FRBのパウエル議長の記者会見-Potential impacts
はじめに
FRBは今回(11月)のFOMCで25bpの利下げを決めた。パウエル議長は、米国経済が力強く推移している点を確認し、インフレが目標に向けて収斂する一方、利下げにより労働市場の強さを維持しうるとの自信を維持した。もっとも、質疑応答では大統領選挙の結果を踏まえた質問が多く示された。
経済情勢の評価
パウエル議長は、消費の強さに加えて設備投資も回復するなど、第3四半期の経済成長も前期(実質GDP成長率は+2.8%)並みの強さになるとの見方を示した。
この間、労働市場では雇用増のペースが減速したが、一部のストライキやハリケーンの影響がなければより強かったとの理解を示したほか、失業率も昨年より明確に高いが低位にある点を確認した。これらを踏まえ、労働市場は以前の過熱状態からは減速したが依然として強いと評価した。
質疑応答では、大統領選挙の結果を意識し、地方のCEOや地域金融機関にとって経済の見方が異なるのではないかとの指摘があった。パウエル議長は地区連銀経由で収集した情報等によれば、地域経済でも景気見通しは総じて前向きである一方、地政学的リスクも含めて不確実性は意識されていると説明した。
また、パウエル議長がジャクソンホールでこれ以上の労働市場の悪化を望まないと発言したことを踏まえて、この点に関する考えを再度質す向きも見られた。パウエル議長は、そうした考えに変化がない点を確認し、労働市場の安定を維持しつつインフレの抑制が可能との自信を示した。
物価情勢の評価
パウエル議長は、インフレ率が2%目標にかなり近づいたとしつつも、コアインフレ率がなお高い点を確認した。また、家計や企業、金融市場のインフレ期待は安定しているほか、労働市場は2019年時点よりタイトではなく、賃金上昇率も減速したとして、労働市場はもはやインフレ圧力の主因ではなくなったと評価した。
質疑応答では、今回の声明文では前回(9月)にあった「FOMCはインフレの2%目標に向けた持続的な動きに対する自信を深めた」との表現が削除されたことの趣旨が取り上げられた。
パウエル議長は、この表現は利下げ開始の趣旨を明示するためのものであったのでもはや不要となったが、FOMCとしてインフレ目標の達成に向けた自信が増していること自体には変わりがないと説明した。
別の記者がコアインフレの高止まりを取り上げたのに対しては、 パウエル議長は物価のバスケットの8割は2020年の水準に戻ったと指摘した一方、残りの家賃は契約更新の時間的ラグのために減速に時間を要するとの見方を示した。
さらに、複数の記者が、大統領選挙の結果を踏まえ、国民は物価の高騰に悩まされているのではないかとの指摘や、物価の引下げのために平均インフレ目標を採用し、インフレ率の2%目標からのundershootを容認してはどうかとの指摘もなされた。
パウエル議長は、物価高騰が国民の生活に影響している点を認めつつも、インフレの減速によって時間とともに実質賃金上昇の恩恵を受けると説明した。また、平均インフレ目標については、低インフレにも問題が多いと指摘し、FOMCが採用する枠組みではないと説明した。
金融政策の運営
今回のFOMCは、FFレートの誘導目標を従来の4.75~5%から4.5~4.75%へと25bp引き下げた。
パウエル議長は、政策金利の調整(recalibrate)によって、労働市場や経済活動の強さを維持しつつ、インフレの目標への収斂を達成できるとの考えを確認した。併せて、dual mandateの達成に向けたリスクは概ねバランスしているとの評価を維持した。
その上で、パウエル議長は、迅速すぎる利下げがインフレに与える影響と遅すぎる利下げが経済や雇用に与える影響の双方を意識している点を確認し、今後も、経済指標や経済と物価の見通しの推移、リスクバランスをもとに政策運営を各会合で議論して決定する方針を確認した。
質疑応答では、多くの記者が大統領選挙後に米国債利回りが上昇した点について、その理由や影響について質した。
パウエル議長は、1年前より米国債利回りが高い点を確認した上で、金融政策は緩和方向でインフレも減速していると指摘し、経済見通しの好転が関係している可能性を指摘した。その上で、新政権の財政運営にはコメントしないとし、財政運営が具体化すれば経済見通しへの影響を考慮するが、実際に影響が発現するには、法制面の対応等のために時間を要すると説明した。
また、別の記者は、ボルカー議長やグリーンスパン議長のように、 FRBとして財政拡張に対してより明確な懸念を示すべきと指摘した。これに対し、パウエル議長は、FRBとしては従来と同様に財政は長い目で見て持続的でないと考えていると説明した。
さらに、先にみた声明文の修正は、新政権による経済政策の不確実性を意識したものかとの問いに対しては、パウエル議長はこれを否定し、経済や物価には多様なリスクが残ると説明した。
一方で、別の複数の記者は、景気が強い点やコアインフレが高止まっている点を挙げて、利下げの継続の合理性に疑問を示した。パウエル議長は、現時点で金融政策はなお引締め的である点を確認し、インフレ目標の達成にむけて労働市場の更なる減速は不要との考えを確認した。
これらの点を踏まえ、次回(12月)のFOMCについてパウエル議長は、大統領選挙の結果は短期的には影響を与えないとの考えを強調した。その上で、経済活動が強くインフレが減速するという好条件の下にあることを認めつつ、今後も経済指標や経済と物価の見通しの推移、リスクバランスを検討して新たな見通しSEPを策定するとして、政策決定の具体的な言及を避けた。
もっとも、中立金利に向けた金融引締めの調整を行う方針には変わりがないことを確認したほか、中立水準への到達を急ぐ必要はなく、かつ中立水準に接近する際には政策金利の変更度合いを、量的引締めの運営と同じく調整(減速)することを検討し始めていると説明した。
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