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3月にも日銀がYCC撤廃と国債買い入れ額目標再導入との観測:量的引き締め開始までの時限措置

2024/03/11

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日本銀行が国債買い入れ額に新たな目標設定との観測

時事通信社は3月8日に、日本銀行が早ければ3月18、19日に開く金融政策決定会合で、マイナス金利政策解除と同時に10年国債利回りを0%程度にコントロールするイールドカーブ・コントロール(YCC)を撤廃することを検討していると報じた。

さらに、YCCの撤廃とともに、先行きの国債買い入れ規模をあらかじめ示す、新たな「量的」金融政策の枠組みの導入を検討している、としている。買い入れ額は当面、現行の月間6兆円弱の規模を軸に調整する、という。実際に、日本銀行が、こうした枠組みを検討している可能性はあるだろう。

YCCのもとでは、長期国債利回りの安定を維持するために、日本銀行が国債の大量買入れを強いられ、それが日本銀行のバランスシートを肥大させ、また国債の市場機能を低下させる、あるいは円安を加速させ、物価上昇圧力を高めるといった構造的な問題点があることが、2022年に広く認識された。

そこで、植田総裁体制の下での日本銀行は、異例の金融緩和の枠組みの中でもこのYCCが最も問題が大きいとの認識の下、2023年には2回にわたるYCCの運営の柔軟化措置を通じて、YCCの形骸化を相当進めた。

正常化過程での長期国債利回りの安定確保が狙い

筆者は、マイナス金利政策解除後の長期国債利回りの安定を確認したうえで、今年後半などにYCCを撤廃すると予想しているが、YCCの撤廃とともに、国債買い入れ額の目標を設定することで長期国債利回りの安定確保を目指す、このような枠組みを導入するという選択肢もあるだろう。実際、日本銀行は、YCCの撤廃は国債買い入れの見直しとセットで考える、といった趣旨の説明を先般していた。

この枠組みは、長期国債利回りが顕著に上昇する際に、国債の買い入れ目標を引き上げることなどを通じてそれをけん制し、YCCの撤廃後、そして短期金利を引き上げていく過程でも長期国債利回りの安定を維持することを狙うものと言える。また、マイナス金利政策解除、YCCの撤廃と同時にこうした枠組みを示すことで、長期国債利回りの上昇リスクを予め減じる狙いもあるのではないか。

政策目標を本格的に「量」に戻す訳ではない

日本銀行が2013年に「量的・質的金融緩和」を導入した際には、長期国債買い入れ額、マネタリーベース増加額といった「量」が政策目標となった。しかし、大量の国債買い入れがもたらす各種副作用に配慮して、2016年にYCCを導入し、「量」から「金利」へと政策目標を変更した。

今回、上記のような新たな枠組みを日本銀行が導入する場合でも、日本銀行が再び政策目標を本格的に「量」に戻す、と考えるのは誤りだろう。それは、時計の針を戻すようなものだ。この新たな枠組みは、あくまでも、量的引き締め策(QT)開始までの移行措置と考えられる。

QTが始まれば、日本銀行は、国債の残高削減ペースの目標を設定し、国債償還分の再投資を行いながら、緩やかに国債保有残高を削減していくことになるだろう。その時点で、この新たな枠組みの国債買い入れ額(グロス)目標は無くなる可能性が高い。

QT導入までの移行措置

日本銀行が3月にマイナス金利を解除する場合、政策金利(付利金利)は現行の-0.1%から+0.1%に引き上げられ、相当期間を経て、来年春頃に+0.3%までの政策金利引き上げが行われる、と筆者は現時点で予想している。その水準が当面のターミナルレート(政策金利の到着点)になり、その後に、日本銀行の金融政策正常化の中心は、YCCの柔軟化、撤廃、短期金利引き上げといった「金利」の正常化から、「量」の政策の正常化に局面を変えると見る。そして、国債保有残高を削減させるQTは2025年の後半に開始されると予想している。

こうしたスケジュールで仮に正常化が進む場合、日本銀行が検討していると報じられた国債買い入れ額に目標を設定する新たな枠組みも、QT開始までの2年に満たない短期的な措置となる。金融市場の混乱を避けつつ、正常化策を進めていくためのあくまでも時限的な移行措置なのである。

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