中国政府はいつ不動産救済に本腰を入れるのか
万科企業が政府の政策の試金石に
中国の不動産市場は深刻な状態が続いている。中央政府が思い切った不動産開発会社(デベロッパー)の支援策に乗り出さない限り、問題は何年も続くことになるだろう。それは、中国経済の成長力を一段と低下させ、デフレ的な傾向を強めることになる。
格付会社S&Pグローバル・レーティングによると、不動産危機によってデフォルト(債務不履行)した中国の不動産開発会社のドル建て債は、総額で1,400億ドル(約21兆8,000億円)に上る。また、未完成の住宅も数百万戸ある。
経営不振に陥った中国の大手不動産開発会社の中で、過去数年は、恒大や碧桂園に注目が集まっていた。多くの投資家は、碧桂園は大き過ぎてつぶせないだろうと考えていたが、実際には同社のドル建て債はデフォルトしてしまった。碧桂園は今月9日、2本の国内債について期日までに利払いを履行できなかったが、国有保証会社が救済に動くとの見通しを示している。
現在投資家が最も注目しているのは、中国南部の大手不動産開発会社の万科企業だ。同社は、今のところは経営破綻を回避できているが、厳しい経営環境は続いている。3月の万科の新築住宅販売額は34億ドルで、前年同月比42%減だった。
同社のドル建て2027年償還債は今月9日の時点で、額面1ドル当たり0.48ドル程度で取引されている。一定程度のデフォルトリスクを織り込んでいる水準だ。
同社が注目されているのは、政府の同社への対応が、不動産不況全体に対する政府の姿勢を占う試金石となるためだ。万科は国有企業ではないが、国有の深圳市地鉄集団が万科株の約3分の1を保有している。そのため、政府が不動産開発会社の支援に本格的に乗り出す場合には、同社が真っ先にその対象になるとの期待がある。
S&Pグローバル・レーティングは4月10日に、万科の格付けを3段階引き下げた。3段階の格下げは異例なことだ。万科は4月初めに、深圳政府が同社のキャッシュフローを支援するため、複数の国営企業と調整していることを明らかにした。また万科は自社プロジェクトのうち42件について、約23億ドルの新規融資を確保したことも明らかにしている。この融資は、中央政府が銀行に融資を奨励する「ホワイトリスト」プログラムの一環として実施されるものだ。
万科の次の注目は、6月に期限を迎える6億ドルの社債の償還だ。同社では2029年末までにさらに50億ドルのドル建て債が償還期限を迎える。今のところ、中央政府が同社の救済、支援に本格的に乗り出した兆候は見られない。
政府は売れ残り住宅の買い取り策を検討
中国政府は、全国の地方政府に数百万戸の売れ残り住宅を買い取らせる案を検討している、と5月15日にブルームバーグ社は報じた。国務院はこの計画について、幾つかの省および政府機関に意見を求めているという。
具体的には、地方政府系の企業は、国有銀行が提供する融資を利用して、不良債権を抱えたデベロッパーから売れ残った住宅を大幅な値引きで購入する手助けをするよう求められる。
中国共産党は4月30日に、不動産危機を和らげる新たなアプローチを探る、と表明していた。この計画は、その一環と考えられる。
しかし、この計画もいくつかの点で、従来の施策とは一線を画す積極策とまでは評価できない。第1に、中央政府ではなく、地方政府の施策であること、第2に、財政資金を直接投入することなく、地方政府系の企業、国有銀行にリスクを負わせること、第3に、住宅需要の減退をもたらした、支払いを済ませたものの建設が完了していない住宅、いわゆる未完成住宅への対応ではないこと、などから、依然として本腰を入れた政府の不動産危機対策とは言えないだろう。
万科企業のデフォルトリスクが高まった際に講じる支援策が、政府による本格的な不動産危機対策の始まりとなる可能性もあるだろう。
(参考資料)
"Even a State-Linked Giant Can't Escape China’s Real-Estate Crisis(中国不動産危機、政府系大手も免れず)", Wall Street Journal, May 13, 2024
「中国、売れ残り住宅の買い入れ検討-過剰供給の緩和目指す」、2024年5月15日、ブルームバーグ
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