トランプ前大統領に資金不足問題

バイデン大統領の選挙陣営が2月に調達した選挙資金は5,300万ドル（約79億円）余りとなり、資金総額は1億5,500万ドルに達した。これに対して、トランプ前大統領が調達した選挙資金の総額は7,440万ドルであり、バイデン大統領に大きく水を開けられている。さらに、昨年からの訴訟関連の費用は5,300万ドルを超えている。

トランプ前大統領は、共和党の大統領候補者となることがほぼ確実であるが、本選では、選挙資金不足が逆風となりかねない。TV広告や選挙陣営の人件費、オフィス利用費に巨額の資金が必要となる。

選挙資金不足のトランプ前大統領にさらに重荷となっているのは、訴訟関連費用だ。同氏は刑事事件の訴訟と民事事件の訴訟の双方を抱えているが、起訴された４つの刑事事件では、異議申し立てを連発して公判の先送りに成功している。他方、民事事件では、巨額の罰金支払い命令を受け、控訴手続きで必要な保証金確保のめどが立たない状況だ。

トランプ氏はこの訴訟では、一族企業が資産価値を偽って不当な利益を得たとして4億5,400万ドルの支払いをニューヨーク州地裁に命じられた。控訴審でもこれが支持されたが、弁護団は3月18日に、控訴中に罰金の保証金を引き受ける保証会社を確保できていないことを明らかにした。

トランプタワーが差し押さえのリスクも

保証金を用意できなければ、トランプ前大統領の資産が差し押さえられる可能性がある。ニューヨークのトランプタワーが差し押さえられるリスクがある。仮にそうなれば、トランプ前大統領にとっては大きなイメージダウンになるだろう。

保証金証書を差し出す期限であった3月25日に、ニューヨーク州地裁は保証金を１億7500万ドルに減額した。今や、トランプ前大統領は４月４日までに１億7500万ドルの保証金を支払う必要がある。

この事件以外でも、トランプ前大統領は名誉毀損訴訟で8,330万ドルの損害賠償を請求されている。それも、資金確保のめどは立っていない模様だ。

トランプ前大統領はトランプタワーの差し押さえを回避するため、「トランプタワーに手を出すな！」と100万人の支援者に献金を呼びかけている。選挙資金を個人的な支出に使うことは禁じられているが、トランプ氏は自身の弁護が選挙に関連しているとして政治献金を弁護士費用の一部の支払いに回している。

それ以外にも、トランプ陣営はロゴ入りの衣類やマグカップなどを販売して資金を集めようとしている。さらに、キリスト教徒らをターゲットに、1冊59.99ドル（約9千円）の特性の聖書「ゴッド・ブレス・ザ・USA聖書」を発売した。選挙資金と民事、刑事訴訟にかかる莫大な費用に充てる考とみられる。

3月26日には、トランプ前大統領が始めたソーシャルメディア運営会社トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループが、特別買収目的会社（SPAC）と合併する形で米証券取引所のナスダックに株式を上場した。トランプ前大統領は26日の取引終了時点で46億ドル相当の株式を保有しており、これを含めてトランプ前大統領の資産合計が65億ドルとなり、世界で最も裕福な500人に初めてランクインしたとブルームバーグ社は報じている。

しかし、その株式には約６か月のロックアップ期間があり、すぐには売却や譲渡をしたり、融資の担保として利用したりすることはできない。トランプ前大統領の綱渡りの資金繰りはなおも続く。

（参考資料）
"2 Donald Trump Is Richer Than Ever — Yet Still Strapped For Cash （トランプ氏、資産急増でもかつてない苦境－選挙資金で訴訟費用工面）", Bloomberg, March 28, 2024
「トランプ氏、SNS会社上場で富豪入り　特製聖書も販売、なお選挙資金は苦戦」、2024年3月28日、産経新聞速報ニュース
「バイデン氏、資金調達でトランプ氏を大きくリード」、2024年3月21日、ダウ・ジョーンズ米国企業ニュース
「トランプ陣営、支持者100万人に献金訴え　民事訴訟で保証金払えず」、2024年3月21日、ロイター通信ニュース

執筆者情報

• 木内 登英

  エグゼクティブ・エコノミスト