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政府は外国人材受け入れ拡大に動く:移民に近い特定技能2号の大幅拡充を

2024/04/04

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特定技能制度見直しで外国人材受け入れを拡大

政府は深刻な人手不足を外国人材で補う、特定技能制度の拡充に乗り出した。特定技能制度は、2019年4月に導入された制度で、特に人手不足が深刻な介護、建設など12分野に限定して創設された在留資格だ。最長5年の期限がある「1号」と、より熟練した技能を条件として期限なく延長でき、家族の呼び寄せも可能である「2号」とがある。

特定技能制度が2019年に導入された際には、1号について、5年間で最大34万5千人の受け入れが見込まれた。しかしその後、コロナ問題で外国人の新規入国が停止したことなどから、資格者は2023年末で約21万人と、当初見込みの6割程度にとどまる。

現状では、外国人の入国が再開される一方、国内での人手不足がより深刻化していることから、2024年度から2028年度までの向う5年間の受け入れ枠を82万人と従来の枠の2.4倍、実績値の4倍近くまで一気に拡大させた。また、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野を新たに追加し、計16分野とする方針だ。

4月には残業時間の上限が規制され、物流への影響が懸念される自動車運送業では、バスやタクシー、トラックの運転手などに外国人を新たに受け入れる方向である。しかしなお障害は残されており、海外で取得した運転免許を日本の免許に切り替える必要があるほか、バスやタクシーでは、日本の「2種免許」の取得や研修の修了も条件となる。また企業側は、一定程度の日本語会話の水準をバスやタクシーの運転手の条件とすると見られることから、一気に外国人材の活用が進んで「2024年問題」が緩和される訳ではないだろう。

2号の対象については、政府は制度導入時に、建設と造船・舶用工業の2分野に限定していた。しかし、2023年8月には他分野にも範囲は拡大し、2号資格の試験は、産業機械など製造分野、農業や外食などでも既に実施されている。ただし、2号の資格者は2023年末でなお37人にとどまっている。

また政府は、人権侵害も疑われてきた実習制度も見直しており、実習期間中の他企業への転籍を可能とする。さらに、実習生を特定技能1号に転換させる道筋を強化し、外国人材を長く確保する方針を固めている。名称も、新たに「育成就労」制度とする方向だ(コラム「外国人技能実習制度の見直し:人権保護を最優先に選ばれる日本に:人手不足対策を超えて日本経済の中長期の潜在力向上の視点も」、2023年11月24日)。

外国人材活用は日本の潜在成長率に大きく影響

国立社会保障・人口問題研究所が昨年4月に公表した将来推計人口では、2070年の人口は8,700万人と、2023年の推計値1億2,441万人から30%の大幅減少となる。

ただしこの推計は、外国人が増加していくことが前提となっている。2022年6月末時点の在留外国人数は296万1,969人(出入国在留管理庁)だ。この人口推計では、外国人は2022年以降毎年16万3791人増加していく前提である。その場合、2070年の外国人の人口は、約1,082.49万人となる計算だ。これはその時点の推計人口全体の12.4%に相当する。

2022年の人口全体に占める外国人の比率は2.4%である。その比率が約50年後の2070年には12.4%まで上昇する、つまり外国人の比率が現在の50人に1人強から10人に1人強にまで高まることが想定されているのである。

このように、外国人が急速に増加することを前提にしても、日本人口は2070年には30%減少する。外国人の増加ペースが想定よりも緩やかであれば、人口減少のペースはさらに速くなり、日本経済により大きな逆風となるだろう。

2070年までの間に、人口減少によって日本の潜在成長率は年平均で0.48%押し下げられる計算となる。仮に外国人が増加しない場合には0.62%押し下げられる(図表)。

日本経済や国民の生活に強い逆風となる人口減少を緩和するためには、現在意見が分かれるところではあるが、外国人の受け入れ積極化が一つの解決策となるだろう。

図表 人口変化の潜在成長率への影響(年間平均、%)

