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IT部門における生成AI活用の可能性

2023/08/02

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AIの進化は止まることなく、その影響は私たちの働き方、特に知的労働に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。今回から3回にわたり「生成AIと知的労働」をテーマに考えていきたいと思います。第1回の本記事では、知的労働の一例としてIT部門の業務を取り上げ、生成AIが近い未来にどのように変革する可能性があるかを説明します。

執筆者プロフィール

関西ITコンサルティング部 西野 浩明:
2001年、NRIに入社。15年超のシステム開発経験・プロジェクトマネジメント経験を活かして、ビジネス変革・業務改革を伴うシステム上流工程(構想、計画、システム調達)、インフラ構想(クラウド活用戦略、アーキテクチャーデザイン)、システム開発時のユーザー側活動(要件定義、開発標準化、業務移行、受入テスト)および大規模システムPMOなどのITコンサルティングに従事。

生成AIとの協働による知的労働の高度化

人間の知的労働は非常に複雑なプロセスで形成されており、知的労働を単一のモデルとして捉えることは困難です。今回は、人間の知的労働を着想・仮説構築・実行・評価・改善という5つのフェーズで簡素化した上で、生成AIとの協働によって、近未来における知的労働がどのように高度化するかについてお話しします。

1)着想フェーズ:ブレインストーミング

生成AIとのブレインストーミングを通じて、人間の認知は生成AIにより生み出されるコンテンツによって拡張され、アイデアの選択肢が広がります。生成AIは、人間が記憶できないほどの大量のデータから事前学習するため、生成AIと協働することで人間が見逃しがちな視点を補完したり、人間が思いつかないような新しいアイデアや解決策を見つけられる可能性があります。

2)仮説構築フェーズ:AIとの対話によるビジネス仮説化

生成AIと対話を続けることで、着想フェーズで得たアイデアを更に洗練させ、具体的なビジネス仮説を立案できます。既存のビジネスモデルや社内に蓄積されたノウハウをAIに追加学習させることで、新しいアイデアと既存のビジネスモデルの関連性を解析したり、社内に蓄積されたノウハウを用いてビジネス仮説を具体化することによって、ビジネスの実現性を高めることができます。

3)実行フェーズ:大量かつ高速なプロトタイピング

生成AIは、ビジネス仮説に基づくプロトタイプを大量かつ高速に生成できます。これにより、より多くのフィードバックを迅速にマーケットから得らえるため、ビジネス仮説の検証スピードが向上する可能性があります。

4)評価フェーズ:的確かつ柔軟な意思決定のためのシミュレーション

人間が生成AIと対話することによって、特定の制約条件下でのビジネス定量分析や最適化問題を高速に解くことができたり、的確な意思決定ができる可能性があります。また、意思決定の前にビジネスの潜在リスクを特定し、対策を講じることにより、過去の前例に縛られず、より柔軟な意思決定ができるようになると考えられます。

5)改善フェーズ:知識の蓄積と再利用

人間と生成AIとの協働の過程やその結果のデータを、生成AIの中の集合知として蓄積し、以降の知的労働で再利用することにより、個人に依存しない組織的な仕組みとして知的労働の生産性を高められる可能性があります。

近年の生成AIの進化は驚くべきものであり、2025年には生成AIが生み出すコンテンツはビジネスの実用レベルに達するという調査報告※1があります。例えば、人間の平均を超える品質の文書生成、テキストからほぼ完成したソフトウェアコードの生成、商品デザインやWEBサイトの完成デザインの生成ができるようになると予測されています。企業が今後、人間と生成AIとの協働体制を整えることができれば、近未来の知的労働のQCD(品質、コスト、納期)は大幅に向上すると考えられます。

IT部門における生成AI活用とその可能性

生成AIとの協働が期待される一例として、IT部門の知的労働を企画、要件定義、設計開発、テスト、運用という5つのフェーズに簡素化した上で、近未来におけるIT部門の知的労働の高度化の可能性について説明します。

1)企画

新しいデジタルサービスの戦略や計画を策定する企画フェーズでは、生成AIと協働することで、社内の複数のアイデアを組み合わせた新たなデジタルサービスのコンセプトを生成したり、競合となり得る複数のサービスの内容をWebで巡回調査・整理した上で新しいデジタルサービスの差別化ポイントを特定することが可能です。

2)要件定義

新しいデジタルサービスの要件を明確にする要件定義フェーズでは、生成AIと協働することで、要件定義すべき事項の一覧化やその定義内容案の提示、システム構成図やフローチャートなどで要件定義した内容を可視化できます。

3)設計開発

定義した要件に基づいてデジタルサービスの構築を行う設計開発フェーズでは、生成AIと協働することで、手書きのスケッチや画像からHTMLを生成したり、自然言語による指示やシステム設計書からソフトウェアコードを生成することも可能です。近年、ソフトウェアコード生成やコードレビューを行う商用AIツールがリリースされており、設計開発フェーズは短期的に生産性を向上できる可能性の高い領域となっています。

4)テスト

デジタルサービスがシステム要件を満たしているかを評価するテストフェーズでは、生成AIと協働することで、システム要件に基づいた網羅的なテストの実施やテスト結果の分析、検知したソフトウェアバグの内容分析とソフトウェアコードの改修案を生成できる可能性があります。近年、単体テストの自動化のためのテストスクリプトの自動生成や自動修復、連結テストのケース自動作成を行うAIツールが出てきており、テストフェーズもまた短期的に生産性を向上できる可能性の高い領域といえます。

5)運用

デジタルサービスを安全かつ確実に提供するためのバックオフィス業務やシステム監視を行う運用フェーズでは、生成AIと協働することで、ユーザーからのフィードバックに基づいたFAQを大量かつ高速に生成できます。さらに、デジタルサービスのシステムパフォーマンスの低下やセキュリティの脅威を予知し、アラートを生成することも可能です。

IT部門における生成AI活用の実証実験

NRIでは、生成AIと協働することで、現時点でIT部門の知的労働をどこまで進化させられるかについての実証実験を行いました。具体的には、新たに企業のECサイトを構築するという想定で、ChatGPTと協働しながら要件定義を行いました。
まず、ChatGPTにシステム構成図の作成を依頼しました。システム構成図の作成方法をChatGPTに学習させ、システム構成図の要件をChatGPTに伝えることで、HTMLを用いたシステム構成図を生成することが可能になりました。次に取り組んだのは、システム機能要件の一覧作成です。これもChatGPTの力を借りて、機能の抜け漏れをチェックし、機能概要の案を生成しています。これにより、手作業で一つ一つ機能をリストアップする必要がなくなり、時間を大幅に削減できました。
ChatGPTと協働した結果、要件定義フェーズにおいて約39%の時間削減効果がありました。例えば、新たなECシステムの目的やシステム要件の定義については、人間とChatGPTが協働することで約43%の時間削減効果を得ています。同様に、システム概要説明、プロジェクト体制図の作成、スケジュールの作成についても約33%の時間削減効果を実現しました。

また、時間の節約だけでなく、新システムの目指す方向性や要件一覧を書き出す作業において、ChatGPTと壁打ちを行うことで定性的な品質向上の効果も実感しました。つまり、AIとの協働は単なる作業の効率化だけでなく、作成される要件定義の品質向上にも貢献することが明らかとなりました。
この検証結果は、生成AIとの協働によってもたらされる知的労働の生産性向上の可能性を示しています。要件定義だけでなく、その他の工程においても、生成AIと協働することでIT部門の知的労働のQCDも大幅に向上できるでしょう。

まとめ

今回は、生成AIが近い未来の知的労働、特にIT部門の知的労働をどのように変革する可能性があるかを説明しました。
生成AIは、新たなアイデアや問題の解決策を生成し、複雑な問題解決のためのシミュレーション行い、大量のプロトタイプを高速に生成できます。そして、意思決定のための材料を提供し、個々の知識を組織の知識として蓄積・再利用することが可能です。これにより、私たちの知的労働は格段に加速します。
しかし、私たちはまだ生成AIのすべての能力を引き出せているわけではありません。今後、私たちの働き方や組織運営は生成AIとの協働を加速させることで大きく変化していくでしょう。それがどのような形であれ、生成AIとの協働・共創がもたらす新しい未来は希望に満ちているのではないでしょうか。この新しい変革の波を逃さないように、一緒にその可能性を追求していきましょう。
次回は、生成AIとの協働により知的労働が持続的に進化している状態=“AIネイティブ”に近づくための企業としての備えについてお伝えします。

AIネイティブ企業への道(ITの備え編)

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