受け入れ意向について、テーマ別に調査結果をご紹介しました。4テーマのいずれについても消費者の意向にはばらつきがあることが分かります。そのため、メーカーや販売店においては、やみくもに新しいサービスを展開するのではなく、国・地域や顧客層のニーズを見極め、メリハリをつけた対応を行う必要があります。

弊社では、自動車領域におけるサービス/システム企画構想支援、開発支援等を行っています。自動車業界の変革に対する打ち手の検討や、取り組みの推進についてお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。

また、詳しい調査結果につきましては、下部のリンクよりダウンロードしてご覧いただけます。 次回のブログでは、「ソフトウェア開発体制の変化」「ITインフラ戦略」および「EV/ICE事業の分社化」の3つのテーマに着目した「クルマ・メーカー編」について紹介します。

「NRI自動車業界レポート2022 消費者編」ダウンロードはこちら

執筆者情報

  • 木下 湧矢

    システムコンサルティング事業本部

  • 笹川 葵生

    システムコンサルティング事業本部

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