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「北陸応援割」の経済効果は605億円:現段階では給付金による旅行事業者支援が妥当

2024/01/29

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「北陸応援割」の対象4県の旅行消費は全国の4.6%

岸田首相は25日に、能登半島地震で大きな打撃を受けている旅行事業者を支援するため、被災関連県の旅行に政府が補助をする「北陸応援割」を実施する考えを明らかにした。26日には観光庁が、その枠組みの詳細を示した。

対象となるのは新潟、富山、石川、福井の4県であり、同地域への旅行商品を半額で購入できるようにする。宿泊の場合は1人1泊につき2万円を上限とし、新幹線や高速バスなど交通費と宿泊がセットになったパックツアーも割引の対象となる。期間は3月から4月下旬の大型連休前までを想定しているという。予算額は94億4,000万円である。

この「北陸応援割」がどの程度の経済効果を生むのかについて、まずは考えてみたい。観光庁が公表している旅行・観光消費動向調査によると、2023年1-3月期の日本人国内旅行消費額は、4兆2,554億円、4-6月期は5兆6,138億円だった。両者の合計は9兆8,692億円となる。「北陸応援割」が3月から4月末までの2か月間行われるとすれば、対象時期の国内消費額の昨年の実績額は、3兆2,897億円(9兆8,692億円÷3)となる。

他方、観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2022年の都道府県別延べ宿泊者数は、「北陸応援割」の対象となる4県で2,072万6,560人と、全国の4億5,045万8,460人の4.6%に相当する。対象4県の対象期間(2か月)の国内旅行消費額が全国の4.6%だとすれば、旅行消費額は1,513.3億円(3兆2,897億円×4.6%)となる。

「北陸応援割」の経済効果(旅行消費額増加額)は605.3億円

ところで支援の対象となる旅行関連消費額の中心は、宿泊代、交通費といったサービス消費である。内閣府の分析によると、サービス消費の価格弾性値は-0.8である。これは、価格が1%低下すると実質サービス消費は0.8%増加する傾向にある、ということを意味している(コラム「東京除外で減少するGo Toトラベルの消費押し上げ効果は1.5兆円程度か」、2020年7月17日)。

「北陸応援割」では旅行費用が半分になる、つまり50%の値下げが実施されることに等しくなるため(上限を超える支出部分は考慮しない)、それは支援の対象となる旅行関連消費を40%増加させる計算となる(支援部分も含む)。その場合、「北陸応援割」の効果によって、対象4県の対象期間の国内旅行消費額は、1,513.3億円の40%、つまり605.3億円追加で増える計算となる。

実際に同程度の旅行消費額の増加が生じる場合、補助金に使われる政府予算の94億4,000万円は十分ではなく、予算の上積みが必要になるだろう。

景気浮揚効果はあるが打撃を受けた旅行事業者の支援策としては問題

上記の試算のように、「北陸応援割」は、その対象となる新潟、富山、石川、福井4県に相応の経済効果をもたらすだろう。しかし、同制度の本来の狙いである地震で打撃を受けた旅行事業者の支援策として考えた場合には、その効果には疑問が残る。

第1に、地震で特に甚大な被害を受けた地域に、3、4月の時点で観光客が訪れるとはとても思えない。そうした地域では、観光客を受け入れることも難しいはずだ。そのため「北陸応援割」は、4県の中でも地震で甚大な被害を受けた能登半島などの地域以外への旅行を喚起することになる。地震の影響で観光客が大きく減っておらず、そもそもビジネスが深刻な打撃を受けていない周辺地域の旅行事業者により恩恵が及ぶ形になるだろう。本当に困っている事業者を助けることにはならないのである。

2016年4月の熊本地震の際にも、政府は同年7月から12月まで、熊本、大分、福岡、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島の7県を対象に旅行代金を補助する「九州ふっこう割」を実施した。しかし、その効果で観光客が増えたのは、被害の中心地であった熊本県ではなく、他の周辺県であったとの分析がある。同様のことが「北陸応援割」でも起こるだろう。

ただし、大きな被害が出た「能登地方」については、観光客の受け入れが可能になった段階で、1人1泊あたりの割引率を70パーセントにするなどの、より手厚い支援策を検討するとしており、政府は「北陸応援割」が地震の被害が大きい「能登地方」への旅行を促すことは当面ないことを認識している。

第2に、コロナ禍で政府が旅行事業者支援のために実施した補助金制度「GOTOトラベル」では、宿泊代の補助によって、旅行者は値段が高めの高級ホテル・旅館などの宿泊に同制度を利用する傾向が強まったと考えられる。高級ホテル・旅館では、しっかりとした感染対策が取られているとの見方も、そうした傾向を後押ししただろう。

「北陸応援割」でも同様のことが起こる可能性があるのではないか。同制度のもとで高級旅館などに宿泊者が集中すれば、地震の影響で打撃を受け経営基盤が揺らいでいる、体力のない中小の旅行事業者への支援とはならない可能性があるだろう。大規模な高級ホテル・旅館の方が、耐震設備がより整っているとの見方も、そうした傾向を促すのではないか。

第3に、「GOTOトラベル」では、人の移動を促し、感染リスクを高めるとの批判があった。「北陸応援割」の場合には、引き続き地震頻発が続く地域への旅行を政府が補助金制度で後押しするのは、国民をリスクに晒すため問題、との見方が出てくる可能性もあるのではないか。

現状は給付金で旅行業者を支援する段階

以上の点を踏まえると、「北陸応援割」で旅行事業者を支援することには問題があるだろう。現時点で旅行業者を支援する枠組みとしては、政府による給付金がより妥当なのではないか。地震で観光客が減り経営に打撃を受けている事業者に対して、売上高の減少分を補填するような枠組みが考えられる。これであれば、地震で打撃を受けた中小・零細事業者をしっかりと支援し、経営を支えることができるのではないか。

そして、被災地の復興がある程度進み、観光客の地震への不安が和らいだ段階で、「北陸応援割」は旅行事業者支援の有効策になってくるのではないか。ただしその時期は、年内には訪れないだろう。

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