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踏み込み不足の政治刷新本部・中間とりまとめ:政治改革は国民の意識改革と一体で

2024/01/26

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中間取りまとめは派閥存続に道を開く記述に落ち着く

自民党は1月25日に臨時総務会を開き、派閥の政治資金パーティ問題を受けて設置した政治刷新本部の中間取りまとめを正式に決定した。

東京地検特捜部の捜査が一巡し、そしてこの中間とりまとめが出されたことで、自民党による同問題への対応にとりあえず「一段落」とのムードも出ている。しかしそれでは困る。国民の政治への信頼回復に向けた取り組みは、始まったばかりだ。

岸田首相が岸田派(宏池会)の解散を突然打ち出したことを受けて、雪崩を打ったように安倍派などの解散表明が相次ぎ、自民党内の6派閥のうち4派閥が解散の方向という劇的な動きとなった。

中間とりまとめでは、派閥を「本来の政策集団」へ移行させ、「お金と人事から完全に決別する」と明記されたが、派閥の解散そのものは盛り込まれなかった。政策集団という名のもとに、派閥が存続することに道を開くものだ。

派閥解消には、派閥の領袖である麻生氏、茂木氏が難色を示したとみられるが、有力派閥の反対で党総裁である岸田首相が党全体の派閥解消を決められなかったこと自体が、派閥の弊害を露呈させているのではないか。それは、派閥と党との2重構造のもと、党や政府のガバナンス(統治)が低下している、ということだ。

派閥の改革は過去と比べて後退

リクルート事件を受けて1989年にまとめられた自民党の「政治改革大綱」では、「派閥の弊害除去と解消への決意」という項目が設けられ、派閥については、「派閥と政治資金のかかわりや派閥の内閣、国会および党の全般にわたる人事への介在、派閥本位の選挙応援など、さまざまな弊害を生んでいる」と結論づけられた。

そのうえで、(イ)最高顧問は派閥を離脱する、(口)総裁、副総裁、幹事長、総務会長、政務調査会長、参議院議員会長、閣僚は、在任中派閥を離脱する、(ハ)派閥の実務者間によって、実質的にあたかも党機関にかわる意思決定と誤解されるようなことは行わない、との具体的な改革案が示されていた。

また、自民党が下野していた1994年に党改革実行本部がまとめた答申は、従来の派閥の名称を一切使わないことや、派閥事務所の閉鎖を求めていた。ところが今回の中間とりまとめでは、派閥事務所の閉鎖は盛り込まれず、「政策集団の活動を党本部で行う」という表現に留まっている。過去の派閥改革案と比べると、後退した感は否めない。

派閥は「政治とカネ」の問題とは異なる、との指摘もあるが、実際に、今回の裏金疑惑は派閥の政治パーティ券収入から生じたものであり、派閥が党のガバナンスを損ねたことが問題につながった面もあるだろう。派閥と「政治とカネ」の問題との関係性については、今後も十分に検証を進め、派閥の完全解消を含めてさらなる改革を進めることが求められる。

政治資金の透明性を徹底して高める必要

一方政治資金に関しては、中間とりまとめに派閥の政治資金パーティの禁止が盛り込まれ、また、政治資金規正法などの違反が明らかとなった場合、党として審査を行い、事案に応じて一定期間の活動の休止もしくはグループの解散を求める、とした。会計責任者が逮捕、起訴された場合、議員についても内容に応じて処分できる党則改正を行う考えも記された。

さらに、政治資金の透明性を徹底するため、派閥の政治資金収支報告書に外部監査を導入することも盛り込まれた。

これらの施策については、一定の評価はできるが、それでも十分とは言えない。例えば、野党が主張する、政治資金規正法を改正して、会計責任者や秘書が違反した場合に国会議員の責任を問いやすくする「連座制」の採用には、中間とりまとめは踏み込まなかった。また、裏金疑惑の舞台となった、派閥がカネを集め所属議員に配る仕組みそのものの見直しにも踏み込んでいない。

そして、政党が所属国会議員に支出する政治資金の一つである政策活動費についても、中間とりまとめに言及はなかった。政策活動費を受け取った議員はその使途を公開する必要がないため、実際には政治活動以外にも利用されるブラックボックスになっている、とも指摘されてきた。そして、政策活動費は、税金が原資の政党交付金とは異なり、政治資金パーティや企業団体献金などの収入がその源泉と見られている。

政治改革は国民の意識改革と一体で

現時点では現実味は高くはないが、「政治とカネ」の問題を終わらせるには、企業・団体によるパーティ券の購入禁止に加えて、企業・団体献金も廃止して、政治活動は政党助成金の範囲内で行えるようにし、その使途は完全に透明にする、といったことを最終的には目指すべきではないか。

さらに、「政治とカネ」の問題がなかなかなくならない背景にあるのは、選挙にはカネがかかる、という現実だ。これが改められない限り、いくらルールを厳格化しても、必ず抜け道が生まれてしまうだろう。そして、実際に選挙にカネがかかる背景には、それを当然と受け止め、時にはカネの受け取り側にも回る、国民の意識があるのではないか。

こうした点を踏まえると、国民の信頼回復のための政治改革は、政治サイドだけで進めるのではなく、国民の意識改革と一体で進めていかなければ、真に実効性の高いものとはならないのではないか。

(参考資料)
「自民派閥、カネ・人事と「決別」 改革案、パーティーは禁止」、2024年1月24日、日本経済新聞
「自民「裏金」再発防止は見通せず 議員処分、具体策欠く」、2024年1月24日、日本経済新聞電子版
「ブラックボックスの「政策活動費」 22年は自民14億円超-政治資金問題の視座⑥」、2024年1月24日、日本経済新聞電子版
「NHKニュース おはよう日本」、2024年1月25日、NHK

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