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新札発行の経済効果は1.6兆円程度か:広く流通する最後の紙幣となるか

2024/06/05

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新札発行まで1か月

20年ぶりとなる新札の発行の時が、一か月後の7月3日に迫ってきた。新札の一万円札は渋沢栄一、五千円札は津田梅子、千円札は北里柴三郎の肖像が、それぞれデザインされている。

新札を発行する最大の目的は、偽造防止の強化である。一般に、新札発行から時間が経過すると、技術が陳腐化し、偽造のリスクが高まる。そこで今までも、20年に1回程度の頻度で新札が発行されてきた。今回の新札には、肖像が三次元に見えて回転する「ホログラム」など、最先端の技術が利用されている。

加えて、誰でも利用しやすい「ユニバーサルデザイン」の導入も目的の一つだ。指で触って券種を識別できる工夫や、額面の数字を大きくし、券種を識別しやすくする工夫などが施されている。

経済効果は1兆6,300億円程度か

新札が発行されると、自動販売機、ATM、セルフレジなどを保有する業者は、新札に対応するように、新しい機種への入れ替えやシステムの改修を迫られる。これは、当該業界にとっては大きな負担となるが、一方でこれが、新札発行が生み出す経済効果でもある。

財務省が新札発表直後の2019年4月10日に衆議院財務金融委員会で示した日本自動販売システム機械工業会の試算によれば、新紙幣・硬貨を見分けるため、紙幣のデザイン刷新への対応で約7,700億円、500円硬貨の素材・細かな形状変更への対応で約4,900億円、合計で1兆2,600億円のコストがかかる見込みという。

2021年に発行された新500円硬貨については、今回の新札発行のタイミングに合わせて、新機種購入やシステム改修などの対応をすることを決めた業者が少なくない。その結果、新500円硬貨に対応した自動販売機は全体の7割程度にとどまるという。

さらに業界試算によると、ATMの新札対応コストは全体で約3,709億円と推定されている(GiG Works AddValue Inc.による)。以上を合計すると、新札発行への対応コストは約 1兆6,300億円となる。それは、年間の名目GDPを+0.27%程度押し上げる経済効果となる計算だ。

タンス預金への影響は小さい

新札発行がもたらす副次的効果として、タンス預金を減らすことが議論されているが、実際にはその効果は小さいだろう。

第1に、新札を発行しても旧札は使い続けることができる。そのため、タンス預金の旧札をそのままにしておいても問題は生じない。

日本銀行では、1885年から現在までに53種類の紙幣を発行している。その中で、1986年に発行が停止された聖徳太子の1万円札、1974年に発行が停止された板垣退助の100円札、1955年に発行が停止された二宮尊徳や武内宿祢の10円札、などが現在でも利用できる。紙幣が利用できなくなるのは、「法令に基づく特別な措置」が発令された場合のみであるが、それが発令されたのは、現在までに1927年、1946年、1953年の3回しかない。

第2に、それでも、新札が出回るようになると旧札は次第に使いづらくなることは確かだ。日本銀行によると、前回新札を発行した2004年には、1年間で6割の流通紙幣が新札に置き換えられていったという。そのため、タンス預金を持つ人は、保有する旧札を新札に替えていくことが予想される。

それでも、タンス預金を保有する目的に変化がない以上、タンス預金の金額は変わらない。新札発行をきっかけに、タンス預金を取り崩して消費を拡大させるといった効果は期待できないだろう。

今後、タンス預金が取り崩されるとしても、それは物価上昇による現金の実質的な価値の目減りや金利上昇による機会損失(現金で持っていても利子は付かない)の高まりがきっかけだろう。ただし、その結果、たんす預金が取り崩されて銀行預金や株式投資などに回るとしても、それは個人が保有する金融資産の構成(ポートフォリオ)が変わるだけであり、個人消費が増える訳ではない。

一部で、相続税の支払いを避けるために保有されているタンス預金をあぶりだすことが新札発行の狙いの一つ、との指摘も聞かれるが、それは考えにくい。

キャッシュレスを後押しする効果も小さい

また新札発行には、キャッシュレス化を後押しする効果があるとの指摘もあるが、実際には、その効果は大きくないだろう。新札対応のコストを節約するために、販売機などで新札対応を行わない業者は一定数あるだろう。あるいは、この機会に現金でなくキャッシュレスのみに対応する機種に入れ替える業者もあるかもしれない。

しかし、大手を中心に多くの業者は新札対応を行うとみられる中、一部の店舗の機種で新札が使えないからと言って、現金利用をキャッシュレスに切り替える人が、果たしてどれほど出てくるだろうか。

広く流通する最後の紙幣となるか

新型コロナウイルス問題が広がった際に、感染リスクを下げるために現金利用を控える人が増え、日本では遅れていたキャッシュレス化が進んだ。

次にキャッシュレス化が大きく進むのは、新札発行ではなく、日本銀行が中銀デジタル通貨(CBDC)を発行することがきっかけとなるではないか。信用力が高いデジタルの法定通貨をスマホ決済などで利用できるようになれば、人々のキャッシュレス化は進むだろう。そうなれば、日本での現金利用は大きく減少する。

CBDCの発行は、向う数年のうちにも正式に決まる可能性があり、2030年代には実際に発行されるのではないか。そうなれば、来月に発行される新札の流通もいずれ大きく減少するだろう。

日本銀行が1885年から約140年にわたって発行してきた紙幣のうち、本格的に流通し、広く利用される最後の紙幣になるという歴史的な意義が、来月発行される新札にはあるのではないか。

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