鍵は特定技能2号の拡充

政府が特定技能1号を拡充しても、外国人材の確保が進み、企業の人手不足が大きく緩和されるかどうかは明らかではない。

円安進行の影響もあり、海外から見た日本での就労のメリットは低下している。そのため、韓国など他のアジア諸国に人材が流れていっているのが現状だ。「選ばれる日本」を目指して、外国人材確保に向けた制度の見直しを早急に進めていく必要がある。

鍵を握るのは、特定技能2号の大幅拡充ではないか。特定技能1号と2号とでは、熟練度、専門性に違いがあるが、それに加えて、在留期間が1号は最長5年、2号は延長に制限がないことから、事実上の永住が可能となる。

1号は、国内の人手不足を外国人材で埋めるという日本側の都合に基づいた制度と言える。せっかく技能を身に着けても、人手不足が解消されれば直ぐに在留資格を失うのであれば、外国人労働者にとっては魅力的な制度とは言えないのではないか。

また、特定技能1号の枠を拡大し、人手不足が深刻な景気拡大局面での生産活動の天井を押し上げても、それは上方への景気の振れ幅を大きくすることに他ならない。成長率のトレンドを高め、ひいては設備投資の増加を伴う形で、労働生産性と日本国民の実質賃金上昇率を高めることにはならないのである。

そうした経済の潜在力向上、日本国民の実質賃金上昇率向上をもたらすのは、期限なく日本で働くことで長期間の労働力を提供し、また、家族の呼び寄せを通じて消費者の増加、出生率の向上などに貢献する特定技能2号である。

実際、家族と暮らせることを条件にして、働き場所として日本を選択する外国人も少なくないだろう。

移民受け入れを国民的議論に

日本で移民の受け入れが本格的に議論され始めたのは、少子化問題の深刻さが理解された2000年頃だ。2000年に小渕恵三首相の諮問機関が「多くの外国人が日本に暮らし、働きたいと思える移民政策をつくることが必要」と指摘した。また2008年の福田政権下では、自民党議員連盟が「人材開国 日本型移民政策」を提言した。

しかしその後は、中国や韓国との領土問題で国民感情が悪化し、また自民党では「保守派」を中心に移民反対論が勢いづいてしまい、移民受け入れ議論は後退していった。

2012年以降の第2次安倍政権は、「国際貢献」を名目とした技能実習制度を順次広げていった。そして2019年には新たな在留資格「特定技能」を創設し、家族帯同や永住にも道を開いたのである。

しかしながら、自民党内あるいは国民の間で移民反対の意見は根強いことから、政府は「移民政策ではない」との説明を続けている。そのため、外国人材の活用も思ったようには進んでこなかった面があるのではないか。

日本経済の活性化には、外国人材の積極活用は必要だ。今こそ、移民受け入れの議論を逃げずに真正面から取り上げ、国民的議論にすべきだろう。それを踏まえて、特定技能2号の大幅拡充、そして現在の実習生制度から特定技能1号、特定技能2号へと各制度の連携の流れを強化することで、質の高い外国人労働力を長期にわたって確保していく必要がある。

外国人に労働を奪われるとの懸念も国民の間でなお根強いとみられるが、外国人材を受け入れることで、経済の潜在力と将来の成長期待が高まり、それが企業の設備投資を促せば、経済全体の労働生産性が高まり、経済全体の実質賃金上昇率が高まるはずだ。つまり、外国人材受け入れによって、日本国民全体の生活が改善されるのである。

政府は、外国人との共生という社会的側面の制度設計、環境整備を進めることと並行して、外国人材の積極活用を進め、それを成長戦略の柱の一つに位置づけて欲しい。

(参考資料)
「特定技能 導入5年 拡大着々 外国人労働、受け入れの中心に」、2024年4月1日、中日新聞
「人口減と移民 「外国人1割社会」へ議論を」、2024年4月1日、京都新聞
「特定技能、公共交通も追加 外国人労働者、運送や鉄道に 4分野、閣議決定」、2024年3月30日、朝日新聞

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