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ロボタクシー商用化が導く新たな可能性

-NRI 自動車業界レポート 2023-

2023/12/19

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変革の渦中にある自動車業界。本連載企画では、海外で先行サービスが進行中の、特に注目度の高いテーマを取り上げ、3回に分けてお届けしています。第1回目の記事では、商用EVに焦点を当て、その背景やビジネスへの影響、課題について詳しく解説しました。
今回の記事では、「ロボタクシー」に焦点を移し、この新たな分野の動向と未来展望について掘り下げます。急速に進化する米国や中国のロボタクシー市場に焦点をあて、現在の事業展開や課題について解説します。さらに、サービスの収益性についても掘り下げ、未来の交通サービスに対する展望を提供します。

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執筆者プロフィール

システムコンサルティング事業本部 笹川 葵生:
2021年NRIに入社。主に自動車領域で、サービス/システムの企画構想支援、システム開発のPMO、IT人財育成支援などのコンサルティング業務に従事。

システムコンサルティング事業本部 橋本 実奈:
2022年NRIに入社。自動車業界の戦略策定支援、システム企画構想支援などのコンサルティング業務に従事。

はじめに

こんにちは。野村総合研究所システムコンサルティング事業本部の笹川、橋本です。私たちは、主に自動車領域におけるサービス/システム企画構想支援、開発支援の活動を行っています。

近年、欧米や中国を中心に、自動運転技術の開発や自動運転車の普及に向けた法整備が進められています。自動運転の普及を牽引するひとつの分野が、ロボタクシーサービスです。ロボタクシーとは、自動運転レベル4以上の技術を用いた、ドライバー不要で運行可能なタクシーのことです。

一般的なロボタクシーサービスでは、利用者はまずアプリで目的地の設定と配車予約を行います。タクシーが到着したら、アプリで認証して乗車します。乗車後、ロボタクシーは交通状況を見ながら最適な経路を選択し、利用者を安全かつ迅速に目的地へ運びます。支払いもアプリ経由で行えるため、人の手を介さずにサービスを利用することが可能です。

ロボタクシーは、そのサービスが展開される地域・コミュニティにおいて、交通安全の確保、住民の生活向上、環境汚染の改善に役立つ可能性を秘めています。今回は、そのようなロボタクシーサービスの商用化を開始した海外の一部の都市の先進事例を踏まえて、ロボタクシーサービスが今後どのように発展していくかを見てみましょう。

ロボタクシーサービスの商用化の状況

ロボタクシーサービスの商用化でとりわけ先行しているのが、米国と中国です。
米国では、Waymoが2018年にアリゾナ州フェニックスで世界初の商用ロボタクシーサービスを開始しました。その後、Cruiseも参入し、同地域やカリフォルニア州サンフランシスコを中心にサービスが展開されています。利用可能なエリアや時間帯には制限がありますが、アプリに登録すれば誰でもサービスを利用することができます。また、中国でも、2022年に百度が中国初の完全自動運転の商用ロボタクシーサービスを開始しています。

ロボタクシーサービスの商用化が進んでいる背景として、技術進歩と規制緩和が挙げられます。
ロボタクシー事業者は実際の走行データを収集し、それを分析することで、自動運転技術を進歩させ、安全性を向上させています。しかし、各国の交通法規では、車は人間が運転するよう定められているため、事業者がロボタクシーを公道で走行させるためには規制緩和が必要になります。都市部の自治体を中心に、交通渋滞や排気ガスによる環境汚染等の社会問題に対する解決策としてロボタクシーサービスが注目されており、一部の自治体では、安全性を評価した上でロボタクシー事業者に対して個別に走行ライセンスを付与し始めています。自治体が認可を出す際には、ロボタクシーが安全に走行できる道路条件、地理条件、環境条件等を定めた「運行設計領域」(ODD : Operational Design Domain)や、事故時の責任の所在を規定しています。このような規制緩和によって、ロボタクシー事業者はより多くの走行データを収集し、分析することができるため、さらなる自動運転技術の高度化と安全性の向上を図ることができます。そして、安全性の向上に伴い、自治体が認可を出す走行条件も緩和されるといった好循環が生まれます。

日本では、2023年4月に施行された改正道路交通法により、「レベル4」での自動運転が解禁されました。これを受け、同年5月から、福井県永平寺町で日本初のレベル4での自動運転移動サービス「ZEN drive」が開始されました。また、2026年初頭には、Honda、GM、GM Cruiseの合弁会社が東京でロボタクシーサービスを開始する予定となっており、日本でもロボタクシーサービスを利用できる日は近づいています。

サービス拡大の課題と将来展望

新交通サービスとして期待されているロボタクシーサービスですが、収益力に課題を抱える事業者も少なくありません。実際、米国のArgo AIは事業停止、中国のPony.aiは従業員の1割を解雇するなど、一部のロボタクシー事業者では事業の存続が危ぶまれています。この原因は、現時点では事業継続・成長に必要な収益が十分に確保できていないためです。

