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株価大幅続落と日銀マイナス金利政策解除後の不確実性

2024/03/12

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強まる3月のマイナス金利政策解除観測

12日の東京市場で、日経平均株価は前場に一時500円超の大幅下落となった。前日には一時1,000円超の下落となったことから、2日連続での異例の大幅続落である。背景には、日本銀行が3月18・19日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策を解除するとの観測が強まり、それが長期国債利回りの上昇と円高を生じさせていることがある。

近年の物価高騰を受けて多くの中央銀行が大幅な利上げに動く中、日本銀行は異例の金融緩和を維持してきた。そうした日本銀行がいよいよ本格的な政策修正に動き、主要中央銀行の中で唯一残されたマイナス金利政策をやめることは、グローバルな資金フローにも大きな影響を与えうる一大イベントである。それでも、海外の債券、株式市場が調整色を強めていないのは、同時に米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が強まり、それが金融市場の安定を支えているという面があるだろう。

他方、その結果、日米の長期金利差が拡大、短期金利差の見通しも拡大し、その結果、ドル安円高が進んで、日本株に打撃となっている面がある。

マイナス金利政策解除後の不確実性:政策金利が迅速に引き上げられる懸念

金融市場は既に、3月の金融政策決定会合でマイナス金利政策が解除される可能性を相当分織り込んだ。しかし、その可能性を完全に織り込めば、あるいは実際に日本銀行が3月の会合でマイナス金利政策解除を決めれば、それで不確実性が解消され、金融市場が安定を取り戻すということではないだろう。マイナス金利政策解除後の日本銀行の政策についての不確実性が大きいからだ。

その不確実性に深く関わっているのが、2%の物価目標だ。日本銀行は、2%の物価目標の達成を宣言した上で、マイナス金利政策を解除する可能性が高そうだ。しかし、実際には、物価上昇率及び中長期のインフレ期待が2%の水準をこの先も維持する可能性は低いだろう。日本銀行は、見切り発車をするつもりなのである。

日本銀行は、マイナス金利政策解除後も、政策金利はゼロ近傍で当面据え置くとの見通しを示している。マイナス金利政策解除後に、金融市場が追加利上げ観測を強め、それが金融市場の安定を損ねてしまうリスクを抑えるための情報発信だ。

しかし、本当に2%の物価目標が達成されるのであれば、政策金利の中立水準は2%を超えるはずである。そこで、実際には、マイナス金利政策解除後に、政策金利は比較的迅速に引き上げられていく、との観測が金融市場に燻ぶり続けるだろう。

量的引き締め(QT)早期実施への懸念

また、2%の物価目標が達成されるのであれば、過去10年以上にわたって続けられてきた異例の金融緩和は一気に見直されるとの観測が市場で強まってもおかしくない。日本銀行は、「マイナス金利政策を解除すると同時にイールドカーブ・コントロール(YCC)を撤廃するが、新たに国債の買い入れ額に目標を設定することを検討している」との報道がある(コラム「3月にも日銀がYCC撤廃と国債買い入れ額目標再導入との観測:量的引き締め開始までの時限措置」、2024年3月11日)。

仮にそれが実施される場合には、日本銀行は、「マイナス金利政策解除後も、国債保有額の削減、つまりQTは直ぐには実施しない」とのメッセージを市場に送る狙いがあるだろう。それでも、ひとたび、日本銀行が2%の物価目標達成を宣言すれば、金利、量の両面から、一気に、かつ迅速に政策修正が行われるとの観測を金融市場が強め、それが円高・株安の動きを強める可能性は否定できない。

マイナス金利政策解除前に2%の物価目標を柔軟化すべきだが。。。

そのようなリスクに配慮すれば、日本銀行は、現時点では2%の物価目標の達成はまだ見えないとする一方、2%の物価目標を中長期の目標へと柔軟化し、そのうえで緩和状態を続けながら、緩やかにそして段階的に、副作用軽減を狙った政策修正に着手していく道を選択したほうが、金融市場の安定を確保しながら政策の正常化を実現できるだろう。

しかし実際には、日本銀行はマイナス金利政策を解除する前に、2%の物価目標を柔軟化する可能性は高くないだろう。そこには、2%の物価目標の達成のために異例の金融緩和を10年続けてきた黒田前体制の政策を否定しないこと、そして政策の継続性を維持することで、日本銀行の信認を損ねない、という狙いもあるのではないか。

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