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南海トラフ地震への警戒が経済に悪影響:旅行関連消費は1,964億円程度減少も

2024/08/13

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南海トラフ地震臨時情報の発表

8月8日に、宮崎県の日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生した。この地震で宮崎県日南市では最大震度6弱が記録された。日向灘を震源とする地震で震度6弱以上の揺れを観測するのは1919年以降で初めてである。またマグニチュード7以上は1984年8月のマグニチュード7.1以来の規模だ。

後続するさらなる巨大地震の可能性が相対的に高まっているとして、気象庁は南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表した。政府は、南海トラフ地震防災対策推進地域に対して、地震発生から1週間、日頃からの地震への備えの再確認や、揺れを感じたら直ちに避難できる態勢をとるように呼びかけている。

南海トラフ沿いでは、地震発生後に時間差で巨大地震が発生した事例が知られている。江戸時代の1854(安政元)年に起きた安政東海地震の約32時間後には、安政南海地震が発生した。また、1944年の昭和東南海地震の2年後の46年には昭和南海地震が起きている。

とりあえず地震発生から1週間が強い警戒の目途ではあろうが、過去の例を踏まえるとそれ以上の期間、大規模な南海トラフ地震発生への警戒は続くだろう。

まずは、多くの人命を危険に晒す大規模地震が発生しないことを強く願うばかりではあるが、実際には予測は難しいことから、従来以上に地震への備えが求められる。

地震発生後には消費活動は委縮

地震発生への警戒や備えは、経済活動を委縮させる面がある。過去には、阪神大震災や東日本大震災の発生後に、経済活動の低下が生じたことが確認されている。東日本大震災の発生後の経済への悪影響は、地震による自動車産業でのサプライチェーンの遮断や原発事故による電力不足によるものが大きかった。今回はこのようなことは起こっていないが、先行きの地震発生への不安から、消費者は消費活動を控える動きをするだろう。

内閣府によると、震災後は消費者マインドが委縮し、消費者は必需的でない財・サービスの購入を控える傾向がある。東日本大震災後の百貨店の売上高は、東北地区のみならず東京地区及び全国ベースで見ても、2011年3月に大きく落ち込んだ。阪神・淡路大震災直後の1995年1月においても、神戸地区のみならず全国ベースでも百貨店売上高は一時的に大きく減少していた(内閣府)。

ただし、震災後に最も顕著に表れるのは、旅行・レジャー関連だろう。震災後には自動車など高額耐久財の消費を控える傾向もみられるが、他方で生活必需品の買いだめの動きも生じることから、財消費への影響は比較的限定的だろう。

夏休みを直撃

今回の地震はお盆直前に生じたことから、帰省や夏休みの旅行を控える動きも出ただろう。南海トラフの対象地域では、旅館・ホテルの宿泊のキャンセルが増加している。地震と津波の発生に備えて、閉鎖される海水浴場も出ている。また、花火大会などのイベントの中止も聞かれるところだ。

観光庁の国内居住者の旅行・観光消費動向調査によると、1年の中で夏休みを含む7-9月期が、旅行消費が一番増加する時期であり、2023年には年間の29.2%がこの7-9月期に集中する。

東日本大震災が起きた2011年に旅行・観光消費は前年比で3.4%下落した。南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)による個人消費の顕著な抑制傾向が、3か月程度続き、その際の落ち込みが東日本大震災の前年比-3.4%になると仮定してみよう。

2023年の実績から、旅行・観光消費は3か月間で1,862億円減少する計算となる。さらに、外国人入国者の国内での旅行関連消費。インバウンド需要も同じ程度減少する(2024年4-6月期まで1年間で6兆9, 700億円)と仮定すれば、それは592億円となる。両者を合計すれば2,454億円である。

旅行関連消費を3か月間で1,964億円減少させると試算

さらに、地震による旅行関連支出の落ち込みは、気象庁が南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の対象とした1都2府26県に限定されると仮定しよう。内閣府県内総生産(2021年)によると(公表されていない都道府県もある)、対象となる1都2府26県の総生産は、全国の80.1%に相当する。そこで、2,454億円の80.1%を計算すると、1,964億円となる。

いくつもの前提を置いた上での概算ではあるが、これが、宮崎県の日向灘を震源とする地震と気象庁による南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)発表を受けた、個人消費活動への悪影響を、その中心となる旅行関連支出について試算したものとなる。

今後の地震頻発によって個人消費の委縮傾向は増幅も

この1,964億円は、年間名目GDPの0.04%程度と、日本経済を即座に冷え込ませるほどの規模ではない。

しかしながら、円安によって増幅された物価高懸念が個人消費を長らく低迷させ、さらに足元では株価の大幅下落によって日本経済の先行きに不安が高まっている中、個人消費活動を一層委縮させる要因になるだろう。

また今後も地震が頻発し、南海トラフ大規模地震への警戒が強まれば、旅行関連を中心に個人消費を控える傾向は、上記の試算以上に強まり、そして長引く可能性も考えられる。

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