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日銀植田総裁インタビュー:狙いは円安けん制と「政策反応関数」の提示か:金融政策正常化は円安・株高の強い逆風

2024/04/05

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春闘での賃金上振れが物価に与える影響に注目

4月5日付の朝日新聞は、「利上げ判断 夏から秋にも」との見出しで、植田日銀総裁の単独インタビューを掲載した。これが、同日の金融市場に大きく影響し、円高、株安が進んだ。

ここで「夏から秋」としているのは、今年の春闘での賃金の上振れが物価に与える影響を確認できる時期の目途を指している。ただし、インタビューの詳細を読むと、総裁は夏から秋の時期の追加利上げに直接言及している訳ではなく、発言と見出しとの間に乖離も感じられる。

植田総裁は、2%の物価目標達成の確度が高まることを示す経済データが得られれば、その確度の変化に応じて金利を調整していく、との考えを示している。この点から、春闘での賃金の上振れが物価に与える影響が想定以上であれば、日本銀行が比較的早期に追加利上げに動く可能性は確かにあるだろう。

他方で留意したいのは、植田総裁が「(物価上昇率が)2%を超えるリスクが目に見えて高まる可能性は、現時点では、そんなにないと思います」と明言している点だ。いわゆる政策対応が後手に回ってしまう「ビハインド・ザ・カーブ」のリスクを日本銀行は心配しておらず、追加利上げを急ぐ必要性は感じていないだろう。

円安けん制の狙いも

もう一点注目されるのは、円安についての総裁の発言だ。「為替の動向が、賃金と物価の循環に無視できない影響を与えそうだということになれば、金融政策として対応する理由になります」という発言は、かなり踏み込んだものだ。円安が追加利上げを促すことを明確に説明している。そして、こうした発言を意図してしたとすれば、それは足もとで進む円安をけん制する、「口先介入」の一種と言えるのではないか。

総裁は同日の国会でも、「為替は経済物価に影響する重要な要因」、「政府と密接に連携」、「十分注視」など、円安けん制を狙ったかのような発言をしている。

金融市場はかなり緩やかなペースの利上げを想定

マイナス金利政策解除後の日本銀行は、金融市場の期待と一致する形で、政策修正を進める考えとみられる。市場の短期金利見通しを示すオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)レートは、12か月物で0.18%である。これは、向う1年の間に1回の追加利上げがあるかどうかといった水準だ。金融市場はこのように、かなりゆっくりとした利上げを想定しているのである。

日本銀行がそうした市場の金利観に違和感を持つ場合には、それを指摘する強いメッセージを出すことで、市場の期待を修正し、市場と日本銀行の間の認識のギャップを埋めるようにするだろう。

今回のインタビューには、そこまでの意図は感じられず、日本銀行も現時点ではかなり緩やかな利上げを想定しているのではないか。

日本銀行は「政策反応関数」を市場に提示

他方、この先も経済環境変化に応じて、金融市場の金利観も柔軟に変化していき、日本銀行の認識との間に大きなずれが生じないことを日本銀行は望んでいるだろう。そのためには、経済環境がどのように変化すれば、金融政策にどのような変化が生じるかを示す「政策反応関数」を市場に示しておくことが重要となる。今回のインタビュー記事で、日本銀行側には、円安をけん制する狙いとともに、この「政策反応関数」を市場に示す狙いがあったのではないか。

その「政策反応関数」の変数として重要なのは、第1に2%の物価目標達成の確度を示す経済データであるが、当面は、春闘での賃金の上振れが、サービス価格を中心にどの程度価格に転嫁されていくか、である。そして第2が、円安だろう。

追加利上げ時期のメインシナリオは年明けだが早まるリスクも

筆者は、春闘での賃金の上振れは、輸入物価高騰、いわゆる「輸入インフレ・ショック」の影響によるところが大きく、日本経済がそのショックを吸収して正常化していく過程の一つと考える。

仮に賃金上昇が一時的にせよ物価に顕著に転嫁されれば、実質賃金の上昇は遅れ、個人消費の弱さが続くことで、結局は企業の値上げを難しくさせてしまう、と考える。

賃金の価格転嫁がそれほど進まず、また、政府の介入の効果もあり、今後行き過ぎた円安が修正されていく場合には、金融市場の金利観に沿う形で日本銀行は追加利上げを実施していくことが見込まれる。その場合、次回の追加利上げの時期は、来年年明けになると見ておきたい。

しかし、想定以上の賃金の価格転嫁が見られ、また円安が進行する場合には、最短で今年9月の追加利上げの可能性が生じるだろう。

日銀正常化は金融市場に大きな影響力

植田総裁のインタビュー記事は、4月5日の東京市場に非常に大きな影響を与えた。1ドル152円一歩手前まで円安が進んでいたドル円レートは、一時150円台まで円高方向に押し戻された。この円高と米国株下落の影響から、日経平均株価は一時1,000円近くの大幅下落となった。

このことは、日銀の利上げ観測が、金融市場に大きな影響力を持っていることを改めて証明したものだ。この先も続く金融政策の正常化策は、金融市場で円安・株高の強い逆風を生むこととなるだろう。

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