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能登半島地震による経済損失について考える

2024/01/05

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1月1日に発生した能登半島地震でお亡くなりなられた方々のご冥福を心からお祈り申し上げます。また、被災されました皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

住宅の被害に注目

能登半島地震の被害の状況について、その全容はまだ明らかになっていない。従って、その経済的側面への影響についても、その詳細はなお不明である。ただし以下では、現時点で数量的な把握が可能な住宅の被害に注目して経済的側面への影響について考えてみたい。

総務省消防庁の1月5日午前7時半時点での集計によると、7府県の住宅被害は、全壊、一部損壊の合計で827棟である。ただしこれには、最も大きな被害を受けた石川県の住宅の被害が十分に反映されていない。震源地に近い石川県輪島市、珠洲市、能登町の3市町について石川県は、住宅の被害を把握できておらず、その被害棟の数を「多数」とのみ発表している。3市町の世帯数は、それぞれ9,373、5,316、6,232である(2023年4月時点、石川県)。

泉谷・珠洲市長は1月2日の県の対策会議で、「9割方の家屋が全壊やほぼ全壊という状況で壊滅的な被害だ」と述べている。そこで、この3市町については、世帯数の9割の住宅が全壊、一部損壊したと仮定しよう。その場合、被害棟数の合計は1万8,829棟となる。この数字を反映すると、7府県の住宅被害は約1万9,656棟となる。

2011年の東日本大震災では、住宅の損壊は全壊、半壊、一部損壊の合計で40万6,535棟だった。また、1995年の阪神大震災の際の住宅の損壊は64万7,260棟だった。現時点での能登半島地震による住宅損壊の数は、東日本大震災の4.8%、阪神大震災の3.0%である。

現時点での暫定推計で被害総額は約8,000億円

ところで2011年6月に内閣府は東日本大震災による道路、住宅などの直接的な被害額を16.9兆円と推計した。これは1995年の阪神大震災の9.6兆円の約1.8倍だ。被害額のうち最大であったのは、建築物(住宅、工場、店舗)の被害の10.4兆円であり、阪神大震災の6.3兆円の約1.7倍だった。

以下では、住宅損壊の数に基づき、東日本大震災の被害額推計を踏まえて、能登半島地震の被害額の規模を大まかに考えてみたい。店舗、工場などの建物、電気、ガス、水道のライフライン、道路、河川、港湾などの社会基盤、農地、林野などの損害についても、住宅損壊の数に比例して生じたとの仮定で計算すると、能登半島地震の被害額は、東日本大震災の被害額推計16.9兆円の4.9%にあたる8,163億円となる。これは年間名目GDPの約0.15%の規模である。

東日本大震災との経済損失の違い

上記の試算は、住宅の被害に基づいて被害額の規模を大まかに想定したものであり、現時点での暫定的なものでしかない。今後得られる情報により、試算値は大きく修正され得るだろう。

また上記の推計は、資本ストック毀損額の推計であり、フローの経済活動を示すGDPへの影響を試算したものではない点に留意したい。フローの経済活動への打撃という観点からは、能登半島地震の影響は、敢えて言えば、東日本大震災よりも阪神大震災に近いと考えることができるだろう。建物の被害は住宅が中心であり、工場及びそのサプライチェーンへの影響は比較的小さいと考えられるからだ。

その結果、自動車部品の供給が停止し、全国的に自動車生産に甚大な被害が生じた東日本大震災のようなことは生じないだろう。さらに東日本大震災では福島第1原子力発電所事故により電力供給に大きな制約が生じ、それが経済活動に打撃を与えたが、そうしたことは能登半島地震では生じない。

これらの点を踏まえると、能登半島地震の経済的な損失、および経済活動への悪影響は、東日本大震災と比べるとかなり小さい可能性が高いと考えられる。

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