フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 現物ETF上場後のビットコインの展望と課題

現物ETF上場後のビットコインの展望と課題

2024/01/16

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

ビットコイン現物ETFの初日の取引は活況

米証券取引委員会(SEC)は、1月10日に暗号資産ビットコインを運用対象とする現物ETF11本を承認した(コラム「SECがビットコインの現物ETF(上場投資信託)を承認」、2024年1月12日)。

これを受けて11日には、ニューヨーク証券取引所、ナスダック、シカゴオプション取引所(CBOE)BZXの3主要市場で取引が始まった。初日の売買代金は、46億ドル(6,700億円)。2日目も31億ドル、合計で77億ドル(約1.1兆円)と活発な取引となった。

2021年に米ETF大手プロシェアーズが初のビットコイン先物ETFを立ち上げた際には、上場後2日間で売買高は10億ドルに達したが、現物ETFの売買はそれを大幅に上回るペースで始まったのである。

現物ETFの取引が開始された11日には、ビットコインの価格は前日の4万5,000ドル台から、2021年12月以来初めてとなる4万9,000ドルを超えた。ただしその後は下落に転じ、翌12日には4万2,000ドルを割り込んだ。

2021年のビットコイン先物ETFや大手暗号交換所(取引所)のコインベース・グローバルが上場した直後には、材料出尽くしでETFは急落している。同様のことがビットコイン現物ETFの上場直後にも生じており、ビットコインのボラティリティの高さという課題も改めて浮き彫りとなった。

ビットコイン取引の安全性が高まる

それでも、米国での現物ETF上場は、今後のビットコイン市場に追い風となる可能性は高い。これまで投資家は現物のビットコインを、暗号資産交換業者を通じて売買してきたが、2022年11月の暗号資産交換業者大手FTXの破綻は、暗号資産交換業者の信頼性を大きく損ねることとなった。同社は顧客資産の分別管理が不十分であったため、同社の破綻とともに顧客が資産を失うことになってしまったのである。

しかしビットコインの現物ETFであれば、投資家はSECの監督下にある証券会社の証券口座を通じて株式などと同様に売買することができ、仮に証券会社が破綻しても投資家の資産は保護される。個人投資家がビットコインの取引を始めるハードルは、かなり下がることになるだろう。

ビットコイン先物ETFにはコストの問題

米国で、ビットコイン先物ETFの取引は2021年から始められていたが、先物ETFの取引にはコストが高い、という問題がある。

ビットコイン先物連動型ETFでは、ETFが投資対象とするビットコイン先物は毎月失効するため、その都度翌限月の先物を購入しなければならない。ところが、ビットコインの価格の先高観を反映して、ビットコイン先物の価格は期近が期先よりもかなり低い、いわゆる強い「コンタンゴ(順サヤ)」の状態にある。そこで、先物ETFを買い替えるたびに期近より価格が高い期先の先物を買うことになるため、買入れコストが高くなり、これが現物のビットコインに投資する場合と比べて投資のコストを高め、パフォーマンスを下げてしまう。

現物ETFでは、こうした問題はない。そのため、現物ETFの上場は、米国の個人投資家の資金を集め、ビットコイン市場の追い風となるだろう。さらに現物ETFでは、既に激しい手数料引き下げ競争も始まっている。

ビットコイン市場に3つの追い風

ビットコイン市場には、現在3つの追い風が吹いている。第1は、この現物ETFの上場である。第2は、2022年以来の米国での利上げが一巡し、2024年には利下げが視野に入ってきたことだ。ボラティリティが高く、また、利払いや配当などのキャッシュフローを生まない暗号資産は、金利が上昇し、国債など安全資産での運用利回りが高まる局面では、選好されにくくなる。

そして第3は、ビットコインの半減期が近づいていることだ。ビットコインの取引では、ブロックチェーン上での一定期間ごとの取引記録をまとめたブロックを生成する、いわゆるマイニングに対する報酬として新たにビットコインが発行される。ビットコインの発行量は2,100万枚が上限と当初から定められており、ブロック数が21万個に達したときに新規発行数を半減させる、いわゆる半減期が生じる設計となっている。ビットコインの供給に制限を設けることで、その価値の安定を図る狙いがある。

これまでの半減期は、2012年11月、2016年7月、2020年5月の3回であり、概ね4年に一回訪れる。次の半減期は2024年4月頃と見込まれており、それが需給の改善を通じて、ビットコインの価格を押し上げるとの期待もある。

SECは暗号資産の問題点を意識

しかし、今回、ビットコインの現物ETFの上場を承認したSECは、引き続きビットコインなど暗号資産の問題点を強く意識し、それに警鐘を鳴らしている。SECが1月10日に発表した声明文でゲンスラー委員長は、「ビットコインは投機的で不安定な資産であり、ランサムウェア、マネーロンダリング、制裁回避、テロ資金供与などの違法行為にも使用されている」、「本日、特定の現物ビットコインETFの上場と取引を承認したが、ビットコインを承認または推奨した訳ではない。 投資家は、ビットコインやその価値が暗号通貨に関連付けられている商品に関連する無数のリスクについて引き続き注意する必要がある」と強く釘をさしている。

また、消費者保護団体や投資家団体も、現物ETFを通じてビットコインに簡単に投資ができるようになると、相次ぐ不正と荒い値動きで知られる暗号資産に個人投資家が資金を移すのを促すことになる、と警鐘を鳴らしている。

現在、ビットコイン市場に追い風が吹いていることは確かであるが、価値が不明確であるがゆえにボラティリティが非常に高い状況は変わらず、債券、株式あるいは商品などの通常の投資対象(アセットクラス)と同列に肩を並べるのは依然として難しいのではないか。また、決済手段としての機能の面に注目しても、既存の銀行送金と比べてコスト面での優位性はあるものの、犯罪に利用されやすく、ユーザーにとっては安全性に不安がある、という課題がある。

こぅした面から、ビットコインなど暗号資産が担う社会的役割については、今後も問われ続けることになるだろう。

(参考資料)
「米当局がビットコイン現物ETFを承認、リスク指摘も」、2024年1月12日、NIKKEI FT the World
「ビットコインETFって何?米当局は注意喚起も初承認-イチからわかる金融ニュース」、2024年1月13日、日本経済新聞電子版
「ビットコイン急騰、一時2年ぶり高値 ETF上場で」、2024年1月12日、日本経済新聞電子版

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn