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ECBの9月理事会のAccounts-Concerns for growth

2024/10/11

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はじめに

25bpの利下げを決定したECBの9月理事会では、2025年後半にかけてのインフレ目標の達成に確信が共有された一方、景気の先行きに対する懸念がより明確になった。

経済情勢の評価

理事会メンバーは、Eurostatによる統計改訂の影響もあって、足元の経済活動が前回(6月)見通しより弱いとの見方を共有した。

なかでも、個人消費はマインドの好転にも拘わらず弱く、背後で、地政学リスクや財政政策と政治情勢の不透明性、人口動態等によって貯蓄率が上昇した点に懸念を示した。さらに、低金利環境後の金利上昇が貯蓄の金利感応度を高めた可能性や、時間的ラグのあるモーゲージ金利の上昇に備えた予備的な貯蓄の可能性も指摘された。

加えて、設備投資の弱さにも懸念を示し、金融環境のタイトさや上記の不確実性等を要因として指摘したほか、企業収益が減速し、手元資金も減少しつつあるとの指摘もなされた。今後の生産性上昇についても、設備稼働率の循環的な改善によるものと指摘し、構造的な上昇がなければ、潜在成長率の低下と、ユニットレーバーコストや物価の上昇につながるとの懸念を示した。

この間、域内の経済成長の違いも取り上げられ、製造業に依存する一部国で減速が目立つ一方、他の国々は堅調と評価した。また、域内最大国(ドイツ)では構造問題も重要との指摘もあった。成長率の停滞に関しては、欧州委員会の体制移行の下で各国の財政政策に不透明性がある点や、財政拡張の見通しが貯蓄を押し上げている可能性(Ricardian効果)も指摘された。

これらの議論を踏まえて理事会メンバーは、経済見通しのリスクが引続き下方に傾いていると評価し、要因として、海外経済の減速や貿易摩擦による外需の低迷、地政学リスクによる家計や企業のマインドの悪化、金融引締め効果の時間的ラグを挙げた。

物価情勢の評価

理事会メンバーは、インフレ率の減速、賃金上昇率とユニットレーバーコストの増加率の減速、企業収益によるコスト吸収を踏まえ、2025年後半にかけての物価目標の達成に自信を深めた。

もっとも、インフレ率の減速は主としてエネルギー価格によるものであり、サービスのインフレ率は減速していない点を確認したほか、今後のインフレ目標の達成が生産性の上昇にも依存している点に懸念を示した。

この間、インフレ率の減速が想定以上である中で、エネルギー価格の下落やユーロ高を考慮すると、インフレ目標を下回る可能性も無視しできないとの指摘がみられた。一方で、エネルギー価格が不安定な下では、総合インフレ率は中期の物価上昇圧力を反映しておらず、執行部がコアインフレ率見通しを上方修正するなど、インフレとの闘いにまだ勝利していないとの指摘もあった。

サービス価格の先行きについては、広範な人手不足や家計の娯楽への嗜好の変化といった構造要因によって、粘着性を指摘する向きがあった。また、工業製品のインフレ率も、コロナ前のトレンドは1%だったが、経済活動の分断や供給制約による上昇圧力を受ける可能性が指摘された。

その上で、サービスのインフレ動向には賃金動向が重要である点を確認し、賃金上昇率は減速しているが、依然として高くかつ不安定であるほか、先行指標は上昇を続けていると指摘した。

このため、生産性の上昇が停滞し、企業によるコスト吸収が縮小する下で賃金上昇が想定ほど減速しないとの見方が示された一方、広範な指標が賃金上昇率の減速を示しており、インフレの減速に伴って契約賃金の上昇率も抑制されるとの見方も示された。

理事会メンバーは、金融市場のインフレ期待が明確に低下した点を確認し、景気とインフレ率の減速や米国からの影響を指摘した。また、短期のインフレスワップが2%以下のインフレ期待を示唆している点が負のリスクプレミアムによる可能性も指摘された。

これらの議論を踏まえて、インフレには、賃金や企業収益の想定以上の増加、地政学リスク、異常気象による上方リスクがある一方、想定以上の金融引締め効果や海外経済の減速による下方リスクがあると整理した。

金融政策の運営

理事会メンバーは、政策反応関数の3つの要素を順次検討した。まず、インフレ見通しに関しては、2024年の後半にはエネルギー価格の水準効果によってインフレ率が上昇するが、その後は2025年後半にかけて目標に収斂するとの考えを確認した。

次に、インフレ基調に関しては、広範な指標が前回(6月)時点と不変である点を確認した。その上で、賃金上昇を主因にコアインフレが高止まっている点や生産性の上昇が停滞している点に懸念を示した。もっとも、サービス価格のモメンタムは緩やかに低下し、過去のインフレに対する賃金上昇の追随も進捗するなど、賃金と物価のスパイラルの兆候はないとの指摘もあった。

最後に、政策効果の波及については、既往の引締め効果が金融環境のタイト化を通じて、経済活動を抑制し続けていることを確認した。今後についても、家計や企業の手許資金が縮小していく中で、借入コストの効果が強まったり、銀行の信用コストが上昇したりする可能性が指摘された。一方で、波及効果が出尽くすことで、消費や設備投資を下支えするとの見方もあった。

これらの議論を踏まえて、理事会メンバーは、金融引締めの度合いをもう一段緩和することが適当との判断に基づき、執行部による25bp利下げの提案を全会一致で支持した。併せて、景気の先行きに対する懸念と見通しに関する不確実性を共有した。

今後の政策運営については、インフレ目標の達成に向けて十分に引締め的なスタンスを必要な限り維持する方針を確認したほか、必要な引締め度合いは、今後のデータの全体像による中期的なインフレ見通しへの意味合いに依存することも確認した。

その上で、利下げペースにはコミットしないとしつつも、幅広い(broadly)メンバーは、経済が見通し通しに推移した場合、金融引締めの解除を緩やかに進めるべきとの考えに合意した。加えて、今後の政策運営には上下双方のリスクがあり、リスクマネジメントの視点が重要と指摘した。なお、市場との対話の面では、今後は預金ファシリティ金利を通じて政策スタンスを示すことを明示すべきとした。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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