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株式市場のユーフォリアを支える米国経済の楽観シナリオに落とし穴

2024/01/10

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世界の物価上昇率は予想外に低下

年末年始の株式市場は楽観的ムードに包まれた。昨年末の日経平均株価は年末としては、バブル経済期の1989年以来34年ぶりの高値、史上2番目となった。また米国市場では、ダウ平均株価は前年末から14%の上昇となった。1年間の上昇率としては、2017年の+25%に次ぐものだ。

また年明け後の1月9日の日経平均株価は、およそ33年ぶりの高値を更新した。こうした世界の株式市場の楽観的ムードを底流で支えているのは、2021年以降、世界経済の大きな懸念材料であった物価上昇率が、多くの国で低下傾向にあることだ。

ゴールドマン・サックスの推計によると、物価上昇率が急上昇した国々(欧米や一部の新興国)では、食料品とエネルギー品目を除くコア・インフレ率は2023年9~11月に年率換算で+2.2%となった。主要中央銀行が目標とする+2%にかなり近づいたことになる。その結果、多くの国で利上げは終了し、2024年には利下げが実施されるとの期待が高まっており、それが、株式市場の追い風となっている。

ただし、物価上昇率が低下してきているといっても、各国・地域で事情は異なる。消費者物価上昇率が前年比でマイナスとなっている中国は、供給過剰、需要減退という需給の悪化が物価上昇率を下振れされ、デフレ懸念が強まっている。欧州では、エネルギー・食料品価格上昇の一巡に、景気減速の影響が加わることで、物価上昇率は低下してきている。

他方、米国では、供給力の回復が物価上昇率低下の主因と考えられている。新型コロナウイルス問題をきっかけに一時労働市場から退出した労働者が復帰してきたことで、労働供給が回復し、労働需給のひっ迫が緩和されたことや、サプライチェーンの混乱の終息などの影響である。米連邦準備制度理事会(FRB)の歴史的な大幅利上げによる需要の悪化が顕著に表れない中、供給力の回復によって物価の安定が回復されていくのであれば、それはかなり良いシナリオだ。

実際、米国のみならず、世界の株式市場の現在の楽観論を支えているのは、こうした米国経済の楽観シナリオである。

米国金融政策はかなり景気抑制的な水準に

しかし、欧州など多くの国や地域で、大幅利上げによる需要鈍化が確認される中、米国についてのみ、利上げの悪影響が需要に表れないと考えるのは不自然だろう。2008年のリーマンショック後、2000年のコロナショック後の強力な金融緩和の影響から、大幅利上げによっても、緩和効果を解消するのに時間がかかっている可能性はあるだろう。

しかし5.25%~5.50%という現在のFF金利(政策金利)は、多少時間の経過を経た場合には、景気に対してかなり抑制的であるはずだ。景気、需給ギャップに対して中立的な実質金利の水準、いわゆる自然利子率の水準を特定するのは難しいが、0.5%~1.0%程度がコンセンサスなのではないか。物価上昇率のトレンドを2%とすれば、中立的な(名目)FF金利は2.5%~3.0%となる。これは、米連邦公開市場委員会(FOMC)のFF金利の中長期予測値と一致する。現状はそれよりも+2.5%~+2.75%ポイントも高い水準にある。

FRBは、2024年に合計で0.8%ポイント程度の利下げを予想している。これは、経済は概ね安定を維持するなか、物価上昇率の低下を受けて、政策金利を幾分中立方向へと調整することを意味している。実際そのような経済情勢となれば、経済の株式市場の楽観論は維持され、ドル安の程度も比較的緩やかなものに留まるだろう。

米国経済の楽観論に落とし穴

しかし、この先、景気減速の兆候が明確に確認される場合には、物価上昇率の着実な低下を背景に、FRBは景気悪化、あるいは景気後退の回避に向けて、予防的な本格利下げを2024年に実施する可能性が出てくるだろう。その際の2024年の下げ幅は、金融市場が現在予想している1.2%~1.3%程度、つまりFF金利で+4%程度までの利下げでは済まず、3%程度までの2%ポイントを超える利下げとなる可能性があるだろう。この場合には、ドルは大幅に下落するリスクが高まり、さらに日本及び世界の株式市場の楽観論は吹き飛んでしまうのではないか。

現時点で、米国経済失速の明確な兆候は見られないが、商業用不動産の明確な調整など、ソフトランディングを脅かす要因は少なくない。歴史的な大幅利上げを通じ、景気を犠牲にすることで物価の安定を何とか回復するという過去の経験が繰り返される可能性に十分配慮する必要があるだろう。2024年の米国経済の楽観論には、そうした落とし穴があるのではないか。

(参考資料)
"For Much of the World, Inflation Will Be Normal in 2024—Finally(インフレ率が正常化する24年 世界の大半で)", Wall Street Journal, December 27, 2023

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