フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 イントレプレナーのススメ

イントレプレナーのススメ

ー会社や上司の壁を突破するには、まず自分を変えよう・後編ー

2023/04/12

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

大企業では「新規事業の立ち上げがなかなか進まない」という問題が起きています。この原因として、組織が大きすぎて、スタートアップのように迅速に動くことが難しい、新規事業の立ち上げ経験のある意思決定者がいないなどがよく挙げられますが、それだけが原因であるかは疑問です。私たち自身が向き合うべき本質的な問題は、もっと別のところにあるのではないでしょうか。
そこで本記事では、野村総合研究所(NRI)で「バンクディスプレイ」の事業立上げを担当するコンサルタントの須藤に、大企業の新規事業を立ち上げる際に立ちふさがる壁とその突破方法について話を聞きました。前後編の2回に分けてインタビュー形式でお届けします。前編では、新規事業の企画時に最も重要となる「アイデア着想」についてお話しました。後編は、立ち上げた企画を審議にかけるところでぶつかる「意思決定者の壁」と、事業化する上で問題となりやすい「会社の壁」について取り上げます。

前のページ:イントレプレナーのススメ
ー会社や上司の壁を突破するには、まず自分を変えよう・前編ー

  •   

    広告・マーケティング支援サービスBank Display(バンクディスプレイ)サービスの詳細はこちら

執筆者プロフィール

システムコンサルティング事業本部 DX事業推進部 須藤 大:
大手通信事業者と金融系企業を経てNRIに入社。
前職までは、新規事業立上、コンサルティング営業、サービス企画、業務改革、金融や公官庁向け大規模インフラ構築プロジェクトなど幅広い分野で20年ほど従事。
NRIでの専門は、当社が提唱するDX2.0(ビジネスモデル変革)及び DX3.0(パラダイム変革)を加速するべく、今までにないデジタルサービスの確立や様々なパートナーとの共創を通じた社会課題解決に関する事業推進を当社グループ横断的に担う部門で、全国の地方銀行と地域活性に向けた取組みとした「バンクディスプレイ」事業の立上などに従事。

新規事業立上げを阻む意思決定者の壁

――ここからは企画を審議に通していくフェーズでぶつかる壁についてお聞きしたいと思います。例えばよくある話として、「これだ!」と思った企画がなかなか通らない、上に上げてもいつも潰されてしまうといったことがあると思います。

新規事業は、やったことがないチャレンジとなる内容が含まれるのでリスクを挙げたらキリがないんですね。特に反対意見は言いやすく、突っ込みどころ満載となりがちです。

したがって、企画審議を通しやすくするためには、事業を判断するボードメンバー(意思決定者)の信頼と共感を得る必要があります。企画への共感はもちろんですが、自分自身の信用を得ることも大切です。つまりボードメンバーが自分を応援してくれる応援団になってもらうということですね。

――どうやってボードメンバーの信頼と共感を得ればいいのですか。

ボードメンバーの信頼と共感を審議の場だけで形成するのは難しいです。限られた時間の中で、いきなり白紙の状態から説明しても、内容はまだしも自分を知っていただくことは不可能です。

それを回避するには、ボードメンバー一人一人に直接時間をもらって事前に説明する事だと思います。ただし、すごく多忙な方々ですのでスケジュールを押さえるのも一苦労です。そのため、日ごろから忘れられないようにコミュニケーションを取ることと進捗を上書きするための活動をしておくことが大切だと思います。新事業で何をやっていて、どんな進展があったか、客の反応はどうか などちょっとした挨拶程度の会話でよいのです。

例えば、出張から帰り「バンクディスプレイ事業の出張に行ったお土産です」と直接渡すだけでも話のきっかけとなることがあります。「どうだった?」とか「何してきたの?」と聞かれたら、会話がそこからつながっていくわけです。

――日々の行動の中での関係構築が大切なのですね。

その関係性が築けた上で審議の場に臨むことができると、ボードメンバーから質問があっても、それは単にその事業の疑問を探し出すことではなく、成功に向けて「さらにスケールするためには」、「こういうリスクがあるのではないか」、「こうした方がいい」といった意見になります。

ボードメンバーの方々は、いろいろな経験を蓄積されてきていますので、彼らを自身の応援団にすることで、実のある前向きなフィードバックを得ることができますね。

審議に根回しは必要か

――審議のお話がでましたのでお聞きしたいのですが、時間内でボードメンバーにアイデアを理解してもらうのは難しいと思います。工夫されていることはありますか。

ボードメンバーに新規事業のすべてを理解して頂く必要はありませんが、コアの部分は腹落ちしてもらう必要があると思います。

当然、メンバーによって視点が違うんですね。売上やコストを気にする人もいれば、将来的な展開に関心を持つ人もいます。どういう視点で質問が飛んでくるかは、事前に想定して対策を講じておいたほうがよいでしょう。

その際、先ほど述べたように、事前のコミュニケーションによってボードメンバーの考えが分かると、対策も立てやすくなります。

――要点を絞って、注力することが重要ですね。日本企業では審議前の根回しに多くの時間を要すると聞きますが。

根回しは時間のかかるムダな作業だと言われる方もありますが、私自身は必要だと考えています。

ボードメンバーの意見は、様々な視点が含まれており、重要なヒントを得られることが多いです。お互いの相互理解にも繋がります。根回しはしっかりやるべきだと思っています。

もし根回しのために時間がかかり、企画か進まないということがあるとしたら、情報収集が不十分な可能性がありますね。
または、先ほどの「信頼と共感」がなされてない事で、手前の議論でつまずいているなどもあります。

――それは耳が痛い指摘ですね。

ただし、現実問題としてある程度ご説明しても理解を得られない方がいる場合もあります。
そういった場合は、ソリューションのイメージを明確にしたものをお客様に持ち込み、「この位の金額なら買う」という言葉をお客様から引き出し、それをフィードバックすることで理解を得やすくなるのです。
私の場合、事業立上に重要な活動と考えているためどんな場合でも毎回やっています。Yes/Noが明確に出ますし、今まで見えなかった細部の課題が見つかったりします。
また、ここまで明確にする人も珍しいようでお客様も不思議と協力的になってくれたりします。もちろん未来の顧客になる可能性も高いですね。

大企業の新規事業立上げを阻む会社の壁

――大企業でよくある新規事業立上げ時の課題はありますか。

会社のルールや法務・経理・各リスク等が絡む問題があります。これらのルールは、もともと既存事業に合うように作られており、企業において脈々と受け継がれてきました。ルール自体はかなりしっかりしたものではあるのですが、新事業にはまらないケースもあります。

しかし、それらのルールを変えることは、全社レベルの重大な問題になります。特にまだこれから立ち上げる不確実性の高い新規事業に対して検討することなど、とても無理だとなってしまうわけです。

結果として、新規事業の方を既存ルールにあわせることになってしまうことがよくあります。

――それをうまく回避する策はあるのでしょうか。

そうですね。難しいかもしれませんが、「ルールを変えてでも取りたい」と思えるような魅力的な材料をこちらが持っていることで状況は好転します。

例えば、新規事業の尖った部分を売りに、魅力的なお客様をファーストユーザーとして獲得することで、会社のルールを変更するための強力なカードを手に入れることができます。特に、基礎となる運用費を回収できるほどのビッグなユーザーや、業界最大手の企業、変革のリーダーシップを担う企業などを連れてくる事が望ましいでしょう。

