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EV市場拡大のカギを握る商用EV

-NRI 自動車業界レポート 2023-

2023/12/14

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自動車業界は今、大きな変革の渦中にあり、EV、自動運転などのテクノロジーが業界に新たな波をもたらしています。この領域では、既に海外で多くのプロジェクトや先行サービスが進行中であり、サービスの現状や課題、今後の取り組みが非常に注目されています。
そこで、今回は、そうした海外先行で注目されるテーマとして、「商用EV」、「ロボタクシー」、「SDV」について3回に分けて解説していきます。第1回目は、商用EVに焦点を当てます。この記事では、商用EVの注目される背景やビジネスへの影響、課題について説明します。また、未来の展望にも触れ、商用EVがEV市場にもたらす変化に迫ります。

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執筆者プロフィール

システムコンサルティング事業本部 木下 湧矢:
2020年にNRIに入社。入社以来、製造業のデータ連携基盤の構想と効果検証、およびITマネジメント領域の支援業務に従事。現在は主にデジタル・IT戦略の構想支援に取り組む。

はじめに

こんにちは。野村総合研究所システムコンサルティング事業本部の木下です。
近年、世界的に商⽤EV(電気自動車)の販売台数が増加し続けており、商用車市場でのシェアを伸ばしています。
今回は商用EVに焦点を当て、トレンド、課題、今後の展望について解説します。

商用EV市場の急速な拡大

2022年、⼩型商⽤⾞の世界販売台数は10%以上減少しましたが、小型商用EVの世界販売台数は前年比2倍の約31万台に増え、小型商用車市場におけるEVのシェアは大きく拡大しました(図1)。アジアではその傾向が強く、特に韓国や中国の⼩型商⽤車市場では高い販売シェア(韓国:27%、中国:15%)を示しています。

図1:⼩型商⽤EVの販売台数と販売シェアの推移

出所)IEA Global EV OutlookよりNRI作成
※販売台数はBEVとPHEVの合計値

日本でも、2021年の内閣府や経済産業省によるグリーン成長戦略において、8t以下の小型の車両に関して、「2030年までに、新車販売で電動車20~30%、2040年までに、新車販売で、電動車と合成燃料等の脱炭素燃料の利用に適した車両で合わせて100%」を目指すという目標が掲げられました。さらに8t越えの車両についても、「2020年代に5,000台の先行導入」を目指すとの方針が示されています。こうした政策の後押しを受け、国内でも商用車のEV化が加速すると思われます。
国内関連各社の動向からもその傾向が見て取れます。佐川急便は2021年4月にEVの導入を明らかにしており、2030年までにはすべての軽自動車の配送車両をEV化する方針を掲げています。またヤマト運輸は2023年6月から、本田技研工業が2024年春に発売を予定している新型軽商用EVの集配業務における実用性の検証を進めています。このように、運輸業界をはじめとした各社が商用車のEV化を進めていることがわかります。

商用EV市場拡大の要因:EVの3つの特徴

商用EV市場が拡大している大きな要因として、EVが持つ3つの特徴があると考えられます。

①ドライバーの快適性・利便性の高さ

EVの特徴として、ドライバーの快適性や利便性の高さが挙げられます。商用車は乗用車に比べて日常的に長時間、長距離を走行することが多いため、ドライバーの運転時の快適性・利便性は、事業者が車両を導入する際の大きな理由の一つになるといえます。
例えば、EVの電気モーターは内燃エンジンに比べて非常に静かで振動も少ないです。長時間の運転が求められる商用車のドライバーにとって、この静粛性は疲労の軽減をもたらします。また電気モーターは低速から即時に高トルクを提供することができるため、重い荷物を積んだ商用車であってもスムーズな発進や加速を実現します。さらに多くのEVではシングルペダル運転が可能であるため、特に都市部での頻繁な停止や発進が楽になります。実際にタイで普及しているEVトゥクトゥクでは、電気モーター駆動ならではの発進時や追越し時の加速性、登坂性の良さが高く評価されています。

②充電・メンテナンスのしやすさ

商用車は決まったルートを走行するため、乗用車に比べて充電ステーションは少なくてすみます。乗用車の場合、至るところに設置しなければなりませんが、商用車の場合は停留所や集配所、配車センター周辺などの特定の場所に充電設備を設けることで十分対応できます。
加えて、商用EVは車種が限られているため、メンテナンスの対応を企業や組織全体で統一できることも利点となります。
こうした商用EV特有の充電ステーションの設置や車両のメンテナンスのしやすさが、事業者から選定される理由の一つとなり、EV化が進んでいるといえます。

③カーボンニュートラルへの貢献

自社の商用車をEV化することで、社会的関心が高まる脱炭素やESG(Environment, Social, Governance)への取り組みを社会に効果的にアピールすることができます。企業は多くの車両を保有しているため、商用車をEV化することは、社会に大きなインパクトを与えます。このような取り組みにより、資金調達や顧客との関係構築・強化が容易になる可能性があります。また国内の場合、経済産業省、国土交通省、環境省が補助金制度として「商用車の電動化促進事業」の公募を始めており、こうした取り組みも企業のEV導入を後押ししています。

