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NYCB赤字転落で米地銀株急落:米銀危機第2ステージの幕開けか:米商業用不動産の調整は世界の金融リスクとなるか

2024/02/02

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米国地銀株は昨年3月の米銀破綻時以来の大幅下落

米連邦公開市場委員会(FOMC)が政策金利の据え置きを決めた1月31日に、米国株式市場では地方銀行の株価が急落した。米KBW地方銀行株指数は6%下落し、昨年3月にシリコンバレーバンク(SVB)に取り付け騒動が起きた時以来の大幅下落となった。

そのきっかけとなったのは、ニューヨーク・コミュニティー・バンコープ(NYCB)が同日に発表した2023年10〜12月期決算が、市場予想に反して最終赤字に沈み、また減配を決めたことを受けて、株価が38%急落したことだ。

同行の2023年10〜12月期の最終損益は2億5200万ドル(約370億円)の赤字となった。前年同期は1億7,200万ドルの黒字だった。

NYCBは、2023年のシグネチャー・バンクの破綻を受けて、一部資産を同社から引き受けていた。救済に回っていた銀行が、今度は自らが躓いてしまった形だ。

業績悪化の主因は商業用不動産向け融資を中心とする保有資産の急速な劣化だ。債権の焦げ付きに備える貸倒引当金の繰入額は5億5,200万ドルと、前年同期の4倍以上に拡大した。

商業用不動産市場の悪化で米銀危機「第2ステージ」の幕開けか

米国の商業用不動産市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅利上げの影響、リモートワーク定着によるオフィスの空室率の高止まりなどによって大きな打撃を受けている。

昨年3月のシリコンバレーバンク、シグネチャー・バンクの破綻は、長期金利の急騰による債券含み損の拡大が引き金の一つとなった。米国の長期金利は一時と比べて低下してきており、そのリスクは軽減してきているが、米国景気の減速や商業用不動産の調整を受けた不良債権の増加が、新たな経営不安の火種となっている。

これは、米銀危機の「第2ステージ」の幕開けかもしれない。今後どの程度自体が悪化するかは、商業用不動産の調整、景気減速の程度次第だ。

グリーン・ストリートの米国不動産価格指数(CPPI)は、最新の昨年12月に前月比横ばいと、2か月連続で3%以上の大幅下落となった後、やや安定を取り戻した(図表)。しかし、下落傾向に歯止めがかかったと判断するのは早計だ。前年同月比では-9.5%と2桁近いペースでの下落を続けている。

米国商業不動産市場の悪化の影響はドイツ銀行や邦銀にも

米国商業不動産市場の悪化は、米国のみならず世界の銀行経営に打撃を与えている。ドイツ銀行は2023年10-12月に、米商業用不動産関連の損失に備える引当金が、前年同期の4倍以上にまで膨らんだ。引当金は1億2,300万ユーロ(約195億円)と、前年同期の2,600万ユーロから大幅に増加した。前期比ではほぼ2倍である。

ドイツ銀の米オフィス向け融資は融資残高全体の約1.5%に相当し、対象物件はニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコなどにある。そしてこの先、借り換えが大きなリスクになるとしている。価値が低下した不動産向けの融資に返済期限が到来し、借り手が新たなローンを確保するために追加資本を注入する必要が生じる可能性を同行は指摘した。

また日本では、あおぞら銀行が2月1日に、2024年3月期に280億円の連結最終赤字(前期は87億円の黒字)の予想を出した。最終赤字は2009年3月期以来、15年ぶりとなる。そのうえで、第3四半期と期末配当予想を無配にする、と発表したことで、同行の株価は大幅に下落した。 同行は、米金利の上昇で膨らんだ有価証券の含み損を処理するほか、米商業用不動産向け融資で損失に備える追加の引当金を計上することが赤字見通しにつながった。米国商業用不動産の悪化の影響は、邦銀の経営にも飛び火してきているのである。

昨年3月の米銀破綻は、米国内の問題に留まったが、米国商業用不動産の悪化、米国景気の減速は、世界の金融機関の経営にも大きな逆風となる可能性があるのではないか。

図表 米国商業用不動産価格の推移

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