そこで、ここでは収益性の観点からロボタクシーサービスをみてみましょう。

ロボタクシーはドライバー費用が不要であるため、大幅にコストを下げられるメリットがあります。しかし現在は、監視員の人件費や高額な自動運転車の導入費用がかかるため、このメリットを十分に享受できていません。
現在、自動運転レベル4の技術は発展途上にあり、多くの国や地域では監視員の配置が義務付けられています。例えば日本の道路交通法では、遠隔監視装置と遠隔監視員を必ず配置することが定められています。そのため、既存のタクシーサービスに比べて監視員の人件費が追加で必要となります。加えて、自動運転車の価格は一般的に数千万円と高額であるため、車両償却・維持費も大きくなります。したがって、ロボタクシーがコストメリットを享受し既存のタクシーと同等以上の収益を出すためには、これらのコスト増をドライバーの人件費削減効果より低く抑える必要があります(下図)。

現在、一部のロボタクシー事業者は資金繰りに苦しんでいますが、将来的にはコストの低減と収益の拡大が期待されます。
コスト低減に関しては、監視システムの進化によって監視員の人件費が減少することが期待されます。2023年にはソフトバンクが遠隔監視システムの実証実験を行い、1人で10台の自動運転車を監視することに成功しています。さらに、リチウム採取量の増加と精製能力の強化によりバッテリーの価格が低下していることに加え、自動運転システムはロボタクシーサービスの拡大によって一台当たりの研究費を抑えることができるため、今後自動運転車の価格は下がっていく見込みです。実際に百度では、2022年に自動運転車の価格を約500万円まで下げることに成功しています。
収益拡大に関しては、Waymoがロボタクシーで広告主の店舗へ送客し、運賃は広告主が支払うというサービスを付加した、新しい広告ビジネスを検証中です。また、後述のようなロボタクシーの独自の利点を活かした付加価値の提供による顧客単価の増加も期待されます。

これらの要因により、ロボタクシー事業者は将来的に既存タクシーと競争できる収益力をつけるでしょう。また、2030年に向けては、Cruiseは100万台の自動運転車の稼働、百度は100都市へのサービス展開を目指しており、各社で大きな展望が描かれています。

新たな市場を切り開くロボタクシーの可能性

ロボタクシーは今後どのように発展していくのでしょうか。
将来的に運用コストが低下すれば、ロボタクシーサービスはバスやタクシーなど従来の交通サービスでは採算が取れなかった地域で新たな市場を創出する可能性があります。具体的には、交通が不便な地域で住民の足となるためのロボタクシーサービス、人手不足などによってサービスが提供されていない地域でのロボタクシーによる商品配送サービスなどが挙げられます。
また、ロボタクシーは独自の利点を活かし、既存タクシーにはない新たな価値を提供すると考えられます。ここでは、2つの観点から紹介します。
1つ目は利用空間の拡張です。ロボタクシーは、運転席やハンドルが不要となるため、利用空間を広げることができます。このスペースを有効活用することで、乗車人数を増やせるだけでなく、座席配置や車内サービスの拡充が可能になります。実際に、 Honda、GM、GM Cruiseの3社で共同開発中の自動運転車「Cruise Origin」は、運転席がなく座席が向かい合わせになっており、最大6名が乗車可能です。ドアの大きさは平均的な車の3倍で、車椅子やベビーカーを利用している人にとって、非常に便利な設計になっています。さらに、配達用のロッカーも搭載することができ、商品配送サービスへの活用も可能です。このように、広がった空間の利活用によって快適性や利便性の向上を図り、顧客体験を向上させることができるでしょう。
2つ目はプライベート空間の提供です。ロボタクシーは、ドライバーがいないため車内がプライベート空間となり、乗客はよりリラックスして過ごすことができるようになります。また、ドライバーとのコミュニケーショントラブルや犯罪のリスクに不安を感じる乗客に対し安心感を与えることができるという側面もあります。これらの点を生かし、 社内のエンタメサービスの充実やロボタクシーによる子供の送迎サービスなどが実現できるでしょう。

さいごに

このように、ロボタクシーは交通の在り方を大きく変える可能性があります。今後、ロボタクシー事業者は十分な収益力をつけサービス規模を拡大させながら、ロボタクシー独自の利点を活かし、新たな市場と価値を創出するでしょう。ロボタクシーが私たちの暮らしや移動手段に大きな変革をもたらしてくれる日は着実に近づいてきています。

弊社では、自動車領域におけるサービス/システム企画構想支援、開発支援等を行っています。自動車業界の変革に対する打ち手の検討や、取り組みの推進についてお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。
また、詳細なレポートにつきましては、下記よりダウンロードしてご覧いただけます。次回の記事では、SDV(Software Defined Vehicle)が実現する未来について紹介します。

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執筆者情報

  • 笹川 葵生

    システムコンサルティング事業本部

  • 橋本 実奈

    システムコンサルティング事業本部

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