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日本銀行は政策変更を見送り、物価予測を下方修正:4月政策修正シナリオにリスク

2024/01/23

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4月の決定会合でマイナス金利政策解除を見込む向きが大半だが。。。

1月23日に開かれた金融政策決定会合で、日本銀行は大方の事前予想通りに政策変更の見送りを決めた。 注目されていた展望レポートでは、足もとでの消費者物価上昇率の低下傾向を反映して、政策委員による2024年度の消費者物価上昇率(生鮮食品を除くコア)見通しの中央値を、前回昨年10月時点での+2.8%から+2.4%へと下方修正した。

他方、2025年度については+1.7%%から+1.8%へと小幅に上方修正した。物価上昇率見通しは、予測期間の最終年度に向けて2%を下回る見通しが維持され、「2%の物価目標達成はまだ見通せない」とする日本銀行の判断と整合的なものとなった。ただし、+1.8%は「+2%程度」の範囲内との解釈も可能であることから、2%の物価目標達成と、それを前提にする政策修正に向けて市場の期待をつなぐ内容の展望レポートになったと言えるのではないか。

いずれにせよ、持続的に2%程度の物価上昇率が見通せるようになったかどうかについての日本銀行の判断は、4月に公表される展望レポートの2026年度の数字でより明確に示されるだろう。

金融市場では、今年4月の金融政策決定会合で、日本銀行がマイナス金利政策の解除に踏み切るとの見方が大半だ。確かに、日本銀行がマイナス金利政策の解除に踏み切る場合、最短では、それは4月になると予想される。しかし、4月と決め打ちするのはリスクがあるだろう。

日本銀行は早期に本格的な政策修正に着手すべき

日本銀行は、3月中旬に集中回答日を迎える主要企業の春闘とともに、中小企業での賃上げの動きを見極める。金融機関の財務に影響を与える期末(3月)の政策修正を避ける。2026年度の物価見通しを含む展望レポートで、予測期間最終年度の2026年度にかけても2%程度の物価上昇率が続く、との見通しを示す。そのうえで、4月に物価目標の達成を宣言し、マイナス金利政策を解除する、というのが金融市場のメインシナリオだ。

歴史的な物価高騰を受けても、日本銀行は異例な金融緩和を続けてきた。それが促した円安の影響も加わり、個人の中長期のインフレ期待(予想物価上昇率)は大きく上振れるなど、弊害も生じている。これは、日本銀行が当初目指した良いインフレ期待の上昇ではなく、悪いインフレ期待の上昇であり、経済を不安定化させるリスクがある。

この点から、日本銀行は早期に政策の正常化、本格的な政策修正に踏み切り、中長期のインフレ期待の安定回復に乗り出すべきだ。それは中央銀行として重要な責務である。

「第1の力」から「第2の力」への移行は難しい

しかし実際には、日本銀行が早期に本格的な政策修正に踏み切るには、まだ障害が残されている。それは、「本格的な政策修正の条件は2%の物価目標の達成が見通せること」、と今まで説明してきたことだ。

消費者物価(生鮮食品を除くコア)は今年1月に前年同月比+2.1%まで低下が見込まれ、年内には2%割れが定着することが予想される。日本銀行は、外的要因による輸入物価上昇の影響による一時的な物価上昇率の高まり、いわゆる「第1の力」が、賃金上昇率の上振れがサービス価格に転嫁されることでより持続的な物価上昇率の高まり、いわゆる「第2の力」に繋がっていくことを、2%の物価目標達成の条件としている。

しかし、過去の物価動向を振り返っても、輸入物価上昇による財価格の上振れが、賃金の上昇を通じてサービス価格に転嫁され、持続的な物価上昇率の上振れに繋がった事例は明確には見出されない(コラム「賃金からサービス価格への転嫁は限定的か:持続的な2%物価上昇の達成は依然難しい(12月分全国CPI)」、2024年1月19日)。こうした点から、4月の時点で2%の物価目標の達成が見通せる状況になるとは思えない。

2%の物価目標達成を宣言することに大きなリスク

実際の物価環境に関わらず、日本銀行が2%の物価目標達成が見通せるようになった、との独自の判断を示すことは可能だ。しかし、2%の物価目標達成の環境が整っていない中で、日本銀行が2%の物価目標達成を宣言することは非常に危険と考えられる。

日本銀行がそれを宣言し、物価上昇率やインフレ期待が2%程度で先行き安定するとの見方を示せば、金融市場は金融政策を中立姿勢に戻すために、現在の-0.1%の短期金利を近い将来2%以上に引き上げるとの観測を一気に強める可能性がある。その場合、10年国債金利は2%を大幅に上回る水準まで上昇する。

実際、企業や家計のインフレ期待が2%程度で安定を続けない限り、そのような金利の急騰は、実質金利の大幅上昇を招き、経済に甚大な悪影響を及ぼすとともに、株価の大幅下落や急速な円高を引き起こす。また、金融機関の債券含み損を拡大させその経営を揺るがすなど、金融システムの安定にも悪影響をもたらす。

こうしたリスクを踏まえれば、日本銀行は2%の物価目標達成を宣言せず、そのもとで時間をかけて政策修正を行い、副作用の軽減を図る道を選ぶのではないか。そのためには、金融市場に政策意図を伝える対話を丁寧に行い、「政策修正は2%の物価目標達成が見通せることが条件」とする今までの説明を修正していく必要がある。それには一定の時間が必要であることから、4月の決定会合で政策修正に動くのは難しいのではないか。

FRBの利下げもマイナス金利政策解除の障害に

さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げも、日本銀行の政策修正の障害になる。当初考えられていた今年3月のFRBの利下げの観測は後退してきている。それが、年明け後に為替市場でドル高円安の流れを促してきた。

しかし、今年の春から年央にかけての利下げ観測は、依然根強い。4月の日本銀行の決定会合の時点では、FRBがまだ利下げに踏み切っていなくても、近い将来に利下げを実施するとの観測が市場に強く織り込まれていれば、円高のリスクに配慮して、日本銀行はマイナス金利政策の解除に踏み切れないだろう。

現在米連邦公開市場委員会(FOMC)は、年内3回程度の利下げを予想しているが、仮にその通りであれば、今年秋頃には利下げはとりあえず一服しているだろう。それを待って日本銀行がマイナス金利政策の解除に踏み切るのであれば、そのタイミングは早くて今年10月の決定会合となる。

少数派だが今年10月が現時点でのメインシナリオ

足元の円安、株高は日本銀行の政策修正を後押しするだろう。日本銀行の政策修正をけん制してきた自民党安倍派の解散も、日本銀行の政策修正を容易にさせる要因となる。また、FRBの利下げ観測もさらに後ずれする可能性がある。こうした点を踏まえれば、日本銀行がマイナス金利政策を解除するのは、冒頭で述べたように、最短では今年4月になるだろう。

しかし、上記で指摘した2つの障害を踏まえ、さらに、日本銀行が政策修正に伴う金融市場や経済の混乱を最大限避ける、伝統的な慎重姿勢をとることを前提にすれば、マイナス金利政策解除の時期についてのメインシナリオは、少数意見ではあるが、今年10月、あるいはそれ以降である。

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