航続距離・積載量が課題

一方で、EVの航続距離や積載量に関する課題は未だ残されています。まずEVには航続距離が短いという課題があります。例えば、ディーゼル2tトラックとEV2tトラックの1回のエネルギー補充に対する航続距離を比較したところ、EVはディーゼル車に比べて1/7程度しかないことがわかっています(図2)。

図2:ディーゼル車とEVの航続距離の比較(2tトラック)

出所)公知情報よりNRI作成
※国内トラックメーカー2社の主要製品の参考値を比較

航続距離が短いという課題に対しては大容量の電池を搭載することが解決策になりうると考えられますが、電池の容量を大きくしても、単純にそれだけ積載量が増えるというわけではありません。図3にA社EVトラックの搭載電池容量と積載量の関係を示しています。例えば、トラックの大きさに合わせて搭載する電池容量を2.7倍にしても、積載量は1.7倍にしかならないことがわかります。つまり航続距離を長くしようと大容量の電池を搭載してしまうと、その分、本来積むことができたトラックの積み荷を減らさなければならないという課題もあります。

図3:搭載電池容量と積載量の関係(A社EVトラックの場合)

出所)公知情報よりNRI作成

こうした課題を克服するための先進技術が多く研究されています。例えば着脱交換式電池は、どこでも充電できる仕組みを実現し、長距離の輸送を可能にする技術として注目されています。また全固体電池のような小型の次世代高性能電池の開発も進んでおり、実用化されれば一度の充電で走行できる距離を大幅に伸ばすことも可能となります。さらに走行中充電システム(ERS)は、走行中に車外から給電をすることでEVに搭載する電池の容量を最小化しつつ航続距離を伸ばすことができます。

大手自動車メーカーと地場事業者の連携により、市場拡大はさらに加速

こうした技術革新を背景に、今後の将来展望として以下の段階的なシナリオ展開が考えられます。

地場事業者の参入により、EVの車両だけではなく関連市場が活性化

顧客と地域の状況を理解する地場の事業者が、特に充電やメンテナンスのサービスを皮切りにEV関連市場に参入しはじめることで、EVの車両だけではなくEV市場全体が活性化していくことが考えられます。
例えば、タイのEnergy Absoluteは、アジア系(台湾、中国系)企業からの技術供与を受けながら、バッテリー製造からEV組み立て、充電ステーション供給に至るまで、EVバスの全バリューチェーンで国内最大のプレーヤーになることを目指しています(図4)。また中国の充電サービス運営企業であるYKC社は、多くの自動車メーカーと提携しつつ運輸事業者や充電設備運営事業者に対するサービスの幅を拡大しており、業績を伸ばしています。
このような地場の事業者の参入が、各国のEV市場をさらに活性化していくと考えられます。

図4:Energy Absoluteの電動バス関連事業

出所)ヒアリング調査、新聞報道よりNRIタイ作成

大手自動車メーカーと地場事業者の連携が進み、先進技術の実用化が加速され市場が拡大

地場の事業者の参入を受けて、大手自動車メーカーも車両だけではなく、EVバリューチェーン全体での収益拡大を狙い、先進技術の開発やサービス展開を進めています。しかしながら、先進技術や新サービスを実現するためには各地域で実証実験を行う必要があります。そこで重要になるのが、その地域の顧客ニーズやインフラを理解している地場の事業者との連携です。つまり、大手自動車メーカーと地場の事業者の協力は、以下のように双方にメリットがあります。このような動きが、商用EV市場のさらなる拡大につながっていくと考えられます。

  • ① 

    大手自動車メーカーは、地場の事業者に積極的に先進技術を供与し、各地で技術検証を行う機会を得る。その結果、EVの関連領域も含めてサービスの幅を広げていき、EVバリューチェーンを拡大していく。

  • ② 

    地場の事業者は、大手自動車メーカーから技術供与を受けながら地域の顧客ニーズやインフラの知見を提供することで、地域の特性に合わせたサービスの提供と収益確保を進めていく。

おわりに

今回、商用EVの現状と今後の展望についてご紹介しました。今後は技術を持つ大手自動車メーカーと地域に密着する地場事業者が連携していくことで、先進技術の開発とサービスの実用化が進展するという好循環が生まれ、商用EV市場が拡大していくと考えられます。実際に、大手自動車メーカーと地場事業者の連携事例は少しずつ増えており、今後は国内・国外に関わらずこのような連携事例がさらに増えるでしょう。

また商用EV市場が活性化していくことで、EVを体験したことのない一般消費者が交通機関としてEVに乗車したり、街中でEVを見かけたりと、自然とEVに触れる機会が増えていきます。これにより、多くの消費者がEVとは何かを知り、乗用車としてもEVを購入することへの抵抗がなくなっていくことで、乗用EVの販売台数も増えていき、最終的にはEV市場全体の拡大につながっていくと考えられます。

弊社では、自動車領域におけるサービス/システム企画構想支援、開発支援等を行っています。自動車業界の変革に対する打ち手の検討や、取り組みの推進についてお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。
また、詳細なレポートにつきましては、下記よりダウンロードしてご覧いただけます。次回の記事では、「ロボタクシー商用化が導く新たな可能性」について紹介します。

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執筆者情報

  • 木下 湧矢

    システムコンサルティング事業本部

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