既存の隠れ債務の解消策(11月8日発表)について
全人代常務委員会は11月8日に地方政府の既存隠れ債務の解消策を発表した。
内容は以下の通り。
▽地方政府の既存の隠れ債務を(地方政府債によって)置換(借り換え)するために地方政府債務上限を6兆元引き上げる。引上げ部分は、すべて地方政府の専項債による(2024年末の地方政府専項債の上限は29.52兆元から35.52兆元へ。なお地方債のうち専項債は、一般公共予算ではなく政府性基金予算に計上されるものである)。6兆元の引き上げは今後3年に分けて実施される、つまり、専項債は24年から2兆元ずつ余分に発行され地方政府の隠れ債務解消に利用される。
▽これとは別に、24年から5年間、毎年、新たに発行される専項債のうち8000億元(5年間で計4兆元)を地方政府債務の解消に充てている。 (昨年秋、地方債のうち特殊再融資債を発行し既存の地方政府債務の借り換えに利用する動きが出たが、今年に入っては特殊再融資債という区分ではなく、地方専項債を利用して借り換えていると報道されていた。なお、特殊再融資債券については、当コラム「最近の地方政府の隠れ債務解消に向けた動きについて」2023年10月16日、参照)。
▽また、29年以降に償還予定の老朽住宅改造にかかわる隠れ債務2兆元も契約通り返済する。
▽以上から合計12兆元(6+4+2兆元)が地方政府の隠れ債務解消に利用可能となる。これにより、23年末に14.3兆元存在する隠れ債務は2.3兆元まで減少し、地方政府が5年間で自力で解消しなければならない金額は毎年2.86兆元から4600億元に軽減される。 (なお、隠れ債務の推計は61.38兆元(IMF、21年)。地方政府融資平台の債務の推計は65兆元(報道ベース、22年)等があり、中国当局の隠れ債務推計は過少評価の可能性がある)。
■効果
財政部が指摘したこれらの措置による効果(一部)を見ると、第一に、地方隠れ債務のデフォルトリスクの軽減がある。地方隠れ債務は種々あるが、地方融資平台の「非標準化」債務(銀行借入や信託会社からの借入)については既にデフォルトが発生している一方、公募債、具体的には融資平台である地方国有企業が発行した企業債やMTN(medium-term note)はこれまでテクニカル・デフォルトを除きデフォルトが回避されてきた。ただし、不動産市場の調整が長期化する中、隠れ債務の返済資金源の主力であった地方政府の土地譲渡収入の低迷が続くことから、地方政府のデフォルトが金融市場全般に広がるリスクが高まっていた。
第二に、地方政府の債務負担の軽減である。隠れ債務の金利の方が、地方債の金利よりも高いことから、隠れ債務が地方債に置換されれば、それだけ金利負担が減り他のプロジェクト等で利用できる資金が増える。財政部は負担の減少を5年累計で6000億元前後と推計している。
■評価
地方政府の隠れ債務は、財政・税制度の歪みから、本来、中央・地方政府が資金調達して行うべきプロジェクトを、資金不足の地方政府が行ったことに由来するものも多い。その点では今回の措置は、隠れ債務を地方政府予算に組み入れて表面化・透明化して本来の姿にしているに過ぎない。
また、(既存債務の推定額が過少評価されているという議論は措くとして)政府発表の14.3兆元の既存債務を処理したとしても、新たな隠れ債務が生じるリスクは残る。実際、隠れ債務は2018年以降、5年から10年かけて徐々に既存債務を解消する方針の下で徐々に減少していたが、コロナ禍以降の財政難で再び拡大した経緯がある。今回の発表では、問責制度の厳格化等、監督管理面での対応が述べられているが、抜本的な解決には、中央政府と地方政府間の税・財政制度を見直す必要があり、当面は、中央政府から地方政府への移転支出を増やす等の措置を採らなければ、再び隠れ債務は増加してしまう恐れがある。
■今後
なお、今回の発表には、実需となる財政刺激(日本で言う真水)がなかった。しかし、記者発表会で、財政部は中国の政府債務比率(含む上述の隠れ債務14.3兆元)が国際比較上低く、財政赤字拡大の余地は大きいとの判断を示した上で、さらなる税・財政政策を画策していると述べている。また、来年の経済発展目標との関係では、専項債の規模拡大、超長期公債の発行継続、大規模な設備更新の支援や消費財の下取り・買い替えの拡大、中央政府から地方政府への移転支出の拡大なども挙げている。
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