中国の最近の住宅在庫の処理策について
中国政府による不動産市場の安定化策の一つは、住宅在庫の処理・活性化である。
5月中旬、人民銀行、国家金融監督管理総局、住宅都市農村建設省などが関連政策を発表した。
地方都市の政府が地方の国有企業を組織して住宅在庫(既に建設された既存の商品住宅)の一部を不動産開発業者から購入させ、保障性住宅(中低所得層の住宅難の家庭向けの低価格・家賃の住宅)として利用することで、既存住宅の在庫消化を図る。
人民銀行は、3,000億元の「保障性住宅再貸出」を実施する。人民銀行が金融機関(全国展開する21銀行)に低金利で資金を提供し、銀行側が地方都市の政府が選んだ地方国有企業向け貸出を実施する。これらの企業はこの資金で建設済・未販売の商品住宅を購入し、保障性住宅として用いる。再貸出は、銀行貸出の60%分を支援することから、5,000億元の銀行貸出を生み出すと期待されている。
この方策により、不動産開発会社が資金を回収し、その資金を債務返済に充てたり、建築が中断しているプロジェクトを再開して物件引き渡しを進めたりすることが期待できる。また、地方政府は、ゼロから建設するよりも短期間で保障性住宅の供給増加が図れる(都市に移住してきた農民・若者等の住宅難は長年の課題である)。
各種報道によれば、8月半ば時点で、約60都市が国有企業の既存住宅購入に対して支持を発表し、深圳市、長沙市等では募集公告を出す等の動きが出ている。
各市により購入対象となる既存住宅の条件は異なる。交通の便が良いこと、保障性住宅の基準面積を満たしていること、一棟全体が優先的な対象となること等がある。面積については深圳市は65平米以下、長沙市は120平米以下などである。
在庫処理の成否の鍵を握るといわれる購入価格については、既存住宅と同様の条件の住宅を現在の市場条件で建設した場合のコストを参考に土地・建設コストに利潤を上乗せする方法や当該地域の同様の商品住宅価格の50%前後とする方法等がある。
課題としては、第一に、需給ミスマッチの問題が広く指摘されている。大都市(いわゆる1線都市)では、保障性住宅への需要は強いが、売れ残りの住宅在庫が多くない。一方、中小都市(3,4線都市)では住宅在庫は多いが、保障性住宅への需要は小さい。
第二に、資金不足である。既存住宅の在庫水準に比べて、人民銀行の提供する3,000億元では規模が明らかに不十分である。在庫水準を適正なレベルに戻すのに必要な額の試算にはばらつきがあるが、5~7兆元程度とされる。
第三に、保障性住宅は家賃が低く抑えられる(あるいは販売価格が安く抑えられる)ため、在庫住宅を購入する企業にとっての投資リターンの確保が難しい。
こうした状況から、今後在庫処理を本格化させるには、財政・税制面での支援、特に地方政府財政難のなかでは将来的に中央政府資金の投入が必要と思われる。
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