つまり、ビッグユーザーが離れてしまいかねないという状況であれば、意思決定者が「ルールを変えよう」という決断をしやすくなるのです。

言い方が不適切かもしれませんが、「お客様をうまく使う」のです。

――「うまく使う」とは具体的にどうするのですか。お客様に社内を説得してもらうということでしょうか。

いいえ、お客様を連れてきて話をさせるということではありません。お客様の視点から情報収集に協力いただくということです。

お客様には、事業立上げの初期の構想の時点、つまりアイデアが尖った状態で話をしますが、並行して社内で事業化の検討をすすめているわけです。しかし、社内で事業化の検討を進めていく過程で会社のルールに従うことで、丸くなってしまうことがありますよね。

そこで、お客様視点での情報収集を行うことによって、どういう要素であれば利用してもらえるのか、有利なポイントは何かを客観的に示すのです。新規事業であっても、同じようなサービスの話はなにかしらでていますので、競合他社のサービスとのポジショニングを行うことができます。

現在の会社のルールに従うことでアドバンテージが失われるリスクがどれだけあるかをお客様目線で可視化できるのはインパクトがあります。

――お客様目線での情報は、会社のルールを変えるほどの力を持っているということですね。といっても、そこに至るまでのプロセスは大変ですよね。

そうですね。とはいってもいきなりルールを変えることは難しいと思っています。
表現は悪いですが、「暫定的」と言う扱いでさせていただく事が多く、当然システムや体制が準備されているわけではないので手作業でやらなければならなくなる場合もあります。社外のソリューションを使ったとしてもセキュリティや社内規定の問題を考えなければならない。どちらにしても非常に手間がかかります。
ただ、この暫定的なやり方でもリスクが無い事を証明でき、かつ将来のロードマップをえがければ、社内に新しい体制を作り事実上ルールを変えることができます。

また、お客様には、ルールを変えられなかった場合を想定して、常に状況説明はしておく必要もあります。実現できないリスクは当然あるので、その場合は、そう伝えるしかありません。

ただ、四角四面のやり取りをしていると、「この部分はできませんでした」となれば関係性が悪化してしまいます。お客様にはどちらに転んでもよいように幅をもたせた提案をしていた方がよいですね。

大切なのは、単なる仕事のやりとりではなく、「この人とやっていきたい」という関係性が構築できているかです。それができていれば、こうしたリスクを抱えていてもぐらつくことはありません。

――関係性構築は社内外問わず、すべてのベースとなるものなんですね。

新規事業開発担当者に向けたメッセージ

――最後に、この記事を読んでくださった読者の方に向けてメッセージをお願いします。

新規事業につきものなのが「反対意見」です。これは誰でも簡単に言う事が出来るので特に多い意見になります。そのため反対意見に引きずられて混乱する人をよく見ます。
新規事業は突っ込みどころ満載な物と割り切り完璧を求めないことが重要です。
それは、新規事業は立上がゴールではなくスタートであり、そこからが勝負なのです。サービスを利用してもらいお客様から要望や意見・クレームを受け入れることで、少しずつ事業が固まっていくものです・事業開始の前段階で周りの意見に振り回されてガス欠にならないことも大切です。
繰り返しになりますが、私が重要だと思っていることをまとめると
①ボードメンバーや社内に応援団を作る
いろいろな形で助けてくれる応援団は多ければ多いほど良いですが、自然には集まりません。新事業の可能性を理解し、企画者が気づかないような観点で意見や助言してくれる人をほんの数人でもまずは作っていくために、様々なところで積極的に発信していくことが重要だと思います。
②迷ったらお客様に話を聞く
お客様との話の中で、よいキーワードはたくさんでてくるのでそれを利用すればよいですし、何度も何度もディスカッションするうちに、自分の頭もどんどん整理されます。ポイントや課題も自然に抽出されることで、事業の根幹が少しずつ明らかになっていくと思います。
と言うところを意識しながら、枠にとらわれることなくもっと自由な発想で取り組んでみてはいかがでしょうか。

執筆者情報

  • 須藤 大

    システムコンサルティング事業本部 DX事業推進部

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

DXブログの更新情報はFacebook・Twitterでもお知らせしています。

新着コンテンツ