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日経平均終値史上最高値更新を主導した3つの要因『物価高・金融緩和・円安』の循環に逆回転のリスクも

2024/02/22

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生活実感と乖離した「水膨れの株高」

2月22日に、日経平均株価は1989年12月29日の終値3万8,915円87銭と史上最高値を取引時間内に一時上回った。

しかし個人にとっては、バブル期と同じ株価水準と言っても、その実感はない。足もとの経済状況は悪化している。2023年10-12月期の実質GDPは、前期比年率-0.4%と2四半期連続で減少した。特に物価高の逆風に晒されている個人消費は弱い。こうした経済状況とバブル期の最高値を上回った株価の動きとの間には、大きなズレがある。個人にとっては、まさに「実感なき株高」である。

重要なのは、足もとの株価上昇は、日本経済や企業の成長力向上、生活水準の向上をもたらす労働生産性上昇、国際競争力向上といった、「実質値」の改善を背景にしているようには見えない、という点だ。むしろ株高を支えているのは、物価高という「名目値」によるものであり、いわば「水膨れの株高」とも言えるのではないか。さらに、物価高下でも続く異例の金融緩和も、実質金利(名目金利-期待インフレ率)の低下と円安の双方を通じて株高を強く後押ししている。株高は、水膨れとともに金融現象による金融相場の様相である。

実質賃金の低下と企業収益拡大(株高の第1の構図)

足もとの株高は、「物価高」、「金融緩和」、「円安」の3要因間の循環、相乗効果によって成り立っている。それぞれについて、より詳細に見てみよう。

2022年以降、コアCPI(消費者物価、除く生鮮食品)の前年比上昇率は、第2次オイルショック直後の1980年代初頭以来、ほぼ40年ぶりの水準で推移してきた。食料品やエネルギーの上昇、円安による輸入インフレの色彩が強かったが、企業が輸入原材料価格の高騰分を製品価格に転嫁する中で、消費者物価上昇率も高まっていった。

他方、賃金上昇率は物価上昇率に追い付かない。日本では、物価が下落しても企業はベア(基本給)を引き下げることが難しいことから、一時的に物価上昇率が高まる際には、ベアの引き上げ率を物価上昇率以下に抑えることで、中長期的に物価上昇率と賃金上昇率のバランスを取る傾向が強い。その結果、実質賃金が下がり続けているのが現状だ。

実質賃金が低下することは、個人の生活水準が悪化を続けることを意味する。実質賃金の低下によって所得の分配は企業に偏り、企業の収益は拡大する。その結果、個人の生活実感は悪化する一方で株価は大幅高となり、両者の間でギャップが広がることになる。これが現在の「株高の第1の構図」だ。

物価高騰下での金融緩和(株高の第2の構図)

他方、歴史的な物価上昇の下でも、日本銀行は異例の金融緩和を維持してきた。その結果、企業、家計、金融市場の中長期のインフレ期待(予想物価上昇率)は上振れた。日本銀行は、中長期のインフレ期待を安定させるという中央銀行の役割を放棄し、ビハインド・ザ・カーブの状態に陥っている。その結果、実質金利(名目金利-インフレ期待)は顕著に低下したとみられる。

実質金利の低下は、通常は景気を刺激するが、その影響は明確に見られていない。2四半期連続での実質GDPマイナス成長にも表れているように、足もとの経済は低迷している。他方で実質金利の低下は、資産価格の押し上げには効果を発揮しているように見える。これが「株高の第2の構図」だ。それは、不動産価格の押し上げにも一定程度寄与しているだろう。

実質金利低下による金融緩和の強化が物価上昇期待を高め、それが実質金利のさらなる低下をもたらして資産価格の上昇を後押しする、といった循環メカニズムが生じている。

円安進行(株高の第3の構図)

さらに、実質金利の低下は、円安の流れを後押しする。円安は輸出企業の収益を拡大させることで株価を押し上げる。また、円安によって海外投資家にとって日本株が割安となり、それが日本株への投資を促すことでも株高要因となる。これが「株高の第3の構図」である。

物価高期待は低下へ

このように、「物価高」、「金融緩和」、「円安」は、互いに影響を与えながら、株価を強くけん引してきた。しかし、株高を支えるこれら3つの要因は、持続的なものではない。

コアCPIの上昇率は過去1年間、低下傾向を辿っており、今年の後半には1%台が定着するだろう。そして、日本銀行が指摘する、賃金上昇がサービス価格に転嫁されることで、より持続的な物価上昇が生じるとの見方も後退していくだろう。そうなれば、中長期のインフレ期待が低下して実質金利は上昇する。それは、円安の修正を伴う形で、金融緩和の株高効果を減少させるだろう。

日本銀行のマイナス金利政策解除は円高要因に

さらに日本銀行は、早ければ3月にもマイナス金利政策の解除に踏み切ることが考えられる。それは、実質金利を上昇させ、円安・株高の流れに水を差す。

日本銀行は、マイナス金利政策解除後も、政策金利は当面ゼロ近傍の低水準に据え置くとの見通しを示している。しかし、2%の物価目標の達成を前提にマイナス金利政策の解除に踏み切るのであれば、政策金利を当面ゼロ近傍の低水準に据え置くことは論理的におかしい。

2%の物価目標の達成とは、この先、物価上昇率、中長期のインフレ期待は2%程度で安定することを意味する。そのもとで、政策金利をゼロ近傍に据え置くことは、2%の物価目標の達成後に実質-2%程度の「超緩和」を続けることになってしまう。しかし日本銀行がそうした政策を続けるとの観測が、足もとでの急速な円安・株高を生じさせている面がある。

しかし、日本銀行の政策の論理的な矛盾をついて、金融市場の一部で、マイナス金利政策解除後に、日本銀行は比較的早期に金融政策を中立状態に戻していく、との観測が浮上する可能性がある。そうなれば、長期金利の上昇や急速な円の巻き戻しを生じさせ、株式市場に逆風となる。

米国経済のソフトランディング期待は修正の可能性

円安を支える要因は、米国にもある。米国でインフレ率が低下するなか、米連邦準備制度理事会(FRB)は、小幅な利下げに踏み切るとの観測が金融市場に強い。ただし、これは予防的な措置であり、米国経済の堅調は続くとの見方が多いのである。経済が堅調である中、金利が低下するというのは、米国株にとってまさにベストシナリオであり、それは世界経済・金融市場の楽観論を支え、リスクテイクの円安と日本株高の流れを促している面もある。

しかし、歴史的な物価高とそれを受けた大幅な利上げのもと、米国経済が安定を維持するというのは、過去の事例から考えて起こりにくいことだ。いずれ景気減速の兆候が広がれば、米国株が調整し、その影響は日本株にも及ぶ。また、FRBのより大幅利下げ観測が円高ドル安を生じさせるだろう。

「物価高」、「金融緩和」、「円安」の循環は、今まで強力に日本株を押し上げてきたが、それがひとたび逆回転を始めれば、日本株の強い逆風となるだろう。その転換点を正確に予測するのは難しいが、日本銀行が今年3月あるいは4月にもマイナス金利政策を解除するのであれば、その転換点はそれほど先のことではないと言えるのではないか。

図表 株高を支える3要素の相乗効果

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