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日銀総裁記者会見:マイナス金利政策解除の時期について明確な手がかりは示さず

2024/01/23

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物価目標達成に向けた距離感については引き続き説明を避ける

1月23日の金融政策決定会合で、日本銀行は政策変更を見送った。その後開かれた総裁記者会見でも、マイナス金利政策解除の時期などについて、明確な材料は示されず、全体的にサプライズはなかった。

ただし、記者会見中に為替市場では円高ドル安、債券市場では長期金利の上昇が多少見られたことから、記者会見は、金融市場のマイナス金利政策の早期解除への期待を幾分高めたとみられる。

その理由として、展望レポートに示された「(物価目標達成の)確度は少しずつ高まっている」という表現について、総裁が確度が高まっている理由を、展望レポートの物価見通しに言及して具体的に説明したこと、「政策修正後も金融市場を混乱させるような政策の非連続は起こさないようにする」など、マイナス金利政策解除後の政策姿勢について言及したこと、があるのではないか。

展望レポートに加えられた物価に関する記述、「こうした(物価上昇率が2%の物価目標達成に向けて徐々に高まっていく)見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっている」が、物価目標達成に向けた日本銀行の自信を表している、との指摘もある。しかし、「確度は少しずつ高まっている」との表現は、記者会見での総裁の発言で既に従来から用いられていたものであり、それを展望レポートのテキストに加えたに過ぎないだろう。しかもその前には「先行きの不確実性はなお高いものの」との但し書きも添えられている。

「確度は少しずつ高まっている」としても、それは方向性の表現に過ぎず、達成までどの程度の距離にあるかについて示していないことから、物価目標達成と政策修正実施のタイミングを特定するには役に立たないだろう。この距離感について植田総裁は記者会見で、「計量的に示すのは難しい」と説明を避けた。

2%の物価目標達成を宣言した後の政策修正には金融市場を混乱させるリスク

政策修正によって金融市場が混乱するリスクについて問われた植田総裁は、「現在の経済状況からすれば、金融政策の大きな不連続性が発生することは避けられるのではないか」と説明した。これは、今回の記者会見の中で最も注目される発言だ。

つまり、2%の物価目標達成を宣言し、マイナス金利政策の解除に踏み切っても、現在の必ずしも強くない経済・物価情勢の下では、金融緩和的な政策はしばらく続き、金利が一気に大きく上がることはない。また金融市場もそのように理解するため、金融市場の安定も維持されるとの見通しと受け止められる。

しかし、2%の物価目標達成とは、この先、物価上昇率と物価上昇率見通しが2%程度で安定すると判断できるようになった状態を意味する。その場合、金融市場は、金融引き締めまではいかなくても少なくとも早期に政策は中立状態に戻されると考えるのが普通ではないか。その政策金利の中立水準は2%以上である。

金融市場が、政策金利は近い将来2%以上まで引き上げられるとの期待を強めれば、10年国債利回りは一気に2%を大幅に上回り、急速な円高、株価の大幅下落、経済の悪化などを引き起こしてしまうだろう。 総裁は、政策修正後も「金融政策の大きな不連続性が発生することは避けられる」との見通しを示しているが、それは確実なものでない。

マイナス金利政策の解除は4月か10月か

日本銀行は、政策金利を現状の-0.1%から0%近傍まで引き上げた後に、当面その水準を維持する考えだろう。その場合には、実質政策金利は-2%程度で維持されることになるから、信じられないくらい異例の金融緩和状態がなお続くことになる。

「マイナス金利解除後もこうした異例の緩和状態を続けることを前提にして、2%の物価目標達成を判断した」、と日本銀行は説明するかもしれないが、異例の金融緩和に辛うじて支えられた極めて脆弱な経済、物価情勢の下では、そもそも2%の物価目標達成と判断するのはおかしいのではないか。

実際に日本銀行が2%の物価目標達成を宣言すれば、金融市場が大きく動揺するリスクは排除できないだろう。それを十分に承知のうえでなお、現在の物価上昇率の上振れを捉えて、政策修正のきっかけにしたい、と日本銀行が強く考えるのであれば、日本銀行は今年4月にマイナス金利政策解除に踏み切るのではないか。

他方、金融市場の安定に十分配慮しながら緩やかに政策修正を進める考えなのであれば、マイナス金利政策解除の時期は今年10月など、さらに後ずれするだろう。このような点も踏まえ、筆者はマイナス金利政策解除の時期の見通しは最短では4月であるが、メインシナリオは少数意見ながらも10月以降と引き続き考えている。

ところで、先行きどのような金融政策を前提とした物価見通しであるかを金融市場に示すためには、米連邦公開市場委員会(FOMC)が示す政策金利見通し、いわゆるドットチャートも、市場との認識ギャップを埋める手段の一つとしては、今後検討課題となるのではないか。

地震が金融政策に与える影響は小さい

今年1月1日に能登地震が起きたことで、金融市場には日本銀行の政策修正の時期が後ずれするとの期待が生じ、それが為替市場で円安ドル高の流れを作り、日本株高を支えてきた面もある。

しかし実際には、地震が日本銀行の金融政策に与える影響は小さい可能性が高い。今回、日本銀行が政策変更の見送りを決めた理由に、地震の影響はほぼなかっただろう。

植田総裁は、地震の影響の全容は見えておらず、今後も注視するとしながらも、現在のところ経済全体へのサプライチェーンの深刻な影響、マインドを通じた消費への影響は大きくない、と説明した。

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