バイデン、大統領選離脱のプランB
バイデン大統領が直ぐに大統領選から離脱する可能性は低いか
米CBSテレビの世論調査によると、6月27日に行われた米大統領選挙の第1回テレビ討論会で精彩を欠いた民主党のバイデン大統領が、大統領選挙に「出馬すべきではない」との回答は72%に達し、2月時点から9ポイント上昇した。ただし、共和党のトランプ前大統領についても、「出馬すべきでない」とした回答は54%で「すべきだ」の46%を上回り、共に低評価となった。
CNNによると、6月30日にバイデン大統領一家は大統領専用山荘「キャンプデービッド」に集まり、今後の選挙戦を議論した。ジル夫人、息子のハンター氏らは、バイデン大統領に選挙戦の継続を促したという。
さらに同日には、ジム・クライバーン下院議員、クリス・クーンズ上院議員、ナンシー・ペロシ元下院議長ら民主党の有力議員は、バイデン大統領の支持を表明した。
こうした点から、バイデン大統領が直ぐに大統領選から離脱する可能性は低いように思われる。しかし、8月の民主党の党大会までに出馬を取り下げる可能性は一定程度存在するだろう。それは、民主党にとっては、大統領選挙の代替プラン、プランBとなる。
8月の党大会が激しい選挙戦の場となる可能性
バイデン大統領は民主党の予備選、党員集会で、大統領候補者の指名を確保するのに十分な代議員数を既に獲得している。従って、バイデン大統領に代わる人物を民主党が大統領候補とするためには、まずはバイデン大統領自身が大統領選からの離脱を決める必要がある。仮に、8月にシカゴで開催される民主党全国大会までにバイデン大統領が選挙戦から退く場合には、通常は既に事実上決まった大統領を選出するセレモニーに過ぎない党大会が、新たに候補者を選出する激しい選挙戦の場と変わる。
バイデン大統領に投票するはずであった代議員は、みな中立の代議員となり、自らの判断で投票することになる。そのため、バイデン大統領に代わって民主党の大統領候補となることを目指す人物は、こうした代議員らに投票を働きかけることになる。その結果、党大会は激しい選挙戦の場となり、党内の分裂を引き起こす可能性がある。
他方、バイデン大統領に投票するはずであった代議員らは引き続きバイデン大統領に忠誠心を抱いていることから、バイデン大統領自らが後任の大統領候補を明確に指名する場合には、その人物に投票する可能性が高いだろう。
仮に、党大会終了後にバイデン大統領が選挙戦から退くことを決める場合には、民主党のジェイミー・ハリソン委員長が民主党の知事や議員に相談する必要が生じるなど、より混乱は深まる。
5人の有力後任候補の顔ぶれ
英紙フィナンシャル・タイムズ紙は、バイデン大統領に代わる有力候補者として5人の名前を挙げている。第1に、後継候補として最も自然であるのは、副大統領のカマラ・ハリス氏だ。同氏は、検事、カリフォルニア州司法長官としてキャリアを積んだ後、南アジア系の女性としては米史上初、黒人女性としては2人目の上院議員となった。そして2020年に、女性では初めての副大統領に就任した。
しかし、同氏は国民からの人気がかなり低く、米世論調査サイト「ファイブサーティーエイト」によると、直近の支持率は39%強、不支持率は50%近くに上っている。これでは、バイデン大統領よりも勝算が明確に高まるかどうかは怪しいだろう。
第2の有力候補は、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏だ。今回の選挙戦では、バイデン大統領の代理人を務めている。サンフランシスコ市長としての経験もある同氏は、リベラル色が強く、銃規制、LGBTなど性的少数者の権利、人工妊娠中絶の権利などを声高に主張している。
第3は、ペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ氏だ。同氏は、2022年の激戦州ペンシルベニア州の州知事選で、トランプ前大統領の支持を得た共和党候補に14ポイント余りの差をつけて勝利した。2000年に州司法長官として再選された時の得票数は、同時に行われた大統領選でバイデン大統領が集めた票数を上回り、ペンシルベニア州の政治家として史上最多を記録した。米フランクリン・アンド・マーシャル大学がまとめた4月の世論調査では、州内での支持率は54%に上り、共和党員として登録している有権者の29%からも支持された。
第4は、ミシガン州知事のグレッチェン・ホイットマー氏だ。トランプ政権時にはトランプ大統領への強い批判で知名度を高めた。州議会の上院と下院で議員を務めた後、2018年の州知事選で対立候補を9.5ポイント差で下した。さらに2022年には、共和党候補を11ポイント差で破った。同氏はその後、銃規制やクリーンエネルギーに関する新法の成立など、急進左派寄りの法整備を行ってきた。
第5は、イリノイ州知事のJ・B・プリツカー氏だ。同氏は、米ハイアット・ホテルズを共同で創業した富豪プリツカー家の御曹司である。同氏が大統領候補となれば、豊富な資産が選挙活動の資金繰りで役立つ可能性が高い。2018年にイリノイ州知事に初当選した後、急進左派的な政策を追求して、州内の最低賃金を15ドルに引き上げたほか、嗜好用の大麻を合法化し、中絶手術やジェンダー医療の提供を保証し、殺傷力が高い銃を禁止するなどの政策を推し進めてきた。
バイデン大統領が選挙戦を離脱する場合、以上の5人の有力候補、あるいはそれ以外のいずれの人物が後任になるにしても、全米の国民からの支持を獲得するには一定の時間がかかる。
冒頭で見たように、バイデン大統領が直ぐに大統領選から離脱する可能性は低いように思われるが、以上の点から、バイデン大統領が最終的に離脱を決める場合には、その決断は、早ければ早いほど民主党にとっては有利となるだろう。
(参考資料)
"After Biden's Poor Performance, Could Democrats Replace Him as Nominee? (バイデン候補の交代はできるのか?)", Wall Street Journal, June 28th 2024
「候補者交代なら…米民主党、5人の「ポスト・バイデン」」、2024年7月1日、 NIKKEI FT the World
「バイデン大統領「出馬すべきではない」72%…CBS世論調査、トランプ氏は54%」、2024年7月1日、読売新聞速報ニュース
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