今後の中国の財税制改革について
中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会、7月開催)で採択された「改革のさらなる全面深化と中国式現代化の推進に関する決定」(以下、「決定」)では、財税制改革の長期的な方向性が示されている。
足元の中国経済の諸問題は、地方政府、特に地方政府財政と深くかかわっている。 これまでの不動産開発を軸とした経済発展モデルの中心は地方政府であり、地方経済、地方財政はそれぞれ不動産投資、土地財政を中心に回っていた。この発展モデルの行き過ぎの結果がどうなっているかは再度指摘するまでもない。
一方、地方政府の財政難は土地財政への依存だけでなく、地方政府の隠れ債務を誘発し、これは現時点での金融リスク要因となっている。また、地方政府の財源確保のための地方保護主義により、依然として全国統一市場が実現せず、資源配分の効率上の問題となっていることは中国政府自身がたびたび指摘していることである(卑近な例では、日系企業が地元政府に干渉されて自由に引っ越しできないなど)。
このため、全体で60項目から成る「決定」の財税制改革の項(第17項目)では地方財政に関する記述が多い。基本的には、中央政府と地方政府の間の「権限と責任の明確化」と、その上での「地方自主財源の増加、地方税源の拡張」である。
第一に、「決定」は「中央政府の事権を適切に強化し、中央財政支出の割合を高める。中央財政は事権原則の上で、中央本級(中央政府予算)から支出し、地方に代行委託する中央財政の事権は減らす。規定に違反して地方にマッチングの資金を要求してはならない」としている。
ここで、「事権」とは支出責任のことであり、一方、収入上の権限は「財権」である。1994年の「分税制改革」は税収面の改革、つまり中央財政収入の全体に占める比率の引き上げとそれと並行する中央政府のマクロコントロールの能力の引き上げが主で、中央・地方政府間、各級地方政府間(省、地級市、県・市、郷鎮)の事権と財権の割り振りの問題は残された。
足元で地方政府の財政収入の割合が全体の54%である一方、公共予算支出に占める割合が86%前後という数字はよく引用される。また、地方政府内でも、上級政府は下級政府に仕事を押し付け、財源は渡さないという積年の問題がある。
つまり、今後の改革は、地方収入の割合を上げるという単純な話だけではなく、中央政府と地方政府の職責をはっきりさせ、それに基づき税収の帰属を決めていくもので、長年指摘されてきた問題に手を入れるという点では、94年分税制以来の改革となる可能性がある。無論、地方政府の土地財政がうまくいかなくなったために、改革を強いられているという皮肉な面は否定できない。
第二に、「事権」と「財権」の分配を明確化した上で、地方政府の財源を強化する。
「決定」では消費税の徴収を卸売段階から小売段階に移すとしている。中国の消費税は、(時代遅れになっている品目はあるが)奢侈品に対する税である。そして、足元でこの改革の対象となるのは、酒、たばこ、石油精製品(ガソリン・ディーゼル油)、小型自動車である。主に生産者段階で徴収し100%中央政府の税収となっている消費税収入を小売段階で徴収し地方政府に税収を移す意図がある。同時に、地方政府が地元での消費を促進するインセンティブになることも期待されている。
また、「都市維持建設税、教育費付加、地方教育付加を地方付加税に統合し、地方が一定の幅で具体的な適用税率を確定できるようにすることを検討する」ことも地方財源強化である(付加税は納税者が払う増値税・営業税・消費税税額に対して付加して徴収するもの)。
さらに、一部の都市で先行導入された後、動きの止まっている不動産税(固定資産税相当)については社会保障や民生の項(第44項目)に、「不動産税収制度を改善する」と簡単に言及されている。現在の不動産市況を鑑み足元では積極的でないが、いずれは導入することを目指していると見られる。
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