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ドル円レートは防衛ラインを超えて一時1ドル153円台に:為替介入はいつ実施されてもおかしくない状況

2024/04/11

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岸田首相訪米が為替介入の障害になった可能性

4月10日の米国金融市場で、ドル円レートは一時1ドル153円台まで円安が進んだ。約34年ぶりの円安水準だ。

日本政府は、1ドル152円程度を防衛ラインと考えていると推測されるが、為替市場も同水準で円買いドル売りの為替介入が実施される可能性を強く意識した結果、3月下旬以降、152円に達する直前の水準でドル円レートは長らく膠着していた。

その膠着を崩したのは、10日に発表された米国3月CPIが事前予想を上回り、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が一段と後退したためだ。

防衛ラインを超えて円安が進んだ10日の米国金融市場で、日本政府は円買いドル売りの為替介入に動いてもおかしくなかった。しかし、実際には介入を実施しなかった理由として考えられる要因の一つは、国賓待遇で訪米中の岸田首相が、同日にバイデン大統領と首脳会談を行い、その後に記者会見が予定されていたことではないか。

米国政府は、先進国による為替介入については、為替操作につながるものとして、基本的には批判的だ。仮に岸田首相の訪米中に日本政府が為替介入を行えば、歓迎ムードに水をさすことになりかねない。さらに、首脳会談後の記者会見で、岸田首相が説明を求められる可能性も考えられた。

1ドル152円は防衛ライン

日本政府は、為替の特定水準に目標のようなものは設定していない、というのが公式見解だ。しかしこれは、為替の水準や方向性を意識した為替介入は為替操作に当たり、為替介入が容認されるのは、投機的な動きを背景にボラティリティが過度に高まる場合に限定される、とする米国政府の見解に配慮したものだ。

実際には、2022年、2023年に円安のピークとなった1ドル152円程度を超えて円安が進めば、円安に弾みがついてしまい、さらなる国内の物価上昇を促すことを警戒していたはずだ。従って、1ドル152円程度は、日本政府の防衛ラインと考えられる。

ドル円レートは、10日に1ドル153円台まで円安が進んだ後、再び152円台まで押し戻され、円安が一気に進むという事態はなんとか回避されている。これは、FRBの利上げ観測の後退が米国長期金利の上昇や米国株の下落を生じさせ、そうした金融市場の不安定化がリスク回避の円買いを生じさせていることが一因と考えられる。

さらに、円安進行が国内物価を押し上げることで、日本銀行の追加利上げが早まるとの観測も、さらなる円安を食い止める要因となっている。

政府は1ドル155円の第2防衛ラインまで待たずに為替介入実施:円押し上げ介入も

しかし、円が1ドル152円の防衛ラインを超えた状況では、いつ日本政府による為替介入が実施されてもおかしくない状況だ。日本政府は1ドル155円程度を第2防衛ラインと考えている可能性があるが、円がその水準に接近することを待たずに、介入に踏み切るだろう。

介入のきっかけとしては、1日で1円以上円安が進む局面を受けて、ボラティリティが高まったとして為替介入に踏み切る可能性だ。もう一つの可能性は、円がやや円高方向に振れたタイミングを狙って、円の押し上げ介入に動く可能性だ。円安圧力が強い時期には、為替介入を実施しても、その効果が限定的となってしまい、悪いケースでは、介入が市場にドル買い円売りの機会を提供してしまう恐れもある。他方、何らかの理由で円高に振れた局面を捉えて円の押し上げ介入を実施すると、比較的容易に円高誘導ができることがある。

為替介入と利上げの組み合わせは円安抑制に効果的

FRBの利下げ時期の後ずれと円安進行は、日本銀行が比較的早期に追加利上げを実施する可能性を高める要因だ。こうした傾向がさらに進む場合には、日本銀行は最短で今年9月に追加利上げに踏み切ると考えられる。

円安局面で日本銀行は、円安の抑制効果を狙って、追加利上げの可能性を匂わす発言をする可能性があるだろう。これは一種の口先介入だ。その結果、この先も、円安が進むほど、金融市場での日本銀行の追加利上げ観測は強まる見合いにある。

日本銀行は3月にマイナス金利政策解除に踏み切ったことで、追加利上げという円安阻止に向けた強力な武器を手に入れた。政府と日本銀行が連携し、為替介入と利上げを組み合わせることで、最終的には円安を抑え込むことは可能だろう。この点から、1ドル150円台前半で円安に歯止めがかかると現状では見ておきたい。

ただし、大きなリスクは米国側にある。この先、経済・物価指標の上振れによってFRBの年内利下げ観測がなくなる、あるいは利上げ観測が本格的に出てくる場合には、ドル円レートの先行きの不透明感はかなり強まるだろう。

そうしたもとでは、ドル高円安が一気に強まる可能性がある。他方で、それを引き金に米国金融市場が混乱すれば、再び利下げ観測が浮上する、あるいはリスク回避の円買いの動きが出てくることも考えられる。双方向の要因が交錯することが、為替市場のボラティリティを大きく高める展開も考えられるところだ。

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