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賃金上昇分の価格転嫁は個人消費回復の妨げに(2月毎月勤労統計)

2024/04/08

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実質賃金上昇率が安定的にプラス基調となるのは2024年10-12月期

厚生労働省は8日に2月分毎月勤労統計を公表した。2月の現金給与総額は前年同月比+1.8%増加し、実質賃金は同-1.3%と23か月連続での低下となった。

春闘での賃上げ率は事前予想を大幅に上回ったが、その影響が毎月勤労統計の賃金に表れてくるのは、年央頃になるだろう。さらに、それが物価に与える影響が確認できるのは、夏以降となるだろう。

春闘の結果を受けて、ボーナスや残業代などを含まない、基調的な賃金部分である所定内賃金の前年比上昇率のトレンドは、現在の+1%台半ば程度から、今年後半には+3%程度にまで高まることが予想される。毎月勤労統計で実質賃金の計算に使われる消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く総合)は、前年同月比でコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価)よりも0.5%ポイント程度高い。

これらの点から、コアCPIの前年比上昇率が2%台半ばの水準を下回ってくると、実質賃金上昇率は安定的にプラスに転じる計算となる。その時期は、2024年10-12月期と見たい。

図表1 実質賃金上昇率の推移

個人消費への逆風は続く

春闘で賃金上昇率が予想以上に上振れ、また2024年10-12月期に実質賃金上昇率がプラス基調に転じても、それで個人消費が力強さを増す訳ではないだろう。さらに、個人消費の弱さが続くなかでは、積極的な値上げも続かない。

2022年以降、日本は「輸入インフレ・ショック」に見舞われた。物価上昇に賃金上昇が追い付かない時期が続く中、2021年平均と2023年平均との比較で実質賃金は4.2%も低下してしまった(図表2)。この先、実質賃金が前年同月比で上昇に転じるとしても、「輸入インフレ・ショック」前の水準まで戻るには、まだ何年も要するだろう。

また、実質賃金が大きく下振れる中、労働分配率も大きく下振れてしまった。企業に偏った分配が「輸入インフレ・ショック」前の水準まで戻るには、やはり何年も要するだろう。賃金上昇率の上振れは、「輸入インフレ・ショック」による物価高騰を後追いする、いわば正常化の過程と考えられる。しかし、その正常化はまだ始まったばかりであり、「輸入インフレ・ショック」の後遺症はまだ長く残る。

図表2 実質賃金指数の推移

賃金から物価への転嫁は正常化を遅らせる

日本銀行は、輸入物価上昇を起点とする物価上昇(第1の力)が、賃金に転嫁され、さらにそれがサービスを中心に価格に転嫁されること(第2の力)で、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇が実現することを期待している。また、今夏から秋にかけて、それが確認されることが追加利上げのきっかけになる可能性を示唆している。

しかし、輸入物価の上昇、そして、賃金上昇の一因である労働力不足は、ともに日本経済にとって強い逆風だ。その2つが組み合わされることで、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇が実現し、日本経済の追い風になるという「災い転じて福となる」とのシナリオは都合よすぎるのではないか。

個人消費への逆風がこの先何年か続くのであれば、それは企業の価格転嫁を制約し、その結果、物価上昇率、賃金上昇率は緩やかに低下していくことが予想される。物価上昇率が2%程度で安定し、2%の物価目標が達成するという根拠は乏しいと考える。

賃金上昇が価格に本格的に転嫁されれば、それは実質賃金の回復を遅らせ、「輸入インフレ・ショック」からの日本経済の正常化を遅らせてしまうため、決して良いことではない。

9月追加利上げの条件は

ただし、大幅に増加した賃金が、今年夏場以降、サービス価格に目立って転嫁される可能性は一時的にはあるかもしれない。それを捉えて、日本銀行が9月の金融政策決定会合で、0.2%あるいは0.25%の追加利上げを実施する口実とする可能性も考えておかねばならないだろう。

それ以外に、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げの時期や為替動向なども、日本銀行の追加利上げの時期に影響する。FRBの利下げ先送りなどを受けて、想定以上に円安が進む場合には、9月の追加利上げの可能性がその分高まる。

一方、国内物価、為替動向などでこのような条件が満たされない場合には、日本銀行の追加利上げの時期は来年1月になると見ておきたい。

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