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3月の米雇用者数は予想以上の増加:FRBの利下げ期待はさらに後退

2024/04/08

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雇用増加の上振れは移民増加の影響か

米労働省が4月5日に発表した3月雇用統計で、雇用者増加数が予想以上に増加したことで、金融市場では、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測がさらに後退した。現状では、年内の利下げ観測はなお維持されているが、この先の経済指標次第では、年内の利下げ見送り、あるいは利上げ観測が浮上する可能性も考えておかねばならないかもしれない。その場合には、米国市場では大幅な債券安、株安、ドル高が引き起こされるだろう。

3月の雇用統計で、非農業雇用者数は前月から30.3万人増加した。これは、事前予想の20万人程度を大きく上回った。足もとではレイオフの増加を示すデータが見られていたことから、雇用者増加数は過去数か月の水準を下回ることが広く予想されていた。3月の雇用者増加は、ヘルスケアや娯楽・ホスピタリティ、建設業がけん引した。また、失業率は3.8%と2月の3.9%から低下した。4%を下回るのは26か月連続となる。

他方で、3月の時間当たり賃金は、前年同月比+4.1%と2月の同+4.3%から低下した。雇用増加数が上振れるなかでも、賃金上昇率は着実に低下している。この数字によって、FRBの年内利下げ観測は維持され、金融市場の動揺が回避されている、と言えるだろう。

雇用者増加数の動きを見ると、足もとでは増加トレンドに転じつつあるようにも見える。他方で、失業率は緩やかな上昇トレンドが続いている。これらは、足もとの新規雇用の増加が、失業者の減少よりも新規に労働市場に参入した労働者によってもたらされていることを示唆している。実際、3月の労働参加率(16歳以上の人口に占める就業者と失業者の合計)は62.7%と2月の62.5%から上昇した。

さらに、労働市場への新規の参入は、移民の増加によってもたらされているとみられる。労働供給の増加を伴う新規雇用増加であれば、労働需給の逼迫、賃金上昇率の上振れによるインフレリスクの高まりを強く警戒する必要はないことになる。

パウエル議長の利下げ前向き姿勢は変わらないか

パウエル議長は、年内の利下げを強く示唆する発言を繰り返している。その際、雇用については、「雇用が強いことが利下げを妨げるものではない」との説明をしてきた。その背景にあるのは、移民などの労働供給の増加による雇用増加は、インフレリスクを高めるものではない、という考えだろう。

実際、パウエル議長は、足もとでの堅調な新規雇用増加は、移民の急増によるものと考えている。他方で、「それは永続するものではない」ともしている。そして、「雇用が下振れれば、インフレ率の低下ペースが鈍っても利下げが必要になる」との主旨の発言もしている。移民増加の勢いが低下し、新規雇用増加数が縮小すれば、それが利下げ開始の引き金になるとの考えだろう。

移民増加はコロナ問題が深刻だった時期に大きく縮小した反動、という側面が強い。また、米国内では、不法移民のみならず合法的な移民の増加も警戒する意見も高まってきている。この点から、移民の急増は持続的ではないだろう。

今回の雇用統計を受けて、パウエル議長の発言が変化するかどうか注視する必要がある。引き続き利下げに前向きな姿勢は、この雇用統計だけでは覆らないように思えるが、ニュアンスの変化は見逃せない。

利下げ観測の変化は日銀の追加利上げにも影響

他方で、従来から利下げに慎重な姿勢であったFRB高官は、この雇用統計を受けてその姿勢を一段と強めている。ダラス連銀のローガン総裁は5日に、利下げを検討するのは時期尚早だと指摘した。最近見られる高めのインフレの数字に加え、利上げが以前に考えられていたほど景気を抑制していない可能性を示す兆候を理由に挙げている。

またFRBの本部理事であるボウマン理事も、インフレの上振れリスクに対して警戒感を示し、利下げを検討するのは時期尚早だ、と改めて表明している。さらにボウマン理事は、「インフレの進展が停滞もしくは反転した場合には、政策金利を引き上げる必要が出てくる可能性はある」と利上げにも言及している。

今回の雇用統計を受けて、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)予想の確率は約52%と半分程度にまで低下した。さらに、7月までのFOMCでの利下げの確率も100%を割り込んだ。また、年内の利下げ幅の予想は、約0.67%ポイントとFOMC見通しに示された0.75%ポイントを下回っている。

雇用統計を受けても、年内2回から3回の利下げの期待は維持されている。しかし、この先、さらに強めの指標が出れば、利下げ時期の期待は後ずれし、また期待される利下げ回数も減少するだろう。そうなれば、米国長期金利の上昇とドル高が生じよう。その場合、円安ドル高が進み、日本銀行の追加利上げの時期が前倒しとなり、今年9月以降に追加利上げが実施される確率が高まっていく。

しかし、利下げ期待が消滅する、あるいは追加利上げ期待が生じる際には、米国市場には激震が走るだろう。急速なドル安、債券安に加えて、大幅な株価下落が引き起こされる可能性がある。そうなれば、日本銀行の追加利上げも阻まれることになるだろう。

金融市場の混乱という事態を引き起こさないように、今後パウエル議長は、市場の利下げ観測をつなぎとめることを意識した情報発信をしてくるのではないか。

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