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少子化対策の財源確保で『国民負担は生じない』との説明は本当か?

2024/04/02

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「支援金」の国民一人当たりの平均負担額は2028年度に月額450円

こども家庭庁は3月29日に、少子化対策の財源として医療保険料に上乗せして徴収する「支援金」について、加入者の負担額の試算値を公表した。加入する医療保険制度ごとに負担額に大きな差が生じることから、今後、不公平との批判が高まる可能性があるだろう。

政府は少子化対策に、2026年度までに年間3.6兆円の支出を行う。その財源は、歳出改革で1.1兆円、規定予算の活用で1.5兆円、そして支援金で1兆円としている。支援金の徴収は2026年4月から始める。2026年度には約6,000億円を徴収し、2028年度までにそれを1兆円にまで拡大する。

2028年度の国民一人当たりの月間平均負担額の推計値は450円となる。当初、政府は荒い試算として500円程度との数字を示していた。

公的医療保険について、令和4年3月末時点での被保険者数、つまり被扶養者ではなく保険料を負担する加入者本人の数は、(1)市町村国保が2,537 万人、(2)協力けんぽが2,507万人、(3)組合健保が1,641万人、(4)共済組合が477万人、(5)後期高齢者医療制度が1,843万人である。合計で9,005万人となる(図表)。

この9,005万人が、支援金の総額1兆円を平等に負担する場合には、その金額は一人当たり1万1,105円、月額925円となる。政府が示した数字がこれよりもかなり小さいのは、医療保険には雇用者(企業)負担分があるためだ。協会けんぽと組合健保、共済組合は、保険料の負担を労使折半しているため、支援金のために医療保険に上乗せする場合、個人の負担はその分小さくなる。

被保険者の家族を含む加入者一人当たりの負担額を医療保険制度ごとに計算すると、公務員が加入する共済組合は600円、大企業が多い健保組合は500円、中小企業が多い協会けんぽは450円となる(いずれも労使折半後)。自営業者らの国民健康保険は400円、後期高齢者医療保険は350円である。

実際には、支援金は、サラリーマンら被保険者の給料から天引きされる。被保険者一人当たりの平均負担額(2028年度)は、共済組合で900円、健康組合で850円、協会けんぽで700円となる。所得水準の高い人の月間負担額は1,000円を超えることになる。

図表 公的医療保険制度の概要

「実質的に国民の追加負担は生じない」、「国民負担率は高まらない」は本当か

一方で政府は、「支援金」の負担額について、歳出改革によって社会保険料の増加を抑えること、賃金が増加することで、「実質的に国民の追加負担は生じない」、「国民負担率は高まらない」と説明している。しかしこの説明に対して、「わかりにくい」との批判が生じている。負担が生じないと説明するのは、正確性と真摯さを欠くのではないか。

国民負担率とは、国民所得に占める租税負担と年金・健康保険・介護保険など社会保険料負担の合計の割合のことだ。政府は、社会保障の歳出改革で保険料の伸びを抑え、国民負担率をその分押し下げると説明している。

しかし、歳出改革で保険料の伸びを抑えるということは、社会保障支出が削減され、国民が受け取るサービスが減ることを意味する。その分だけ保険料の負担が減るとしても、国民にとっては中立的だ。そして新たに導入される医療保険料の上乗せ分だけ、国民の負担はやはり高まることになるのではないか。

さらに政府は、今春以降の賃上げにより負担率の分母が増えるため国民負担率は上がらない、とも説明している。しかしこれは、よくわからない説明でもある。通常、国民負担率は租税と社会保険料の負担を国民所得で割ることで求める。この国民所得は国内総生産(GDP)に近い概念だ。そのもとで、賃金上昇率が高まっても国民所得は変わらない。賃金の変化は、企業と労働者との間の分配に影響を与えるものの、GDPや国民所得には直接的には影響を与えない。従って、賃金が変化しても国民負担率には影響しないのである。

このように政府は、国民の間にできるだけ負担感が生じないように財源確保の手段を選択し、さらに負担が生じない点を強調した説明をしている。しかしそうした曖昧な姿勢こそが、国民の間に不信感を高める結果ともなっているのではないか。

政府は、少子化対策の重要性をしっかりと国民に説明したうえで、その負担を真正面から国民に求めることが重要だろう。少子化対策の重要性を多くの国民は十分に理解していることから、一定の負担を受け入れる覚悟は十分にあるのではないか。

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